第162話 連隊長赴任の号砲

 大陸中央部

 王都ソフィア


「自衛隊も駐屯地から動けん。

 連隊長がまもなく王都に到着するから、勝手に部隊を動かせないそうだ」


 すでに出動済みの第3中隊だけは例外だ。

 この頃になると出動を渋っていた中隊隊員達も到着し、勢揃いしたところだった。

 増援が遅れる件は困るが、連隊長が王都ソフィアに到着すれば連隊全体が出動可能となる。

 なによりも 


「連隊長が来るなら機動戦闘車中隊も一緒だな?」


 第18即応機動連隊連隊長直江龍真一等陸佐の王都ソフィア駐屯地への赴任が遅れていたのは、各植民都市への挨拶まわりもあったが、後続として本国から到着した第18機動戦闘車中隊を引き連れてくる為だ。

 問題はこの中隊が装備している機動戦闘車とやらが、華西民国製の11式105mm装輪突撃車だった。

 転移前に開発された兵器の再現を試みる華西民国だが、少数生産ではコストが掛かる上にろくにデータも実物もない。

 しかし、自衛隊には16式機動戦闘車を開発する際に比較参考にする為の情報が多少はあった。

 国産兵器の生産が間に合わない日本国政府は、11式105mm装輪突撃車を一部購入することで、18即連への配備を間に合わせたのだ。

 直江一佐は王都ソフィアに到着するが、駐屯地に寄らずにムコドが暴れる地点に部隊を散開させ、近隣の路地に隠れた二両に最初の命令を下した。


「まさか王都に赴任前に出撃命令を下すなんて考えもしなかったな。

 各車両へ、視界に敵本体が見え次第、攻撃を許可する」


 第18即応機動連隊連隊長直江龍真一等陸佐は、引き連れてきた同連隊所属の第18機動戦闘車中隊の11式105mm装輪突撃車12両に攻撃を命ずるが、肝心の攻撃はなかなか始まらない。


「6号車がようやく所定の位置に着けそうだと……」

「そうか、第3中隊の方は大丈夫か?」


 同連隊所属の普通科大隊第3中隊は、件の植獣や眷族とおぼしき植物系モンスターを足止めするべく攻撃を続けていた。

 位置的には直江一佐が乗車する12式指揮通信車型とは、植獣を挟んで反対側に布陣している。

 対して直江一佐は11式105mm装輪突撃車を植獣を半包囲させようと移動させたが、これが上手く進まない。

 地理に不案内なせいもあるが、近衛騎士達が派遣されて来て誘導はしてくれている。

 問題は王都の道が大型車両が走行出来るくらいに広い道が少ないからだ。

 もともと王都ソフィアは、皇国時代は皇弟であるソフィア大公爵家の領都に過ぎなかった。

 それが先の地球側との戦争により皇国は崩壊、新たに建国された王国の王都にソフィアはなってしまった。

 当然ながら大陸を統べる首都としては、ソフィアは手狭であり、王城も新たに建築された。

 王城や貴族達の屋敷、駅に鉄道、自衛隊駐屯地等はソフィア郊外に造られ、新市街を形成した。

 新市街ならば軍の移動や車両の走行が考慮されている。

 対して旧市街はせいぜいが馬車が走れる程度で避難民も混乱に拍車を掛けている。

 冒険者や衛士、近衛兵達が避難民の誘導や呼び掛けを行っているが、効果を上げていない。


「八号車を運河にいれろ。

 11式は水上に浮航する機能がある。

 スクリュー付いてるしな」


 11式105mm装輪突撃車は水に浮航能力を持ち、車体後部には、プロペラを装着している。

 もともとは当時の新香港政府の要請で、ベースとなった08式歩兵戦闘車の再現、生産されたことによる多様な派生車種のファミリー化構想の一環として開発された。

 幸いにして08式歩兵戦闘車の輸出版VN-1歩兵戦闘車のデータは米軍が何故か保有していたし、異世界転移の際に外国人保護の見返りとして吐き出させた技術情報で完成に漕ぎ着けた。

 これは転移後も開発が進められていた16式機動戦闘車のファミリー化構想の参考にするためでもあった。

 直江一佐が乗車する12式指揮通信車型だけは、日本独自仕様だ。

 最初にこの装備が引き渡されると聞いた直江一佐の驚愕の表情は語り草となっている。

 この件の問題は、発注した当の新香港政府に購入資金が無かったことだ。

 新たに建国した華西民国との協議が終わるまでは宙ぶらりんの兵器となり、倉庫でホコリを被っていた。

 第18即応機動連隊の任務の一つにこの装備を使い倒して、国産兵器の配備後に中古として華西民国へ売却する事が加わっていた。

 よって使いまくる前提なのに損失は許されないという嫌がらせのような気分になっていた。


「あまり弾を使うなよ。

 補給が何時になるかわからんからな」

「8号車、発砲開始!!」


 砲弾は自衛隊と共通の91式105mm多目的対戦車榴弾だ。

 放たれた砲弾の着弾は大きな爆発を起こし、植獣ムコドを飲み込んでいく。


「お、おい大丈夫なのか?」

「こっちに着弾することはまずないから手を動かせ」


 植物系モンスターと市街戦を繰り広げて足止めを図っていた近衛騎士隊長レナードは、爆発の大きさに肝を冷やしながら一緒に戦っている今一等陸尉に怒鳴りながら苦言を呈している。

 すでに弾薬は尽きて、64式7.62mm小銃に64式銃剣でマンドレクの幹を斬り付けるが長さが足りていない。

 まわりでは隊員達が銃火器で援護し、近衛騎士や近衛兵達が剣で植物系モンスターを切り刻んで応戦するが、打撃力不足は明らかだった。

 ジェットモゲラこと坑道掘削装置も拠点防御を捨てた植物系モンスター達には些か足が遅い。


「使え」


 レナードから渡された魔法の剣を抜き、マンドレクの幹を一閃のもとに両断する。


「これいいな、くれ」

「家宝だ。

 後で絶対に返せよ」


 今一尉個人の状況は改善したが、第3中隊全体ではそうもいかない。


「全力射撃しながら全隊、後退!!

 ヒトマルを前に出せ。

 制圧射撃をさせながら前進させろ」


 この場合のヒトマルとは、大陸には配備されていない10式戦車のことではない。

 08式式歩兵戦闘車ファミリーの一つで、10式装甲兵員輸送車のことだ。

 兵員室の天井高を嵩上げされ、兵員輸送能力を13名に拡大している。

 第3中隊にも10両が配備され、車体上部の手動式の12.7mm機銃の銃座から一斉に射撃が開始される。

 大急ぎで隊員や近衛達が後退する中、植物系モンスター達が粉砕されて身動きがとれなくなっていく。

 その身体を寸断されても生命活動が停止せずに抵抗しようとする姿は驚異だったが、すでに脅威からは程遠かった。

 疲れきったレナード近衛騎士隊長と今一尉はもう暫くは監督役として現場に残らないといけなかった。


「後始末は冒険者に任せよう。

 空き地で薪代わりに灰に変えてやる」

「結局こいつらはなんだったんだ?」


 自衛隊から唐突に王都ソフィアに魔物の群れが大発生したようにしか思えない。


「そのうち宰相府から駐屯地に説明が行くさ。

 あ、剣は返せよ。

 物欲しそうな顔をするな。

 魔法剣が欲しければ商会長の屋敷に幾らかあるだろ。

 戦利品として貰っておけばいい」

「いや、公務員的にそれはまずいんだ。

 まあ、贈答品の類いもまずいんだが」


 魔法具商会は縁故の人間が跡を継ぐことが求められるが、本人にその気が無ければ各店長達が各々の店を買い取り、独立することになる。

 何れにしても暫くは魔法具が大量に売却され、値崩れすることは必至だった。


「ま、そいつを狙ってみるか」



 直江龍真一等陸佐は駐屯地に入り、副連隊長の草壁二等陸上佐、普通科大隊大隊長伊東信介三等陸佐、本部管理中隊隊長の小代一等陸尉といった連隊幹部が出迎える。


「着任早々御苦労様です」


 草壁二佐の言葉に苦笑ふる。


「王都がこんなに物騒なところとは知らなかったな」

「まだ宮廷の連中との戦いが残ってますよ。

 早速、歓迎パーティーのご招待が明日から」


 礼儀作法は、宮内庁の役人に仕込まれている。




 ソフィア駅のロビーで、アメリアは切符購入の説明書きポスターを読んでいた。

 丹精込めて育てていたネコドもあっさりと倒されたこと悲しみよりもドン引きしていた。


「何あのデタラメな力は?

 ひくは~、やっぱりいきなり王都は無理だったのかな?

 小さな村からコツコツやろうっと」


 狙いは南部の村だが、東部からは多数の同胞の『声』がしていた。

 まずは手駒の補充が必要だった。

 券売機で目的の駅の切符を購入する。


「日本国龍別宮町は新京を経由して行くのね。

 どのくらいで着くのかしら?」

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