第120話 戦力再編
大陸東部
新京特別行政区
「対外的にはこんなものか。
次は今回に限らず、我々が軍事的に精彩を欠いたのは都市防衛を優先してたからだが、これ対して抜本的な配置替えを行う」
まずは陸上自衛隊の大陸東部方面隊司令高橋二等陸将が、自衛隊の配置替えを説明する。
「まずは沿岸部9都市を北から」
福原市
・第16特科連隊
神居市
・第16師団司令部
那古野
・海上自衛隊地方隊
・第6地対艦ミサイル大隊
・水陸機動大隊
新京特別行政区
・陸上自衛隊大陸派遣隊総監部
・第6教育連隊
・警視庁SAR連隊
中島市
・航空自衛隊第9航空団
古渡市
・第16即応機動連隊
福崎市
・第33普通科連隊
稲毛市
・第50普通科連隊
西陣市
・第16後方支援連隊
「と、配置します。
続いて東部中央都市は」
東部中央都市群は何れも沿岸から100キロの地点に建設されている。
「浦和市に第17師団司令部並びに第17即応機動連隊、鯉城市に第34普通科連隊並びに第17特科連隊を配備します。
現在建設中の杜都市ですがこちらは予定通り第51普通科連隊並びに第17後方支援連隊が配備となります。」
高橋陸将の説明に秋月総督は渋い顔をする。
「多少はマシになっただけで、問題の先送りでしかない。
しかし、現状の戦力ではこれ以上は無理だ。
杜都市以降は市民を無防備に晒すことになる。
いよいよ、本国に増援を頼む時が来たようだ」
ようは本国自衛隊からの派遣だ。
今までこの要請が実施されて無かったのは、本国防衛に固執する政府が渋っていたからだ。
「もう大都市圏の人口も激減してますからね。
今なら政府も重い腰を上げてくれるかも知れません。
今、現在日本本国の人口1位の市が千葉市だとは転移前なら冗談としか思えませんが、それだけ防衛対象が減ったということです」
秋山補佐官の言葉に全員が頷く。
「陸自に関しては、現在語れるのはこれくらいか?
猪狩海将、海自についても頼む」
「はっ!!
海自は那古野市に新たな根拠地を定め、市の防衛も携わります。
新たに創設した第八特別警備中隊に陸自と同等の地上戦装備と車両を与えて防衛に勤めます。
また、基地要員にも都市防衛に専念させた訓練を施します」
「結構だ。
それで、本国が寄越してくる護衛艦は何かわかったか?」
先程まで明朗に説明していた猪狩三等海将が言いづらそうな顔をする。
「護衛艦『いそゆき』だそうです」
護衛艦『いそゆき』は、艦齢45年以上の最古参の護衛艦だ。
転移前に一度除籍処分を受けて、スクラップ業者に売却された。
転移後に戦力の拡充を図る防衛省が慌てて買い戻し、再艤装を施して、再就役させた曰く付きの艦だ。
「老朽艦ですが、先年も海賊艦隊や栄螺族との交戦で戦果も挙げています。
とにかく『しらね』、『くらま』、『いそゆき』で、第16護衛隊はようやく3隻体制になりました。
少しはローテーションが楽になります」
猪狩海将の疲れた顔に秋月総督はコメントを控えて、澤村三等空将に話を振る。
「空自も戦闘機を大量に送り込んで来るようだが、まわせる油は少ないぞ?」
戦闘機48機も送り込んで来るのだが、使い道に困る話だった。
「航空自衛隊も基地警備隊を拡充して中島市防衛に務めます。
送られてくる戦闘機の為に格納庫の建設や滑走路の造営をお願いしたいのですが?」
「予算と人員は出そう。
しかし、本国に戦闘機がそんなに有ったのか?」
そこは触れて欲しくなかった澤村空将は観念する。
「送られてくる戦闘機はF-4EJ(改)です。
現状の飛べる機体全部のようです」
「本国の連中は我々のことを馬鹿にしてるのかな?」
「いや、こっちでは十分に戦力になりますから」
大陸東部
中島市
航空自衛隊中島基地
大陸最強の航空戦力である航空自衛隊第九航空団の基地は、新京からこの中島市に移転となっていた。
新京特別行政区は、人口に定数制限を設けてはいたが、工場の増設や商業地区の発展とともに手狭になりつつあった。
建設された植民都市も各々の色を持つ産業を欲していた。
航空機の部品を造っていたメーカーも続々と移転し、部品の製造から修理、製造を一括で請け負う合弁会社が設立された。
元々、各メーカーも転移の影響で経営破綻し、休業していた会社ばかりだ。
合弁会社は本社が置かれた市の名称を採って、『中島飛行機株式会社』と命名された。
「この名前、どっかから怒られないかな?」
「ノリノリで提案してたのは、どこの誰ですか」
「中島は地名だ。
問題無いはずさ」
年が明けてから株主の一人の石狩貿易CEO乃村利伸は、企画部長の外山と新たに建設された中島国際空港の掃除と観葉植物をレンタルする子会社の利権の調整に来ていた。
だがそれ以上に趣味が半分混じって空港展望台にいた。
「お?
来た来た、やっぱりここなら空自の滑走路も一望出来るな」
展望台備え付けの望遠鏡で、滑走路に並べられていく戦闘機にはしゃぐ声を挙げる。
トラックに乗せられていたF-4戦闘機が牽引車に牽引されて並んでいく。
「F-4EJ改か、よくまだ飛ぶよな」
「全部が飛ぶわけでは無いようですよ?
共食い整備で、部品が抜かれた機体も持ち込まれてますから」
「なんだそうなのか、中島飛行機は部品を造らんのか?」
「繋ぎの飛行機ですからね。
中島は委託生産のF-2の工場をこちらに造るのに興味が集中してるみたいです」
ロマンを介せぬ外山の言葉に乃村は不満そうな顔をする。
各航空団のF-2戦闘機は6機しかない。
F-15戦闘機も老朽化しつつあり、現状のこの世界で制空戦闘機の需要が減りつつある。
自衛隊に匹敵する戦闘機は、米軍や北サハリン、僅かに高麗国や華西民国機があるが、何れの国も航空機を生産する能力を持っていない。
「ならば攻撃機として能力が優先されるのか、つまらん話だ。
F-2も好きな方だが、あれはどうするんだ?」
格納庫から姿が覗けるF-35AJ戦闘機を指さす。
辛うじて転移前に米軍が持ち込んでいたF-35B戦闘機を元に日本が開発した。
地球で米軍が開発していたF-35A戦闘機よりは些か劣ると推定されている。
生産は年間1機という有り様で、第9航空団にも1機しかない。
「ステルス戦闘機なんて、この世界は使い道が少ないですからね。
技術力の保持の為に生産が片手間に行われてるだけです」
「燃料代もバカ食いするからな、政府が大陸にF-4を押し付けてきたのもそのへんが理由だろう。
さて見学は終わりだ、商談に行くぞ」
中島基地は中島国際空港に併設される形で、建設されている。
土地だけは余っているので、滑走路は別々だ。
澤村三等空将は滑走路に並ぶ戦闘機を見て、溜め息を吐いていた。
「どうやってこの街を守れと言うんだ?」
基地警備隊を転用するとしても一個小隊しかいない。
これで中島市をどう守ればいいのかさっぱりわからなかった。
「暇な隊員を当番制にして編成しますが、それでも二個中隊程度です。
各レーダーサイトの警備は、陸自の現地部隊に任せることが出来ましたので、そちらの要員も呼び戻します」
幕僚の真壁二等空佐も頭を抱えている。
どんなに取り繕っても300人が限度だ。
「警察が空港が国際空港に指定されたから、新京国際空港機動隊をまわしてくれるそうだ」
元は千葉県警察成田国際空港警備隊の警察官達で、転移後は、成田空港が開店休業状態のため、ゲリラ活動も活動員の高齢化により下火になり縮小を余儀なくされた。
他の都道府県警察や皇宮警察からの出向者達は、元の配属先に戻り、成田空港には機動隊一個中隊を残して、新京国際空港に中隊規模で異動となっていた。
「こちらが運用開始になれば、あちらは縮小していずれは閉鎖ですからね。
有り難く防衛隊に組み込みましょう」
自衛隊を含む都市防衛隊の任務は、近隣に出没するモンスターの駆除から、上は皇国残党軍、下は盗賊団の討伐、都市外壁による哨戒配置に、都市近郊のパトロール等、多岐に渡る。
連隊規模の隊員が欲しいが、4割程度しか都合できない。
「さてどうしたものかな」
澤村空将の悩みは当分解消されそうに無かった。
大陸東部
那古野市
海上自衛隊那古野基地
港に面した海上自衛隊の基地に第16護衛隊に新たに配置された護衛艦『いそゆき』が入港してきた。
艦長の石塚二等海佐と砲雷長兼副長の神田三等海佐がタラップを渡り、降りてくる。
「ようこそ那古野基地へ。
『しらね』艦長の明智二等海佐だ」
「『いそゆき』艦長の石塚二等海佐です。
しかし、よくこんな短期間に基地なんて造れましたね」
「元々、どの都市の港にも我々用の桟橋や滑走路は確保されてるからな。
陸自の仮駐屯地もあるぞ」
桟橋には護衛艦だけでなく、海保の巡視船や水産庁の漁業取締船、消防庁の消防船が停泊している。
「あれはどこの船ですか?」
「国境保安局の税関監視船だな」
税関は異世界転移でその役割が大幅に縮小されてしまった。
大半の職員は国境保安隊に編入となっている。
「大半の官公庁の船舶がここに集められている」
3人はこの基地の主に挨拶の為、地方隊総監部の庁舎に向かって歩きだす。
燃料の節約の関係で車は用意されていない。
徒歩だとそれなりに距離があるが、港の様子を眺めるにはちょうど良かった。
那古野市は中島市と反対に造船関係の会社が集中した。
造船ドックでは大型輸送船が建造されている。
皇国との戦争後は、賠償の食料や鉱物資源を運ぶのに大量の船舶が必要になった。
移民を送り届けた後に積み荷が空になった客船にまで積み込む有り様だった。
どの船舶も老朽化が目立ち始めたので、造船ドックはフル稼働で、輸送船や貨物船の造船が始まったのだ。
本国のドックも手一杯なこともあるが、失業者対策で大陸でも造船が行われてる事情もある。
こちらは航空業界と違い、転移直後から大忙しなので倒産したり、休業した企業はほとんど無いのは救いだった。
「ゆくゆくは高麗国の玉浦造船所を上回る規模になるはずだ」
「そう言えば気になる事があるんですが、海自がこの都市の防衛を担うそうですが、我々も駆り出されるのでしょうか?」
神田三佐がおそるおそる聞いてくる。
「那古野市には陸自から出向している水陸機動大隊や第6地対艦ミサイル大隊等が1000人はいる。
海自の第8特別警備中隊、各艦の警備班、基地要員の選抜隊と合わせれば700人は自衛官だけで賄える。
海保の特別警備隊やSSTとかもいるし、さすが
艦艇の乗員は出さないと思うんだが」
陸自の水陸機動団は相変わらず水陸両用車の配備が進んでいない。
それでも予備隊員やLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇や艦載ヘリコプターで運ぶ事を想定され、二個中隊に増員されていた。
海上自衛隊基地の警備を任務とする陸警隊が地方隊の基地としては、多めなのは海自の航空隊の基地も併設されてるからだ。
「まあ、中島や那古野は新京に隣接しているから直ぐに援軍が来る態勢なんだ。
我々が普通科みたいに戦うより、港から艦砲でも撃った方がよほど防衛に貢献出来るんじゃないかな」
都市防衛計画が場当たり過ぎて不安を覚える石塚二佐と神田三佐であった。
「もう一隻来たか」
明智二佐の視線の先には、上部構造物が大破したフリゲートがタグボートに牽引されて入港してきたところだった。
「聞いてるだろ?
あれが『ゲティス』さ。
ここのドックで修理した後にアル・キヤーマ市に引き渡される」
テュルク民族連合が使用した元トルコ海軍G級フリゲート『ゲティス』は、その無惨な姿を那古野港に晒していた。
「この世界の力をあんまり舐めるな、という教訓だな、あれは」
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