第114話 駆除始末

 大陸東部

 浦和市


 解体と救助が進む中、1機の大型輸送機が建設中の自衛隊浦和駐屯地の滑走路に着陸した。

 AN-124 ルスラーン、転移前の2014年末頃から、ヴォルガ・ドニエプル航空の保有する機体が国際チャーター貨物便として中部国際空港へ毎日のように飛来していた。

 転移に数機が巻き込まれており、北サハリン共和国に籍を置いているが、ほとんどが日本に保管されていた。

 そのうちの1機は新京空港と仙台空港の定期便を担っていた。

 陸上自衛隊にはイラク派遣やパキスタンへの国際緊急援助活動で、CH-47を輸送したことで馴染みがある。

 最大ペイロードは150トンを誇り、福島第一原子力発電所事故時には、注水活動に使う60トンのコンクリートポンプ車を輸送を可能としている。

 その機体の内部から装輪装甲車(改)6両か各々に一個分隊のSAR隊員を乗せて、飛び出していく。

 今度のSAR隊員は新京に到着したばかりだった第3中隊のフル装備の隊員達ばかりだった。

 装輪装甲車(改)の後からは人員輸送車が一個小隊の隊員を乗せて後に続く。

 一路、郊外の森にある巣に向かう。

 彼等の目に映ったのは、巣から叩き出されていく同僚の姿だ。


「構わん突っ込め!!」


 約20トンの重さがある装輪装甲車(改)は、女王スティングの羽ばたきにも屈しない。

 女王スティング自体は巣の天井の低さの為に飛ぶことは出来ていない。

 重機が切り開いた道を通り、装輪装甲車(改)が巣の中に飛び込んでいく。

 人員輸送車から降りた隊員達も羽や頭部を狙い、射撃で援護をする。

 装輪装甲車(改)は、女王スティングが巣から外に飛び立つ前にその胴体部に体当たりをかました。

 さらに銃眼や窓から89式小銃による一斉射だ。

 他の装輪装甲車(改)体当たりをして、射撃が始まる。

 至近距離からの射撃に、女王スティングは体中に無数の穴を開けられ、地に伏していった。


「降車!!」


 女王は倒れたが、戦いはまだ終わらない。

 各装輪装甲車(改)から降り立ったSAR隊員達により、残ったスティングや幼虫の掃討が行われた。








 新京特別行政区

 大陸総督府


「追加報告による警官達の殉職41名、民間人の死者は36名です。

 卵を埋めつけられた犠牲者は外科手術である程度は処置出来ました」


 秋山補佐官の報告に、秋月総督は沈痛な面持ちで聞いている。


「本国政府は第17後方支援連隊を来年早々に送り込んでくる。

 彼等は浦和市に駐屯するとして、SARは次の都市と考えていたが、警察庁は些か勇み足を踏んできたな」

「と、言いますと?」

「政府が許可したのは、大隊規模の700名だけだそうだ。

 SAR(Special Assault Regiment)どころか、SAB(Special Assault Battalion)だ。

 しかもそのうちの400名は訓練部隊の要員だというから舐められたものだな。

 まあ、今後とも随時追加はあるからSARの呼称は認める。

 しかし、それでもこれほどの人員を警察が送り込んでくるとは、それほど本国の人口も減ったか」


 資料によると転移12年目の日本本国人口は、1億1800万人を割ったという。

 大陸に移民した日本人は880万人に及ぶ。

 出生数は毎年上昇しているが、死者の数には追い付かないのが現状だ。

 警察も自分達の行き場に焦りを感じているのかも知れなかった。


「ところで浦和市はスティングの巣の処理に困ってるそうですが……」


 主の失った巨大な蜜の固まりに多数の虫や動物、モンスターが群がっているらしい。

 また、大陸人の冒険者も蜜やモンスターを狙って集まっているらしい。

 一種のダンジョン化しているらしい。

 日本人からは、同胞の血を吸った血生臭い蜜は御免被りたいが、大陸人は気にせずに珍重されているらしい。

 人食いモンスターを遠慮せずに食っていることを気にしないのは、文化の違いとしか言えない。


「巣の放置が長期化すれば他のスティングを呼び寄せる可能性がある。

 後腐れが無いように焼き払え」


 蜂の巣は完全に除去しないと、戻り蜂という残党に巣を再建されることがある。

 モンスター化した蜂であるスティングもこの習性がある。

 駆除業者や専門家の意見を聞きながら、巣の完全除去の命令が下された。



 この事件は昨年から続く、モンスターのスタンピードの一貫だった。

 日本の支配領域では初めてのケースだったが、大陸の各所ではどこかの街が襲われ、村がモンスターの群れに飲み込まれた事案が多数発生していた。

 それに対して、王国軍や貴族私兵軍が対処に当たっているが、沈静化の目処が立っていない。

 そもそもの原因が日本を含む地球系連合軍による戦争により、皇国軍の壊滅や貴族私兵軍の弱体化し、モンスターの間引きが出来なくなったからだ。


「つまりは我々のせいか」

「ドワーフ難民にも手を焼いているんです。

 王国民がこちらで難民化しないよう対処しましょう」


 他のところがどうなろうと、基本的には知ったことでは無かった。



 日本国

 神奈川県横須賀市

 陸上自衛隊 武山駐屯地


 武山駐屯地は、海上自衛隊横須賀教育隊、横須賀音楽隊、衛生隊、航空自衛隊武山分屯基地を隣接させており、敷地や一部の施設は共用されている扱いとなっていた。

 転移後の再編で第52普通科連隊が駐屯しており、隊員の増員でやはり手狭になっていた。


「海自さんが引越しに同意してくれて助かったよ」


 連隊長の朝比奈一等陸佐は、胸を撫で下ろすように海自教育隊の引越し作業を連隊司令部庁舎から眺めていた。

 引越しには連隊隊員を手伝わせて、移転先の旧在日米軍吾妻倉庫地区にも同行させる。


「しかし、吾妻島は地続きじゃないだろ?

 どうやって渡るんだ」


 吾妻倉庫地区のある吾妻島は、元は箱崎半島と呼ばれて地続きだったが、明治22年に掘削されて島になった経緯がある。

 爆薬を仕掛けて無理矢理水路を作り、燃料や火薬庫が置かれた。

 太平洋戦争後もやはり米海軍の燃料や武器弾薬が大量に貯蔵されていた。

 転移後の混乱による燃料不足や皇国との戦争における武器弾薬不足を補う大きな一助となって、日本国に島ごと返還され譲渡される。

 どう考えても在日米軍はおろか、米軍全体が十年は戦えそうな貯蔵量を在日米軍基地全体に残していたのは謎とされている。

 現在は海上自衛隊横須賀基地所属の特別警備隊第一中隊の基地が置かれている。


「最近、仮設の橋で渡れるようにしたみたいですよ。

 やっぱり不便でしたから」


 武山駐屯地司令にて、52普連副連隊長の横瀬二等陸佐が言うように吾妻島は明治の頃から民間人立ち入り禁止の島だった。

 それは在日米軍時代も変わらず、転移後の現在も続いていた。


「落ち着いたら視察にでも行ってみるか」

「釣竿は置いて行って下さいね」


 吾妻島の釣り場ではシロギスやカレイが吊れたりするのだ。

 海に面したけど武山駐屯地では、スルメイカやヤリイカが吊れる。

 隊員達がイカの干物工場を駐屯地内に勝手に建築したことは、公然の秘密になっている。


「海自の連中も下手に探ろうとしなければ追い出されなかったのにな」

「いや、冗談ですよね?」


 朝比奈一佐は肯定も否定もせずに書類仕事をやりだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る