第69話 複雑な心境

 北海道木古内町

 木古内駅


 木古内駅の新幹線口は北海道警第3機動隊二百名体制でし封鎖されていた。

 北海道警第3機動隊は転移後に新設された隊で、北海道の札幌市を除く道内全域を管轄としている。

 新幹線ホームには、北海道警SAT一個小隊が完全武装で展開している。

 こちらも転移後に大幅に増員されている。

 過剰な警備と疑問を呈されるが、北海道警も政府も沈黙を守っていた。

 これらの厳重な警備を掻い潜って侵入しようとするマニア達とのいざこざが多少はあったが、概ね順調に警備は遂行されている。

 だが守られる側が懐疑深く見ていたことは、彼等も知るよしがなかった。


「人族の兵士に守られてるとは不思議な気分だな」


 海亀人から派遣された領事が、窓から外の様子を眺めてため息を吐く。

 座席には海蛇人とイカ人の領事達が同席している。

 他にも最後尾車両にこれら三種族から派遣された『職員』達が座っている。

 新幹線の臨時運行の理由の表向きは、十津川国土交通大臣の選挙の為の地元来訪だが、本当の目的は彼等海棲亜人により組織された外交官達の輸送だ。

 深夜のうちに護衛艦に誘導されて函館港に到着した彼等は、カーテンを締められたバスに乗せられて木古内駅に到着した。

 彼等の姿が人目に付かないように、明け方に警察の大型車両を並べて、目隠しをしながら木古内駅に入った。

 駅内でも機動隊が盾を構えながら整列し、作られた道を足早に新幹線まで誘導されて乗車した。



「我等は高麗という国に攻めこんだ。

 この北海道は高麗本国から比較的遠いことから、危険を避ける為にとは理解は出来るが」


 イカ人の領事も触腕を組んで考え込む。

 高麗の民のしつこさは日本人から散々聞かされたが、他国でそのような活動を許す日本国の方針も意味不明だった。


「シュモク族と螺貝族の連中は車両をそれぞれ一両割り当てられてるぞ。

 扱いの格差の方が気が滅入るというものだ」


 海蛇人の領事も気落ちしている。

 この三種族はシュモク伯邦国の傘下に収まるので、格が落ちるのは仕方がない。


「螺貝族の連中も日本と武力衝突があったと聞いている」

「死人を出したか、出さなかったかの違いらしい」


 納得のいかないイカ人領事に海亀人領事が理由を説明する。


「その理由だと、我等は死人を出させて無いのだがな」


 シュモク族に制圧されて同じ立場となった海蛇人領事の気分はさらに落ち込む。

 道の駅で演説中の十津川大臣が、この新幹線に乗り込めば新幹線は出発する。

 十津川大臣の演説内容は、来年度の規制緩和で新幹線事業の月一本路線の復活だった。

 十津川大臣の政治家としての最期の仕事となる。

 演説内容は車内の領事達にも聞こえていた。

 あと半日は車両内で待機させられるのは些か辛かった。


「しかし、一番衝撃だったのは我等が攻めこんだ地は何れも日本では無かったことだな」

「今となってはそれだけは幸運だったな」


 車両の外側で警備を行っていたSAT隊員達が思わぬ潮臭さに辟易していたことは、彼等も知るよしもない。

 それでも新幹線の復活の演説は、彼等の顔に希望を浮かばせていた。






 新京特別行政区

 大陸総督府


 大陸の最高権力者、秋月総督は陸上自衛隊第16師団師団長青木和也三等陸将から、第16師団の新たな配置に付いて報告を受けていた。


 福原市

 ・第16特科連隊


 神居市

 ・第16師団司令部


 那古野

 ・海上自衛隊地方隊

 ・第33普通科連隊


 新京特別行政区

 ・陸上自衛隊大陸派遣隊総監部

  ・第16即応機動連隊


 中島市

 ・航空自衛隊第9航空団

 ・第50普通科連隊


 古渡市

 ・第16後方支援連隊


 福崎市

 ・第34普通科連隊






「方面隊諸部隊はまだ時間が掛かるかな?」

「第17師団設立と同時にですので、2年後になるかと思います。

 また、福崎市には第34普通科連隊が駐屯します。

 大陸中央部の第17即応機動連隊は王都ソフィアで当面は頑張ってもらいますが、来年到着の第51普通科連隊到着後は交代してもらいます」

「ふむ、今日はこんなところかな?」


 そろそろ業務終了の定時を向かえる。

 今日の仕事はそろそろ終われる筈だった。


「閣下、もう2件程報告があります」


 総督府の仕事はブラックだった。

 秋山補佐官の姿が悪魔に見えてくる。


「この度、神居市の市議会の新議長に選出された佐々木洋介氏ですが、我々と府中刑務所との連絡官だったあの佐々木氏でした」

「ああ、やっぱり?

 どっかで聞いた名前だと思ってたんだ。

 彼には色々世話になったからな、便宜を計ってやってくれ」


 その言葉に会議室にいる大陸を支配する官僚一同が忖度することを脳裏に刻む。


「て、もう1件は?」

「今朝、反乱起こして討伐された地方貴族の生首を冷凍便で届けに来た運送会社からの抗議文です。

『二度と総督府宛の荷物は配送しない』

 これで今年18件目です。

 謝罪文の起草をお願いします。

 出来れば今日中に。

 あとは首はいらないとの声名をお願いします」


 そろそろ引き受けてくれる業者がいなくなってきて、総督府の仕事に支障が出てきた。

 秋月総督は敵対者の首を欲しているとの風聞は嫌がらせのレベルである。

 ちなみに声名に付いては4回目である。


「俺にどうしろというんだ」


 はからずも同時刻、佐々木洋介神居市市議会議長の就任の所信演説に呟いてた言葉を口にしていた。

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