ドワーフ目指して穴を掘ったら...
博愛
第1話
いつからだろうか、世界はVRがあることが当たり前になりすぎて最早「VR無しでは世界が回らない」「世界のVRに対する依存は深刻だ」とすら言われなくなったのは。そんな世界で、また新しいVRMMOが発売されることになった。その名は『Empty World』。一応剣と魔法の世界が舞台ではあるようだがそのコンセプトは未開の世界であり、「そんな作りやすそうな世界をゲームにしようと考えるなんて運営にやる気はあるのか」という疑問も多数寄せられた。
『Empty World』はオーソドックスな
サービスの開始日である今日、ある男が『Empty World』の開始時間を待っていた。
***
運営の発表によると全員が〈種族:人間〉から始めるこのゲームはプレイヤーの行動によっては進化によって種族を変える事ができるそうだ。これは恋する対象の背が低い—年寄を求めているわけではない—男にとって無くてはならない情報であった。他のVRMMOでは現実と異なる身長では操作性に影響が出るなどというこじつけで身長変更ができなかったのだ。そして男は背の低い種族は何かを考えた時、このゲームに何らかの形で存在するであろう小人族とドワーフを思いついた。しかし、前者は他の大体のゲームでそれなりに攻略を進めないと出会わない種族であるので、後者を目指す事にした。そうして決めたゲーム内での名前はヴェルである。
チュートリアルでは、ゲーム内とはいえモラルに反し過ぎると法律に抵触し得る事と、スキルポイントはレベル上昇時に2ポイント、スキル公開時に5ポイントをそれぞれ得る事が出来、スキルには取得時に必要なポイントが3ポイントのものと10ポイントのものが有るという事、発見が容易なスキルも多く有る事、インベントリという収納スペースをプレイヤーは使える事、ログアウト中NPCには攻撃されないが戦闘中はログアウトできない事、後から始める人はすでに公開されているスキルが多く有る分チュートリアルでスキルポイントをわずかにもらえる事を教えられ、少々の
チュートリアルが終わると男-ヴェルは草原に居り、少し離れた場所に村と森、そして山が見え、村ではサービス初日なこともあってか多くのプレイヤーらしき人で賑わっていた。
—とりあえず道具を探すか。
ヴェルの目当ての物があるかは分からないが、きっとあると信じて村に行くことにした。
***
数分で村に着いた。
「こんにちは、ここの住人ですか?」
「おう、どうした?」
「穴を掘る道具を探しているのですが」
「は?武器じゃなくて?新しく来た人たちみんなどこから現れたのか知らんけど武器屋はないのかと聞いてくるんだが」
「穴を掘る道具です」
「まあ、対価をくれるならいいぜ」
その後金額交渉をしたが、ヴェルは男に興味がないのでできるだけ早めに話を切り上げた。
***
村でシャベルをはじめとした道具類を手に入れたヴェルは最初の草原に戻って早速真下に向かって穴を掘り始めた。
—ドワーフといえば穴を掘っているイメージがあるし、きっと穴を掘ればドワーフになれるはずだ。
1時間程は特に何も得られず-身体的には疲れた感じがしなかったのでスタミナのようなステータスは無い又は気にする程でも無いのかもしれない-地質が土から石のような何かに変わっただけだった。
そして、事件が起こったのは体感で約1時間半程経った時だった。何かが降ってきてヴェルは突然
***
突然死ぬというゲーム性はどうかと思うがきっと何らかの原因があるのだろう。ヴェルは村の近くの様々な物が投げ捨てられている場所でリスポーンした。
—このゲームの
特にインベントリから
—自分で言うのも風情が無い事だがよく掘ったものだ。
どうして死んだのかの理由が知りたいのでつかまって降りるためのロープを手に入れようと思って村に戻った。
村に戻るとまだ騒がしい。今騒いでいるのはどうやらリスポーン地点やらNPCの住んでいる場所やらの近くに作られたプレイヤー達の露店のあたりのようだ。
「やあそこのお兄さん。この剣を買っていかないかい?」
「いやいやこっちの槍を買ってくれ!」
—なるほど、武器を売ろうとしているのか。だがいずれ必要になりそうとはいえ、さすがに木の武器は買う気にならないな。
「鉄かせめて石製の武器は無いのか?」
「何を贅沢な!」
「俺達は最初の
—所持金をどう使おうが個人の自由であり、個人の責任だろう。まあ意味が分からない理由で無駄になるのはなんとも許しがたいが。
安物買いの銭失いを体現しているかのような露天商達を無視して、ヴェルはロープをNPCから買いに行った。
***
ほかの道具類を買ったときと同じような話をもう一度した後、ヴェルはまた草原の穴に戻ってきた。
「こうして木に括りつけてっと」
普段と若干とはいえ手のサイズや体格が異なるので少し手間取ったが、無事穴の中に安全に降りる準備をして、少しずつ降りて行った。
***
底にたどり着くと特に変わったものは無く、ヴェルは運営から煽られているかのような気分になった。それでも諦めずに掘り続けてどれほどの時間が経っただろうか。途中でロープも体から外してしまったし何回かログアウトと休憩も挟みながら掘り続けていると途中で穴掘りというスキルが手に入ったので別に秘匿する物でもないかと思い公開しておいた。そしてさらに時間が経った後、何やら硬い岩に手に持っていた石製のツルハシが突き刺さって動かなくなった。
—これ以上掘れない世界の底がこれならばここでやめてもいいかもしれない。
そうは思いながらもとても長い時間この単純作業をしているのだから諦めがつきにくい。今では上を見てももうとっくに外の光が見えないところまで来たのでヴェルはなんだか悔しい気分になってきた。そんな気分でツルハシを叩きつけているとその岩が欠けたような気がした。その感覚を信じて何度も何度も叩きつけているとツルハシが粉々になると同時に岩に大きな罅が入り、それと同時に反復強化というスキルも手に入ったのでそれも公開した。
—最後にスキルポイント使って何か有効そうなスキルが取れないかだけ見ておいて、無ければ罅まで入ったけれどここで終わりか。
他のプレイヤーも初日から発見できるようなスキルは自らが秘匿してもすぐに他の誰かに発見されると思っているのかたくさんのスキルがあった。
—鑑定(植物)とかあるし鑑定するスキルは何種類かあるのだろうか。剣術、槍術、体術このあたりが戦闘系スキルか。伐倒技術、果実収穫技術とかが採取系スキルなのか。せっかくなら必要スキルポイントが高いスキルを見よう。うん?怪力がある。これならいけるかもそれないし取ってみるか。
そうして怪力を取得したヴェルはその岩の罅に指を突っ込み、怪力を発動して大きく外側に押し広げた。
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