帰還者達のアフターケア~俺の友人にちょっかい出さないで貰えますぅ?~

あじたま

第1話 新生活

「ふむ、こんなものか」

大学から程近いタワマンの一室で、男は満足そうに部屋を見渡した。

男の名はルト・ヨゥグ。

この春から大学生になった、異世界人である。


◆◆◆


何故異世界人たるその男が地球の日本のタワマンに住んでいるのか。

それは一ヶ月程時を遡る。


◆◆◆


異世界の星「ガイア」

竜崎リューザキ、俺もお前の世界に行く」

封印の獣、三禍龍、四厄神。

かつてそれらはこの世界の災厄として君臨し、そして幾度と無く人を蹂躙してきた。

異世界からの召喚者、竜崎徹りゅうざきとおる

星霜の識者と呼ばれた魔法使い、ルト。

緋の剣神と謳われし少女、緋城刹あかぎせつ

古代を繰る者、グラッド・ベル。

緋と対をなす蒼き剣神、エペ・アロイ。

等々の面子によって淘汰された。

特に識者ルトの活躍は目覚ましく、大戦終了後も、先の大戦にて傷付いた星を修復する為の半永久資源、無境の海オケアノスの作成や、魔力を安定させるための人工世界樹ユグドラシアスの作成、公にされることはないが、星の心臓たる星核すらも作ってみせた。

更には、異世界召喚者にして龍堕しの英雄、竜崎徹のための帰還魔法の作成までもやってのけた。

稀代の天才。

まさしくその評価がふさわしい者。

いや、それすらも過小と言える男なのだ。

それが、何故そんな駄々をこねているのかと言えば、それは

「パフェ食べたい」

真顔で言う。

「寿司食べたい」

またも真顔。

「カレー食べたい」

欲望の吐露は続く。

「ラーメン食べたぁぁぁぁぁぁい」

パフェ、寿司、カレー、ラーメン。

それらはあの過酷な旅のなかで、識者の相棒たる英雄が幾度と無く口にした慟哭だ。

「えぇ?何だよ。お前マジもん食ったこと無いだろ。どうしたのよ、急に」

黒髪黒目の英雄は、叫びだした相棒戦友に困惑を隠せない。

最近、魔法研究漬けではあったが、とうとう気でも狂っただろうか。

「んな訳あるか」

超自然的ナチュラルに心読むのやめね?」

大分なれたが、口に出してもいないのに言われると結構ビビるのだ。

「んでぇ?なんで食った事ねぇもんに執着してんの?」

無論、再現品ならばある。

と言うか作った。

けれどそれは所詮、超劣化模造品コピーに過ぎず、本物とは遠く及ばない。

けれど、それでも異世界人達は、ルトも含めて美味い美味いと食ってた筈だが。

「お前の記憶みてさぁ」

(んん??)

「くっそ美味かったから本物が食いたくなった。いやあれは食えないと発狂するわー。うん」

何やら頷いている稀代の天才様。

「おいテメーさらっと言うが俺の記憶見んなや、蹴るぞ」

「あ、バレた?」

この男、興味の無い事には至極脳ミソを使わない。

「ふー…。で、こっちの世界に着いてきたいって話だったか?良いんじゃね、別に。どうせ向こうじゃ関わらんし」

「えっ薄情」

「信頼だよ、信頼。お前なら放置しても何だかんだゴキブリみてーに生き残るってな」

「誰がゴキだ。オケアノスの藻屑にすんぞ」

ゴキブリ関連の煽り……と言うか、彼のなかの「汚い」のラインを越えると、彼は中々過剰に反応する。

端から見ればこれ嫌がるのにそれは平気なの……?となる。潔癖症と言うとその方々に失礼だ。

(だってこいつ、部屋絶望的に汚いし)

そのクセ水垢とかはめちゃめちゃ嫌がる。

(いや、俺も嫌だが)

「ふっ、だが、お前からの許可は出たからな!よし、ちょっと用意してくる!」

そう言って勢い良く立ち上がり、食堂の外へと走っていく。

「え、何を?」

異世界召喚者お前らの服をベースに擬態用の服を作るのと、あとは俺のいない間の施設の封印措置してくる!あ、片付け頼んだ」

そう言って、自分の皿の片付けを押し付け、識者は去っていった。


◆◆◆


そして現在。

「なぁ、竜崎。この肉美味そうじゃないか?」「お、卵セールやってるぞ!」

「やっぱりみりんは本に限る!」

「ぬぬぬ、どちらの白菜が美味いか…。量は此方の方が…しかし栄養価的には……」

魔法の力を惜しみ無く利用し、国籍取得、元々の頭の良さで高卒資格取得、難しい筈の編入試験を満点でクリアし某有名大学に入学、と驚く程手際良くこの世界に馴染み、片手間で買った株がまさかの大暴騰。

それを売った金でタワマンを買い、今は帰還祝い、兼歓迎パーティー用の食材を買いにスーパーに来ていた。

なお、異世界召喚者は竜崎を含めて八人おり、生き残ったのが五人だ。因みに、一人は彼方の世界に残った。

ルト曰く、「いつでも行き来出来るからそんな悲壮感出さなくても良い」だそうだ。

「おい、さっさとしないとそろそろイア達来るぞ」

「あぁーそうだな。ところで竜崎、プリンは焼きか生か、どっちが良い?」

「断然焼き」

「へー。俺は生派だから両方買おう」

(今の問答必要…?)

「ぷ。必要か不必要かで判断するのは愚者のする事だぞ?もっと柔軟な思考を持ちたまえよ」

「知恵者ぶるなよ」

「事実そこいらの者よりは知恵者さ」

そう言って只でさえ溢れそうなかごの上に四つ入りのプリンを二つ乗せる。

「ぬぅ。これでは足らんな」

「お前が食わなければ解決良くね?」

「アホか。俺は食うぞ。何なら全て食う。何のためにこっちに来たと思ってるんだ?」

「食べ物食いたいとか、そんなアホな理由が全てじゃないことは知ってる」

暗に「何企んでやがる?」と告げる。

「ふは。なァニ、少し邪魔になっただけさ。俺がな」

排除された、と言う事では無いのだろう。

それを彼がミスミス許すとは思えないならば、自分から出たと言う事なのだろうが。

せっさんにはちゃんと伝えてるのか?」

「無論。俺がアレに何も言わず来るわけないだろう。追ってくるぞ。次元でも斬って」

「あぁー。確かに」

(滅茶苦茶するからな。あの人)

「厄神さえ斬る只人だ。放置する方がどうかしているさ」

この二人に滅茶苦茶するなどと言われては恐らく彼の緋の剣神も不本意甚だしいであろう。


◆◆◆


「遅い」

金髪ツインテハーフ。

どこの負けヒロインですかこの子と言いたくなるような少女が大量の食材を持って現れた男二人に文句を言う。

「悪い悪い。こいつがちょっとさぁ…」

そう言ってルトの方を指さすと、口にはたい焼きを咥えていた。

ふふぁふぁいすまない

たい焼きを咥えたまま喋るルト。

「食ったまま喋んな」

「…ゴクン。すまんすまん。ちょっと買い物に夢中になっていた。にしても、品揃えが凄いな。あそこまでの量だ。相当な廃棄量があるだろうに、良く維持出来るものだ」

「さっさと入りたいんだけど」

「あぁ、悪い悪い。今開ける」

そう言ってオートロックを開けるルト。

「ふーん?高級タワマンって感じね。貴方らしい」

金髪ツインテハーフこと、莉音りおん花邑はなむら・ローズが、エントランスの一瞥した感想を言った。

「金持ち」

クリーム色の長髪の少女、アウリア・ランメルがなんとも俗な感想を言う。

「いぃ家買ったじゃねぇか。一丁前の男だな」

無精髭の目立つ男前、四條隆之しじょうたかゆきが酒を持ちながらエレベーターのボタンを押した。

「酒って、ルトと貴方しか飲めない」

おっさんの持ち物に眉をひそめる莉音ティーン

「心外、私も」

アウリアがジト目で莉音を睨んだ。

「え!?ホントに!?見えないわねぇ」

「エルフ共で馴れとけよ、逆ハー女」

「うぐっ。い、いつまでそのネタ擦るのよ!あれから十年は経ってるし、もう良いじゃない!時効よ!時効!」

「俺が飽きるまで。あと、俺はお前に道化三枚目扱いされたの忘れてねぇからな」

かなり昔の話になるが、莉音を召喚した国はエルフの王国であり、そこで莉音は大層な逆ハーレムを築いていたのだ。

まぁ、それ関連でなんやかんやあった。

結果として、逆ハーレムは完全崩壊、エルフの王国から追放。

それを哀れに思ったぶっ壊した張本人竜崎徹が、一時的にパーティーに受け入れ、そこからしばらく共に旅をしたのだ。

「調子に乗るな、ガバマン」

アウリアが止めを刺した。

「だから、若気の至りだってぇ」

涙目になる莉音。

「見苦しいぞ、アラサー女」

軽蔑を含めたドン引きの目線が莉音を突き刺した。

莉音、徹は、16、17歳の時に召喚され、その時に身体の老化は止まったが、それから十数年異世界にいたので、年齢的には三十代だ。

もっとも、老化を止める魔法は帰還に際してルトが解除しているが。

「身体はピチピチの16歳よ!」

「精神3●歳でそれやるのはキッついぞ、嬢ちゃん」

四條は35の時に召喚されたので、精神年齢は50を超えている。


◆◆◆


「「乾杯!!」」

ルトと四條が缶ビールをぶつ合う。

「出来るのはお前ら二人だけだけどな」

竜崎が恨みがましく二人を見た。

「なんだ、気にせず飲めよ」

ルトが三人を煽る。

異世界では成人が十だった事やガバガバ倫理観だったことで彼らは普通に飲酒している。

が、ここは日本だ。

まがりなりにも未成年である彼らに飲酒は許されない。

「郷に入っては郷に従えっつう言葉があってだな。異世界でなら兎も角、こっちじゃ飲まねぇよ」

徹がコーラを飲みながらそう言う。

「召喚当時に戻された唯一のデメリットね」

ノンアルコールビールを片手に、莉音が言った。

彼女の言った通り、ルトは彼女らが召喚された当時に戻していた。

尤も、一日二日のずれは生じたが、それはルトが魔法で誤魔化せる範囲内であった。

「カフェイン、最高」

アウリアが徹の隣でモンスターをキめる。

「オールナイトでもする気かよ」

パーティ開けされたポテチをつまみながらルトが突っ込んだ。

「お前、大分こっちに染まったよな……」

徹が干しイカのツマミを食べながら、ルトに対して呆れる。

「そう言うお前さんも、随分と爺になったな」

同じツマミを酒で流し込んだ四條飲んだくれが笑いながら言った。

「それにしても本当に順応するの早すぎよ。流石は識者様と言ったところ?」

莉音が別のお菓子を開けながら言う。

「本当だよ。最初は、「受験?ステータスで計れば良いだろう?何?無いだと?不便だな」とか言ってたのにさ」

談笑は続く。

恐らくこのまま朝までコースか。


◆◆◆


それは、ルトが異世界帰還魔法を完成させる前夜の事だ。

「失礼するわ」

灰が降るような声が聞こえて、その声の主へと視線を向ける。

「何の用だ、師匠ノア

警戒すべき相手ではないと判断し、再び術式へと意識を向けた。

灰の魔女、ノア。

その強さ故に世界から出禁をくらい、世界の外で自らの世界を創った、我が師にして盤外の最強。

「突然だけど、ルト、異世界に行って」

それは、ルトにとって余りにも唐突な内容だった。

「……俺に尻拭いアフターケアでもさせる気か」

異世界人召喚は、人類連合と言う「封印の獣」に対抗するための今は解散した愚者バカ共がやったことだ。ルト自身は何ら関与していない。

異世界人達とルトが個人として交流を結び、その彼らが帰還を望んだからこそ、帰還魔法を作っている。

それは、友人達の為であり、決してバカの尻拭いの為ではない。

「いいえ。そうでは無いわ。彼ら、異世界人の為よ」

(まぁ、そうだろうな)

ノアが奴らの尻拭いの為に動くとは思えない。

ならば、厄神などで共闘した彼らの為なのだろう。

しかし、だ。

「俺を行かせるって事は血生臭い事なんだろ?なら、別にアイツらだけでいいだろ」

特に竜崎。

あれは別格だ。

俺と同等と言って良い。

「彼らだけでは、死ぬわ」

「一体異世界にゃ何がある?」

厄神級の厄ネタか。

「異能者。それに異世界の陰陽師や魔術師。デスゲームに、異界決壊ダンジョンブレイク。その他もろもろ」

「その他もろもろの比率くそデカイ気がすんだけど。あと、異界決壊って、うちと?」

「いいえ。あと、そうね。比率はデカイわよ」

マジかー。

いや、よく考えてみればあの時の人類連合の魔法技術でも持ってこれる程、対干渉力免疫能力の低下してる世界なら、異界決壊他世界との接触による世界侵食は十分あり得る。

ざっくり異界決壊について説明すると、世界と世界は互いが近づくと磁力みたいなのが互いに互いを弾き合うんだが、その力が落ちてると、弾ききれずに世界同士が接触、そのまま繋がってしまう。

それを異界決壊と言うのだが、どうやらそれが起こるらしい。

俺達の世界とでは無い。

まぁ、そりゃそうか。

うちの世界未だに師匠締め出せるくらいの力はあるし。

となると、

「どこの世界とぶつかるんだ?」

「30人単位で召喚した世界があったから、多分そことぶつかる事になると思うわ。まぁそれと、私の都合よ」

「アンタの?」

珍しいこと言うな。

「強き者には、強き因果が廻るもの。彼らは此方の世界に召喚されたせいで、余計な力を身につけた。それは間違いなく彼らの世界で彼ら自身を締め付ける因果となる。だから、貴方が助けなさい。我等の世界を救った英雄が、せめて何も悔いを遺さずに死ねるよう」

この世界に来なければ、彼らは帰った後無用なトラブルに巻き込まれなかった。そう言いたいのだろう。彼らの気質的に、自分から突っ込んで行く気もしなくは無いが、まぁいいだろう。

「……解った。行こう」

こうして、俺の異世界渡航が決定した。


◆◆◆


と言うわけで、結局のところアフターケアをする羽目になった。

「あぁーくそ汚れたな」

二日酔いか。頭痛ぇ。

そう言えば、アイツらは帰ったんだったか。

その後もろもろをれいの奴に報告して、その後飲み直したんだ。

「えっと……今何時だ?」

スマホを見る。

0:32

もう昼か。

結構寝たな。

「さて、働きますかね」

清掃の魔法を自分にかけ、さらに変身の魔法で魔法少女もビックリの早着替えを披露しつつ、家を出る。

デスゲームとか、異界決壊とか、こっちの魔術師とか、その他もろもろとか。

対処しなければならない事は吐く程ある。

「しばしの日常は終わり。こっからは───後日談アフターケアの時間だ」






筆がのったら書いてく。

キャラクターについての設定は固まってるので、わりとすらすら出るかも知れないし、出ないかも知れない。

ハートとか星とかコメントとかくれるとモチベ上がっていっぱい書く。

特にコメントは嬉しい。



ここから下はキャラクター紹介なので、飛ばしても構わない。



識者 ルト

最年少10歳で魔法師育成機関「賢者の塔」の頂上まで登りきり、賢者の称号を賜った後、魔法研究中の事故で行方不明。

なお、その研究は「世界を構成する魔法」に関するもので、事故った結果「白灰の世界」へと転移。そのまま六年程そこで修行を積み、異世界召喚魔法を感知したため帰ってきた。

片手間で他の世界に干渉する魔法を作ったりと色々とやべー奴。

ちなみに、人類連合の異世界人召喚蛮行にブチギレて本部を襲撃、壊滅させた後、たまたま売れ残ってまだ本部にいた竜崎と封印の獣狩りの旅を始めた。

天才×異世界の発想力、で色々と酷い魔法を数多く作ったが、本人は割りと倫理観がある方と言うバグ。

「コイツならやりかねない」みたいなタイプの、性質的には強キャラと言うよりバグキャラ。コイツ回りだけ挙動がおかしい。




最強の帰還者 竜崎徹

人類連合に召喚された召喚者。

召喚当初は最弱で、買い手がつかずしばらく本部で飼い殺しにされていたが、ある日ルトが単身攻め込み本部を壊滅させたので「勝手に召喚された上、たった今寝床もテメーに壊された!お前には俺を養う義務がある!!」と至極全うな暴論正論を振りかざし、彼らの旅は始まった。

なお、純粋なエネルギーを自由自在に扱う化物であり、歩く核融合炉のような存在。

それはそれとして徒手空拳を極めており、曰く「武器?扱い慣れてないから拳と脚でいいや」との事。




灰の魔女 ノア

世界に締め出された盤外の最強。

識者ルトの師である。

多分一番常識人。

新しい世界を創ったりと色々滅茶苦茶だが、厄神とか封印の獣とか三禍龍とかとは世代が被って無いため捻り潰せなかった。

彼女以前にいたやべー災害である「最悪黄金魔王」とか、「機構王」とか、「天帝」とかその他もろもろがすべからく彼女に破れ去っている。

今は世界の平均値がそこそこ高く、更にやべー厄災みたいなのも無いので短時間ならば世界に入れるが、32秒を越えると締め出される。

ちなみに、やべー厄災がいる時は彼女が入ると即殺されるので完全出禁。



設定


異世界

いわゆる称号とかスキルとかステータスがある典型的な異世界ではあるが、そもそもスキルとして表示できない天才性とオリジナル魔法を併せ持つルトや、世界の基礎構成要素を扱う為、スキル、ステータスなどの枠から出る竜崎など、万能ではない。

おそらく、世界の中でも上から数えた方が早い程数多くの災害にさらされている。

なお、未来では識者の遺産関連でもう一波乱ある事が確定している模様。

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