第3話

 教室には相変わらず映像部の部員3人しかいなかった。

 吹奏楽部は下手くそな音を合わせ流行の曲を再現、運動部は連帯感のあるかけ声をやめプレーを叱責することに専念している。

 3人の中の一人、今回の主演女優である田中由衣は教室の隅で体躯座りをしている。先ほどの迫真の演技がかなり堪えたのだろう。やはり、慣れないことは上手い下手関係なく恥ずかしいと思うものなのだ。彼女はそれを承知した上で映画撮影に加わってくれたのだ。今度、ジュースでも驕ってやろう。勿論、部費で。

 「やっぱり、グラビアも撮るべきでしょうか」

 もう一人の部員、山羊クルミが映像を確認しながら呟いていた。

 「やめたれ」

 「ところで電波先輩!!!」

 「なんだ?」

 「次はどのシーンを撮るんですか!!」

 ビデオカメラを持ったまま、少しはねている。相変わらず楽しげだった。

 「まだ決まっていない。これから会議で決める。あと、天馬だ」

 我々は思いついたシーンを映像として起こし、それから設定を考えるという破滅的な手法をとっていた。方法に関しては逐次変更することはある。適当である。あと、おれは天馬だ。電波ではない。変な奴だと思われるだろ。

 「会議は嫌いです!!! 電マ先輩!!!」

 「天馬だ!」

 「下の名前で呼ぶのは乙女的にちょっと……」

 電マは乙女的にセーフなのか?

 「わかった。電波でいい」

 「はい!! 電波先輩!!!」

 「とりあえず、よさげなロケ地を探してきてくれ」

 「では!!!!」

 クルミは颯爽と教室を出て行く。首にかけたインスタントカメラが揺れている。背中を長い髪が隠している。その姿は品のいい犬のようだった。




 改めて、山羊クルミについて考えよう。

 私立東川高校1年生映像部所属。

 活発で社交的。小柄で、細く色素の薄い髪が背中を隠している。目が大きく、その容姿は西洋人形によく似ている。

 映像部には何かしらの目的を持っていたのだろう。入学して直ぐに入部。おまけに首にインスタントカメラをぶら下げてるときた。道場破りにでもきたかのような勢いだったのをよく覚えている。しかし、天真爛漫の言葉が似合う彼女も、所詮は少女。始めての環境では緊張してしまうものなのだろう。扉を開けたはいいものの一向に自己紹介も抱負も述べなかった。ただ呆然と我々の活動を眺めるだけだった。その様子はまさに西洋人形だった。ちなみに、その時、おれはベンチプレスのmax更新、由衣はシャーロック全集を読破した記念すべき日だった。勿論、後輩が茫然自失だったので、先輩として入部届を代わりに書いてやった。

 入部後は部室でお菓子とジュースを食べ、放課後を満喫。摂取したカロリーは鬼ごっこで消費。鬼はスクワットを終えたばかりのおれだ。弱っている先輩をおちょくり、そのまま鬼ごっこにはこぶ。少しは先輩を、我々3年生を見習ってほしいものだ。そして今では映像部カメラマン兼ロケハンとして役目を全うしている。




 「先輩方!!!」

 先ほど出てってたはずのクルミが教室に戻ってきた。

 その声に反応すると、パシャリとシャッターを切る音が鳴る。

 写真が現像される。

 「では!!!!」と言って、クルミは改めて教室を出て行く。

 相変わらず楽しげだ。

 それにしても写真を見せてくれてもいいだろ……。

 

 

 

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