第30話 いらないスポットライト


──薬草泥棒の容疑者扱いの次は、これ?2年生になってから、嬉しくない形で目立ってしまう事が多すぎる。そのどれもがハヤト絡み。もう、いい加減にして欲しい。静かに勉強をさせてよ…


オリビアは現実逃避をするように、1年生の年度末の表彰式を思い出した。どうせ目立つなら、ああいうのがいい。年間の成績優秀者に贈られる賞状を全校生徒の前で受け取った時の、あの感動。最優秀者として注目を浴びた最高の瞬間。


思えばあの時が最後であった。あの後のホウキレース大会の日から、突如現れたハヤトに全てをひっくり返されたのだ。授業の度に凄いと賞賛され、さすがオリビア、天才と言われた日々が、もうずっと昔の事のように思える。


男子たちの声が聞こえていないフリをしたいが、あの大声のせいでそれぞれの自習時間を楽しんでいた教室内がひとつになってしまった。一斉に視線を感じる。尊敬の眼差しでは無く、好奇の目だ。


「……最悪……」


窓の外を見ながら頬杖をつくオリビアを、サラは「ドンマイ」と笑った。


「聞いたぞ!ハヤト、オリビアの事好きなんだろ!」


せめて彼にはうまく流して欲しいという願いは、無残にも打ち砕かれた。


「ああ、好きだよ」


全く動じないハヤトの返事に、教室内がざわつく。


「うわっ、認めた!おもしれぇ!そういえばこの前の泥棒事件で、お前オリビアの事かばってたもんなぁ。よっ、ヒーロー!」


「ちょっと待てよ、オリビアも頭良いぞ。こりゃ上手く行けば、天才カップル誕生か!?」


皆が口々にはやし立てるが、ハヤトは何も言わない。オリビアは目を閉じ、ポケットの中の杖を握りしめた。今すぐあの男たちに魔法弾を打ち、静かにさせたい。


「あ、でも、オリビアはお前に嫉妬していつもすげー顔して睨んでるから、きっと手強いぞー」


「知ってる。頑張るよ」


照れもせず、堂々と言い放つハヤトに、男子グループはさらに盛り上がり、女子も黄色い悲鳴をあげた。


「ハヤト君、男らしいーっ」


それらに紛れて、舌打ちや「何でオリビアみたいなガリ勉がいいの?」等という声も小さく聞こえてくる。


「おい、この際ここで告白しちまえよハヤト」


ハヤトが背中を叩かれる音がする。


(はい、そうなるわよね)


ここまで来ると冷静になるしかなかった。しかし彼の返事が、そうさせてくれない。


「悪い、もう告白はしてるんだ。何回も断られてるけど。昨日もさ、河原で…」


「ハ、ハヤト!」


   嘘、あの事喋っちゃうの?


たまらず立ち上がり、ハヤトを制止する。お願いだから、それ以上何も言わないで。


「…河原で言ってみたんだけど、ダメだった」


ハヤトはオリビアの目を見ながら、ゆうべの戦いと、その後の事を伏せて話した。ハヤトと今日初めて目を合わせてしまい、顔が一気に紅潮する。


「まだ分かんねぇって。今もう1回試してみろよ」


「え」


地獄の時間は終わらない。男子たちは面白がって、無責任に煽った。


「そうだ、やってみろ!」


「ほら、オリビアもチャンスあげてやれよ」


「い、いや、やめてよ」


男子に向かって必死に拒否していると、目の端で立ち上がるハヤトの姿が見えた。


「分かった」


そのまま真っ直ぐこちらへ歩いてくる彼がスローモーションに見える。周りの冷やかす声さえも遠くに感じる。もうどうしようもない状況に、オリビアの思考は完全に停止した。


「オリビア」


彼が目の前まで来た時、教室のスライドドアがガラリと大きな音を立てて開いた。


「ごめんなさい!印刷に手こずってしまって…授業始めましょう」


「……………」


大量のプリントを抱えた教師が現れ、クラスは静まり返った。


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