第22話 図書館の外へ


少しして学校は冬休みを迎え、宿舎に住む生徒は実家に帰るなどして年末を過ごした。オリビアも地元で家族との休みを楽しんだが、その間ずっとハヤトとのことが頭から離れなかった。


結局、誰にも相談する事は出来なかった。嫌いにはなりきれないものの、ハヤトの度を超えた行動には嫌気が差した。もっとゆっくり彼との関係を考えたかったオリビアは、とりあえず徹底的に避ける事に決めた。ハヤトが落ち着くのを待ってみる作戦だ。


(あんな人だと思わなかった。気持ちは嬉しかったのに、あそこまで強引なやり方じゃあ、私はついて行けないわ…)


年明けの授業からは、なるべくハヤトに関心を示さないようにした。彼がどれだけ活躍しても、以前のようにムキにならず、対抗心を燃やさないように気を付けた。

魔法のレベル差を見せつけられても、顔を背けて視界に入れない。放課後に図書館へ行っても、彼の気配がすると隠れるようにして帰った。


ある日の授業終わり、オリビアのいる普通科クラスへ、ハヤトが特別進学科からやって来た。


「オリビア、今日は図書館には行くの…」


「サラ、ナンシー、私も一緒に街へ行っていいかしら」


オリビアは、ハヤトを無視して、他のクラスメイトに声をかけた。出来るだけ、1人にならないようにしようと考えたのだ。授業で作った魔法薬をまさか飲まされるなんて事は、もう二度とあってはならない。


しかしこれは、そのためだけではない。友達が少ないオリビア自身にとっても、良いきっかけにするチャンスだった。


「いいけど…オリビア、図書館行かなくていいの?」


すでにクラスメイトには、オリビアが毎日図書館で勉強していた事がバレている。


「いいのよ。たまには私も遊びたいわ」


「分かった!でもどうだろ、オリビアは楽しめるかな…ま、いっか!遊ぼ遊ぼ!」


「…?ありがとう」


カラッとした性格のサラに受け入れて貰ったオリビアは、笑顔で友達と消えていった。1人残されたハヤトはしばらく立ち尽くしていたが、やがて諦めたように教室から出て行った。


***


オリビアは、サラ達と遊びに行ってみた。しかし結論から言うと、失敗に終わった。


確かにサラとはよく話すが、教室の中だけでの話だ。勉強の話ならいくらでも出来るが、流行りのドラマとかファッションとか、そういう話は全くと言って良いほど続かない。どれも興味が無いと言うと引かれると思い、頑張って話を合わせてみるものの、すぐに話題は尽きる。


サラは顔が広く、オリビアを色んなコミュニティに連れて行った。ただ、その中には路地裏の、いわゆるたまり場のような場所もあった。


いかつい顔をしたサラの友人たちに一応は歓迎されたものの、オリビアは終始顔を引きつらせて笑うことしか出来なかった。


それでもハヤトから逃げるために、またここまで友達付き合いが苦手な自分を認めることが出来ず、しばらく彼女たちに合わせてみたが、数日で根を上げた。ある日オリビアはナイトクラブへの誘いを断り、違う友達を誘ってみることにした。


***


ステラとクリスティは、いつも2人でいる普通科の仲良しコンビだ。ちょうど近くに新しいカフェが出来たとのことで、オリビアが勇気を出して一緒に行きたいと誘うと、快くOKしてくれた。


オリビアは2人と同じ紅茶を頼み、2人が繰り広げるテンポの良い会話に混ざろうとした。彼女たちの話に同意することで仲間に入れてもらおうとしたが、どうにも難しい問題があった。ステラたちは勉強が苦手だった。


「ほんっと、課題多くて嫌だよね。今年の先生、厳しすぎない!?」


「分かるぅ!!去年までこんなんじゃ無かったよね。ムカつく。あ、でも1年の時の先生も、かなり厳しかったよね。なんだっけ?名前…」


「マリアでしょ!あのツンケンした女!あれよりマシか。ね、オリビア」


「え、あはは…」


どんな事も、受け取り方は人それぞれである。学校の課題は精力的に取り組み、マリアの事を慕っていたオリビアにとって、同意しがたい話題になってしまった。マリアは授業中は確かに冷たく感じる部分もあるが、彼女の真剣な態度をオリビアは尊敬している。そのため、ここでも困ったような愛想笑いを浮かべることしか出来ない。つくづく自分は他の生徒と価値観が合わないのだと感じた。


次第に会話内容が、年頃の娘らしいものになっていった。彼氏がいるとかいないだの、好きな人と目が合っただの、そういった話である。


オリビアはホッとして、聞き役に回った。ステラやクリスティの恋の話は、楽しかった。手を繋いだり、初めてのキスの甘酸っぱい体験談に青春を感じる。すぐにそれ以上を求めてきたあの男とは大違いだ。


(私もこんな風に、少しずつ進展していく恋愛がしたいなぁ…経験が無い訳では無いんだけど)


オリビアもそれなりに恋をした思い出があるだけに、ハヤトの常軌を逸したアプローチが理解出来ないのであった。


そんな思いを胸にしまいニコニコと聞いていると、突然、ステラが言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る