第6話 火花散らす魔法ドッジボール

今日は、先生が魔法学会の集まりがあるとの理由で、課題が与えられた。魔法学クラスでチームに分かれてドッジボールを行うというものだ。

ただし、通常のルールとは違い、手を使ってはいけない。魔法でボールを浮かせて、相手にぶつけなくてはならない。1度当てられたら、観戦にまわる。


オリビアはハヤトのチームと戦うことになった。敵意をむき出しで、ハヤトを正面から見据える。


「オリビア。僕に恨みでもあるのかい?こっちばかり見て」


ハヤトが微笑んだ。


「レースでもテストでも負けたから、今度こそ絶対にあなたに勝つわ」


「やる気十分だね。君と同じチームなら、心強かったんだけどな」


「そう。私にとっては、好都合よ」


少し言葉を交わした後、試合が始まった。生徒たちは手を使えないので、習ったばかりの魔法に苦戦しながらボールを浮かせる。しかし、浮かせるだけでは相手に当たらない。ボールを飛ばすためには、ある程度の勢いも必要になってくる。


オリビア側のチームメイトが最初に攻撃にまわる。なんとかボールを浮かせて相手コートに投げつけたが、相手の足元に転がるのみだ。当然、敵にひょいと避けられた。


そこへハヤトが前に出てきた。ボールに向かって、杖を向ける。ハヤトの動きを見て、他の生徒は杖を下ろした。ハヤトに任せるつもりなのだろう。

ハヤトが杖を上に振り上げると、ふわりとボールが浮かんだ。そして、ラケットの要領で素早く横に動かす。すると、ボールは風を切るように一直線に飛んでいき、オリビアのチームの、男子生徒の足に当たった。


「うわぁっ!!」


男子生徒にハヤトのボールは速すぎて見えなかったようで、突然のことに驚いて尻もちをつく。他の生徒の手を借りて立ち上がり、コートの外へ出た。

わあっとハヤトの仲間たちが歓声をあげた。


「ハヤトぉ、ナイス!!」


「もう勝ったな、これは」


ハヤトの超人的なプレーに、早くもチームメイトたちは勝利を確信していた。


(…なんなの!何でこんなに上手いのよ!!)


オリビアがあ然としながらもイライラしていると、横から楽しげな声が聞こえた。


「まだ分からないわ!こっちにはオリビアがいるんだから!!」


オリビアと同じチームになったサラだ。


「えっ」


「ほら、オリビア!やってしまいなさい」


「ちょっと!サラも頑張ってよ」


サラは試合を楽しんでいる。ふざけて、オリビアを盾にして隠れている。オリビアが迷惑そうな顔をするが、お構いなしだ。


「…仕方ないわね。今度はこっちよ」


オリビアもボールに杖を向けた。


「オリビア、ちゃんと狙いを定めるんだよ」


ハヤトは敵にも関わらず、オリビアにアドバイスをした。


「うるさい!分かってる!」


オリビアが眉間にシワを寄せると、ハヤトが苦笑した。


オリビアも、練習したように杖を動かした。ボールを浮かせ、ハヤト目掛けて思い切り振った。ボールがスピードを上げ、ハヤトの顔まで飛んでいく。


威力やコントロールは上手くいったが、顔はさすがにまずかった。ハヤトのアドバイスに苛立ち、つい顔を狙ってしまったのだ。一瞬、申し訳なく思う。


しかし、ハヤトは目の前まで飛んできたボールをピタッと止めた。ハヤトの杖に従うように、ボールは大人しく浮いている。


「…えっ……」


「すご……」


オリビアだけではなく、その場にいる全員が唖然として、その光景に見入っていた。

ハヤトが、困ったように笑う。


「オリビア、上手いけど顔は危ないよ。もう少し優しく投げてくれないかな」


「……………ごめんなさい」


その後も、試合は続いた。




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