第4話 挑発をさせてよ


先生が現れ、いよいよ授業が始まった。魔法学クラスの先生がマリア先生で無くてオリビアは残念がったが、もうそれどころではない。これからは目の前に座るハヤトに勝たなければいけないのだが…。


(む……難しい!!)


オリビアはいきなり壁にぶつかった。


魔法学コースも人数が多いため、いくつかにクラスが分かれているが、オリビアのクラスの担任教師は魔力が弱く、教科書を読み上げるだけで細かい部分の説明が少ない。マリア先生のような魔法の素質を持つ教師はまだ少なかった。


オリビアは事前に2年生の教科書を読み込んでおり、とりあえず丸暗記していたことでなんとか授業についていけた。


「では、次の問題を……ヤーノルドさん、分かりますか?応用問題ですよ」


当てられたハヤトが立ち上がる。オリビアは、応用というものが苦手だ。


「はい。水魔法の応用範囲である、氷魔法の性質変化と形状維持のメカニズムに関するものです」


「おぉ!正解です」


先生が感嘆の声を上げる。生徒たちからも拍手が起こった。


(うぅ…いきなりハヤトが注目を浴びているわ。悔しい………ん?)


ハヤトが振り返った。オリビアの方を見ている。オリビアが鬼の形相でハヤトを睨みつけていることに気付くと、あの日のようにニヤリと笑い、何か口パクで話しかけてきた。───”僕には敵わないよ”と、言っているのが分かった。オリビアが目を見開く。


(────!!!またっ、馬鹿にされたっ!!)


ハヤトはオリビアが同じ教室にいることに気付いていたようだった。オリビアはワナワナと震え、怒りを抑え込むのに必死だった。


***


次の授業は、外で行われた。実習で、風の魔法を使った雑草取りだった。杖の動きで鎌をイメージして、威力やスピードをコントロールすることで、草を刈る。これなら、鎌を使うより疲れない。


オリビアはすぐにコツを掴んだ。周りの生徒より早く、綺麗に刈り取ることが出来た。楽しくなり、クラスメイトから離れた位置でどんどん作業を進めていく。最終的に刈った草の量を見せて、周りを驚かせたい。


夢中になって一人作業をしていると、いつの間にか目の前にハヤトが立っていた。


ハヤトはオリビアをチラリと見ると、見せつけるように魔法を繰り出した。ハヤトが杖を振ると、一帯の雑草が一気に宙に舞い、一瞬にして地面に落ちる。


オリビアは驚きで言葉を失った。数秒のち、目をしばたかせて、ハヤトに言った。


「わ…わざわざ私の所にまで、自慢しにきたの?」


「うん」


ハヤトは笑顔で即答した。自分に敵意をむき出しにするオリビアを、明らかに面白がっている。


「…………分かった。見てなさい」


オリビアはハヤトに背を向け、練習を始めた。ハヤトの杖の動きを思い出す。見様見真似で、やってみた。なかなか出来ない。諦めずに何十回と繰り返すと、突然ハヤトと同じように空中に大量の風が巻き起こり、地面の雑草が一気に宙に舞う。ハヤトが刈り取った量よりも少し多めに刈ることが出来た。


オリビアはハヤトに振り返った。ハヤトはオリビアが成功するまで見ていたようだ。ハヤトにされたように、挑発してやる。オリビアはそう思ったが、それよりも魔法が成功したことが嬉しくて、つい満面の笑みをハヤトに見せてしまった。


あっ、と思った時はもう遅く、ハヤトに「良かったね。オリビア」と笑顔で褒められてしまう。


「違う!そうじゃないっ!」


オリビアはハヤトに悔しがって欲しかったが、失敗に終わった。すぐに笑顔を怒りの表情に変え、逃げるように草を集めて戻って行った。



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