夜(1)

その夜は雲ひとつなく澄んだ空に月が輝いていた。だから皆殺しの夜には明るすぎたと今になって思う。


カシャ、と音が響いた。その音は仲間の鼻骨から始まって頬骨、頭蓋、頚椎が一気にへし折られ砕けた音だったが、現実から意識が三歩も四歩も足離れてゆく少年は鶏が生んだ卵を取り落とした時の音とよく似ていると感じた。

拳を振り抜いた巨漢の男の厚い硝子の眼鏡の下の目の色を少年は拝むことは叶わなかったが、口元が薄らと口角を上げているように見えて怖気が走った。実際のところは男の豊かな頬肉が作用しなんとなくいやらしく笑っているような口元に見せているだけなのだが、彼に走る由もない。

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