第25話 VS 柊 カノン


「春・夏・秋・冬ぉ~ひばりチャンネル!

 さぁー、始まったよ♪ひばりちゃんだよ~~♪

 よろしくね!」


 ピンクと緑とオレンジと白の4色のカラフルな髪を靡かせ、手には小さな杖。天真爛漫で無邪気な笑顔を見せる美少女、ひばりちゃんは配信のスタートと同時に画面に現れ元気いっぱいなボイスを視聴者さんに伝える。


 そんなひばりちゃんのいつもの挨拶で始まったコラボ配信。コメント欄は凄まじまい勢いで投稿が続き、スーパーチャットも続々と送られる。


 同接数は今の所、1万5000人弱くらい。それでも、春夏秋冬ひばりちゃんと柊カノンちゃん。そして天月カグレの視聴者が一点に集まってきており、通常の配信よりはかなり多い数らしい。


 ──これがコラボの利点だ。

 配信者にとっては多くの視聴者を得られ、プラス楽しい。視聴者さんにとっては珍しい配信者同士の絡みが見られて新鮮な姿を見れる=楽しい。

 ウィンウィンである。


「さぁさぁ、今回は珍しくコラボ企画ぅ!

 じゃあ早速、コラボ相手さんの自己紹介から~~」


 司会のひばりちゃんはテンポよく話を進め、自己紹介の流れだ。リアルに四季さんから2人に目配せが送られ「来て」と呼ばれる。


「オーっす!柊カノンです。今回はコラボ感謝だぜぇ!」


 間を開けず、最初に登場したのは先輩のカノンちゃん。

 手馴れた様子で挨拶をするその姿………赤髪のセミロングにルビーの煌びやかな瞳。赤と黒のコントラストが美しいドレスを身に付けた美少女。

 ──だが、彼女の本当の正体は吸血鬼ヴァンパイアである。

 時には凛々しく、時には荒々しく本性を魅せ、惑わせるその様は多くの視聴者の心をどっと引き寄せる。

 一度ターゲットにされた獲物はとことん執着し、噛み付き、捕食する。

 柊カノンと那月さん。設定と性格が上手く噛み合う最良のキャラであると言えた。


「……………」


 あ、次……天月カグレか!?

 時雨は2人の手馴れた挨拶に圧倒され、微妙に挨拶が遅れる。そして、2人の視線の合図で遅れて登場する。


「ア、あ、天月カグレ!デス。よろシク。初コラボ楽しム!」


 天月カグレにはまだ決まった挨拶などは無い。だから、盛大に口ごもった状態&カミカミ&ガシャガシャな声でよく分からない挨拶になってしまった。




『あー、数秒前まで耳が最高に至福だったのにカグレのせいで耳がオワッタわぁ』

『それそれ、やっぱりカグレはカグレだな。相変わらず』

『もう慣れたな、正直』

『可愛い声(春夏秋冬ひばり)、凛々しい声(柊カノン)、ゴミみたいな声(天月カグレ)3種の声が混ざって混ざってプラマイ マイナスだわ』

『あはは、カグレのインパクトが強過ぎて2人の良い声が掠れるね、もうカグレしか目立たないよ』

『でも、画面見てみ!音声はあれだけど画面だけは最高にキレイだ』

『それな、3人ともビジュいいから見栄えはするな』

『特にカグレ、最新技術が惜しみなく使われてるから細かな表情とかちゃんとしてるし、動きのダイナミックさが伝わってくるな』



 カグレの挨拶の後、辛口評価のコメントが多かったけど徐々にカグレの声に慣れつつある視聴者さんに若干驚く時雨がいた。



「自己紹介終わり。

 今回はリアルで私の先輩のカノンちゃんと新人のカグレちゃんに来てもらったよ♪今日はこの2人でワイワイゲームをやっていこうと思うよ!もちろんゲームは“スマファミ”!」


 そう言ってひばりちゃんは画面を切り替え、雑談場からスマファミのゲーム画面に切り替えた。


 もちろん3人のVアバターは連動して画面に写っている。

 こういう操作は時雨には不可能なので当然四季さんに任せっきりな訳だけど……うん。よく観察して覚えていかなきゃね。


「それで今回はまず最初に告知した通り“柊 カノンちゃん VS 天月カグレ”の対決を行っていくよ。もちろんレフリーはひばりちゃんが行っていく♪」


 カグレは告知していなかったが、ひばりちゃんとカノンちゃんはしっかり“柊 カノン VS 天月カグレ”をやると告知していたっけ……


「まぁ、やるしかないよね……」


 小さな声で愚痴を零す。

 そしてマイコントローラーに手を添える。


「ほぉー、リアルでカグレちゃんがコントローラーに手を置きました。やる気満々ですねぇ♪」

「チョ、アまりそーいう解説は言わなイデ下さいヨ」

「ごめんごめんってカグレちゃん。

 じゃ、早速始めるから2人共用意して~」


「分かった!」

「リョウカイです!」


 そうしてスマファミの対戦画面まで進んだ2人。

 カグレは特に迷うこと無く持ちキャラの“ガチナイト”を選択する。


「ガチナイト……ね。へぇ」


 カグレがガチナイトを選択し、少し考察をするカノンちゃんだが……


 カグレはゲーム系VTuberだと公言していてもまだまともなゲーム配信をやっていなかった。本来なら週に2~3回の配信はして行きたかったんだけど、まぁ放送事故色々あってね。自粛しておいたのだ。


 その為、カグレに対し、何を考察しても結果は変わらないはずだ。


「ま、いいや。キャラ選ぶ。じゃー私は──」

「──“ジョーカーJr”ですヨね!」


 カノンちゃんがキャラを選択する前にカグレはカノンちゃんの選ぶであろうキャラを見事言い当てる。


「っ!?はぁ!?えっと、わ、私の事よく分かってんじゃん」


 そんなカグレの意味の分からない奇行にカノンちゃんは引き気味。

 だが、そんな事露知らず……カグレは本来のスキル『極度のVTuberオタク』を盛大に発揮する。


「それハ勿論ッ!何故なら“ジョーカーJr”はカノンちゃんノ持ちキャラの1ツで!ワイがガチナイトを使うと考えタラ相性の良イ“ジョーカーJr”を使ウのは明白ッ!」


「お、おぉ、よく喋るな。それに私の事よく知ってるな」

「モチロン!今回のコラボに当たッテ、カノンちゃんの動画は全てチェック済みヤデ!」


 オタク特有の早口。そして饒舌に話すカグレはガシャガシャな声も合わさり、大変聞きづらいオタクという印象を強く植え付けた。


 あ、もちろん、カノンちゃんのプレイングもチェック済み。技の出す確率や癖など大体把握している。イメージトレーニングも完璧だ。


「あはは、カグレちゃんなりに楽しみにしてたのかな?で、でもね……悪く言うと気持ち悪いね♪」

「あぁ、ゾワッと鳥肌が立ったぜ……」


 リアルでも冷めた目で見つめられる時雨。それに?を浮かべつつ、取り敢えず気にしない事にした。


 ──コメント欄も取り敢えず気にせずに、プレイに集中することにする。


『カグレ……キモくね?』

『う、うん。正直引いたわ』

『ひばりもカノンもガチ引きの模様──』

『もしや、オタクなのかなカグレ。それも見た感じかなりの』

『なにか、同じ様なものを感じるゾ』


 と、視聴者達の間でまた1つカグレを理解する。

『悲報!天月カグレ VTuberオタクだと判明!!』ということに。



「──お前……いや、天月カグレ。お前には先輩として、しっかり教育してやんよ」

「………………、」


 そう言い、カノンちゃんは“ジョーカーJr”を選択した。

 先程までのカグレの饒舌に少し気圧されたのか、言い方はシンプルで強くもなかった。

 カグレは特に何も言わない、既に集中モードに入っている。


《……3……2……1………………レディ GOッ!》


 そうして、バトルがスタートする。


 ☆☆☆


 見た目は黒い細身な学生服を身に纏い、右手には黒塗りのナイフ。左手にはシルバーに輝く拳銃を持つキャラクターの“ジョーカーJr”


 大人気アクションRPGゲーム『ベルゾナ5』の主人公であるジョーカーJrは普段は何処にでも居る普通の高校生。特にこれといった特徴も無く、平凡に務める。

 ……だが彼には裏の顔がある。それは人の心を奪う“怪盗団”だということ!

 彼の心に鬼気として秘める化身・ベルゾナを使い人々の心を翻弄し、救い出す……


 スマファミとしてはジョーカーJrはDLCダウンロードコンテンツの課金キャラ。つまり普通のキャラより少しだけ優遇されているキャラなのだ。体重が軽く、技の後隙も少ない。火力こそ低いが遠距離攻撃もありカウンターもある。復帰力も2段階あり読みずらい。言わばオールラウンダーキャラ=比較的使いやすい良キャラなのだ。


 カグレガチナイト目線で見ると、正直ジョーカーJrは即死をやりずらい不利だ。


「正直……意外だったぜ、ガチナイトとは随分とマイナーキャラだな。もっと、ガツヤとかミョンミョンとか姑息なキャラを使うと思ってた」

「あっ……すっ。まぁ、ソウヤナ、」


 マイナーだけど、自信はありますよ…


「さぁ、始めようぜ!“全力の勝負”ってヤツをさぁ!」


 殺気立ちつつ、コントローラーを握り締めるカノンちゃん。それを横目に、コントローラーを優しく繊細に扱うカグレ。


「は、ハイ。ワイも実力ゼンブ、出すワ!」



 そうして、ジョーカーJr VS ガチナイト。

 柊カノン VS 天月カグレの試合が始まった。




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