研究施設④

「"特異点"?」

「おっと、ここから先は有料よぉ〜?」

「はぁ? アンタが勝手に言い出したことだろ。ちゃんと最後まで────」

「キャーーッ! 怖ぃ! 乙女を狙う野生の目!! あんたワタシの純潔を奪う気ね!!? やだやだ! まだお風呂も入ってないのに〜〜っ!!」


 また身体をクネクネさせる菊池。そんな姿に師人が渋い顔を見せると、菊池は落ち着いた様子で提案した。


「うふ、適合率云々うんぬんを度外視してもトランス星人と混ざっている貴方は"破格"の存在。情報代わりと言ってはなんだけれど、ワタシの実験に協力してくれないかしら?」

「…………断る」

「ふふっ、ふふふっ……残念、振られちゃった。たしかあの時もそうだったわね。ホント、聞き分けが悪いんだから」

「あ? それはどういう──────」


 菊池は質問をかき消すようにパチン、と指を鳴らした。その瞬間、ガラスに閉じ込められていたモルモット達が勢いよく放たれ、雪崩なだれのように次々と部屋中を満たし始める。


「そのままの意味よ。でも安心して、貴方の身体無理やり使わせてもらうから。さあ、ワタシの可愛いペットちゃん達……ケツの穴まで喰らいなさい!」


 不定形の粘性生物・狐や兎によく似た獣・人間を遥かに越える大きさの怪物。息をつく暇もなく、化け物共に囲まれた師人は戦闘を余儀なくされ、ただただ平然と構えた。


 と同時期、場面は変わって播磨はゆっくりと腰を下ろすと親指と人差し指の間からバチッ、と小さな電撃を放ちタバコの先に火をつけた。

 播磨は信徒の上で尋問を繰り返す。その視線の先には焼き焦げたもう一人の信徒が息絶えていた。


「んで、てめぇらの狙いつーか、目的はなんだ?」

「くっ……、何度も説明してるハズ。我々はいずれ"解脱"を成し遂げ、この世界……いや、この世界すらも内包した"外"へと赴くのだ!!」

「はぁ〜、またそれか。あのさぁ、難しい言葉を使えばそれっぽく聞こえるとか思ってんの? 人に伝わらない言葉に意味はねぇ。その腐った脳みそ、便所に流して出直してこい」


 播磨がそう言うとブリキ人形がカタカタとその首元に近づき、手に持つ斧を振り落とし、その頭を切り離した。タバコの煙が天井に当たるとスプリンクラーから水が勢いよく放たれ、赤い汚れは排水溝に流されていった。


 一方その頃、師人が荒波のような化け物達に押し出され、邪魔者のいなくなった部屋では菊池が隠し扉を出現させ、その中に足を踏み入れていた。


「時間と空間・科学と宗教。それらは全て"神"が創りし賜物たまもの。でもそんな"神様達"すらもおそらく、誰かが創った世界の住人にすぎない」

「そこで疑問。最も外側に位置する最高位の存在を超越した先、そこに"天井"はあるのかしら?」


最奥の部屋で独り言を話す菊池。その先には─────

「ね、なかなか興味深いでしょ? 朝陽ちゃん♡」

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