研究施設②

「マジかよ………」

 おぞましい光景を見てしまった播磨は落ち着きを取り戻すため、一旦用を足す。

 しばらく気張って水に流し、ズボンをあげてベルトを締め直す。やれやれ、と播磨は一仕事終えたように扉に手をかける。するとその瞬間、頭上から男の声が鳴り響いた。

 

「何をしているのですか?」

「ッ!!!」

 個室トイレ、正面の扉から視線を上げると二人の信者がこちらを見ていた。

 目と目が合い、お互いが瞬時に変異力オーラを身に纏う。


「男を覗いて楽しいか?」

 そして皮肉めいた言葉を播磨が呟いた瞬間、隔てていた壁や扉を破壊し、信者達が襲いかかる。


 播磨は先行して来た者の胸ぐらを空中で掴み、背後に投げる。そして追撃役の攻撃を躱し、斜め後ろから蹴りを入れた。


「妙な手応え……てめぇら身体イジってやがるな」


 信者達は当たり前のように受け身をとって反撃に移る。その攻撃をいなし、注意をそれぞれに向けながら拳を何度か交換する。


「そういう貴方は特異局の方でしょうか?」

「……違う。ただの変態だ」

「どちらにしても我らの邪魔。排除しましょう」

「だったら聞くなやボケ」


 二対一の攻防。体術・変異力はそこまでだが、その身体には機械化が施され、人間とは思えない動きで攻めてくる。それを何回か受け流した播磨はニヤリと笑い、床を踏み鳴らした。


「まだ手も洗ってねぇってのによぉ……水洗いした後にてめぇらの服で拭いてやっからな!!」


 一方その頃、控え室では大きなテーブルの周りを囲い、並べれていたお菓子を食べながら参加者同士、雑談を楽しんでいた。


(播磨さん戻って来ねぇな……ウンコか?)


 クッキー・ケーキ・饅頭・チョコ。どれも甘味で脳が蕩けそうな程に美味い。師人は警戒もほどほどに食事を満喫していた。


「皆さんはどちらから来られたんですか? 実は私、今回はじめて飛行機に乗ったんですよー」

「あ、えっと僕は近くに住んでるので歩いて……」

「なぜ貴方にそんな事を教えないといけないんですか? だいたい─────」


 今の所、参加者達に怪しい点は見られない。心優しく簡単にほだされそうな者・気が弱く自主性の無い者・自尊心プライドが高く神経質そうな者、その他諸々。信仰心を植え付ける人材としては、ベストだろう。


(しっかしコイツ等、さっきからいったい誰に話しかけているんだ?)


 師人は頬杖を付きながら、参加者達の様子を見ていた。隣にいる人間、正面や斜めにいる人間でも無い。皆は、ただただ何もない虚空に向かって語りかけていた。


 ひょいっと皿からビスケットを取って半分に齧る。


「まあ普通に考えて、菓子コレに何か入れてんだろうけど」

 参加者達はバタバタと白目と泡を拭いて一人、また一人と倒れる。幻惑剤か睡眠薬か、どちらにしても思ったより手が早いな。と師人は近くにいた参加者の脈や瞳孔を確認する。


「こりゃあ早いとこ播磨さんと合流─────」

 その直後、こちらに近づく足音に師人は気がつく。そして控え室の前、そこで人影はピタリと立ち止まり、その扉を開いた。




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