第十三話 修羅場
修羅場①
放心状態の夏目の元へと死神が近づく。抜け殻同然となった標的を見つけ、凛風はゆっくりと歩いて距離を詰めていた。
そこへ満身創痍の相良も二人の姿を発見し、何とか夏目の元へと駆け寄ろうとするも損傷激しく、動きが鈍い。
「うぐっ………!」
距離が遠い、そしておそらく鏑木を殺ったこの女には自分の攻撃は効かない。相良は高い潜在能力を持つがゆえに、その実力差をはっきりと理解していた。
凛風は刀を手元に創り出し、その切っ先を夏目へと向ける。どう足搔いても間に合わない、そう悟った相良は思わず叫ぶ。
「夏目ッッ!!!」
その声と眼の前の殺気に反応し、夏目は泣き腫らした顔を上げた──次の瞬間、凛風は振りかぶった刀をその首に目掛けて放った。
「やめろぉおおおおおッ!!!」
死ぬ、夏目と相良は失意と絶望の中でそう理解した。凶刃は空気を切り裂き、二人の予想を的中させるかのように命へと届いた。
がしかし、その軌道は首の皮一枚を切った所でピタリと止まった。
「ふぅ、なんとか間に合いましたねぇ」
夏目の首筋に一滴の血が流れる。そして鋭い刃先はカタカタと揺れ、その首をより深く切らんとするも"魔法の杖"がその行く手を阻む。
「キサマ、誰ダ……?」
凛風は後退し距離を開ける。そして自身の攻撃をいとも簡単に止めたゴスロリの少女に畏怖を覚えた。
「イヴ・クライストス。この子達の上司です」
「ババア!!」
「……相良くん、後でお話があります」
何か言いたげなイヴは周りを確認し、状況を幾ばくか察した。そして、この眼の前の女。アジア系のコイツこそが主犯だと確信した。
「ご相談があります、そこのお姉さん」
「……なんダ?」
「既にお互いが得をしない状況です。ですので、ここは引いてくださいません?」
それは諭すように穏やかで優しい口調だった。朗らかな表情に天使のような笑顔、誰もが心を開いてしまうような姿を敵の瞳に写していた。
しかし凛風は引かず、刀を前へと構える。
「合わせて四人。オマエはボーナスを受け取らず、家に帰れるのカ?」
「命あっての物種でしょうに。まあ言っても無駄、それも仕方ありません、ね」
イヴはその様子に威嚇の意味を込めて力を解放。そして超然たる姿へと変身したと同時、凛風との距離を詰め、その胴体に目掛け破壊の一撃を放った。
魔法の杖先は青龍刀を砕き、その軌道上にある空間ごと肉体に
そして衝撃によって抉れた地面の先、凛風は「うグッ」と血反吐を吐きながら変身したイヴの姿を見て、何かに気がついた。
「そうか……オマエはS級の……。それなら雇い主に文句は言われナイ…………」
そして一人納得したように踵を返し、疼く腹を抑えながら凛風はその姿を消した。
それからしばらくしてイヴは変身を解き、警戒心を緩めるように「ふぅ……」と後ろを振り向いた。
「お二人共、もう安心して────」
しかしその視線の先には相良と夏目が既に倒れ込んでおり、イヴの声がけに答える様子もなく深い眠りについていた。
「って寝ちゃいましたか。まあそれにしてもコレは……派手にやりましたねぇ」
少女の周囲には地獄、焦熱と黒土が汚す大地が広がっていた。そしてその光景の中には鏑木によって守られた生徒達が埋まっており、その事をイヴは薄々気がついていた。
頭を掻きながら棒のついた飴玉をポケットから取り出し、舐める。そしてこの場の事後処理と襲ってきた連中の後始末を纏めなきゃ、とため息を吐き、口の中でそれを噛み砕いた。
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