隠された力④

 修復しようとカルトが切断面を繋ぎ合わせる。そこへ相良と柊も満面の笑みで駆け寄ってきた。


「ほんまに一人でようやったな師人!」

「滅茶苦茶だけど、面白い戦いだったね〜」

「援護してくれるかなと思ってたら、ホントに観戦してましたねアンタ等」


 皮肉に肩をすくめる二人。歯牙にもかけない態度に何か言いたげな師人は、やれやれと再度打ち倒した敵へと視線を送る。そしてふと、気がついた。


「……あ?」


 骸と化した筈の死体。その腕が独りでに動いているように見える。頭を潰しても、死後しばらく行動する生物はいる。しかしあれは────。


「相良! アイツを止めろ!!」

「……ッ!!!」


 相良は叫び声と同時に死体へ距離を詰める。が、遅い。柊は後方から圧縮した火と氷の弾丸を打ち込む。しかし、それでも間に合わない。


 懐に入れられた手から、注射針のような物が取り出され、その針は肉体へと突き刺された。そして次の瞬間、人型の身体はその輪郭、その"体積大きさ"を急速に変貌させる。


「こいつはアカン! みんな走れ!!」

「怪我人に無茶を言うなし!」

「早く早く! 怪我人じゃなくて死人になっちゃうよ!」

「おっとそうや、コイツもついでに………!」


 肉塊は建物内を満たし、崩壊させる。そして遂に異空間そのものを超える大きさへと成長し、その姿を樹海に現した。


 増殖していく肉壁から逃げるように三人は走る。気絶した真鍋を抱え、そして結界の端の近くまで着くと振り返った。


「うおお、でっけぇ!?」


 そこには頭と腹が風船のように膨らみ、長大な触手が八本。全長数百mに及ぶ体躯を持った蛸型生物が樹海の木々をなぎ倒し、うごめいていた。


「宇宙生物……かな?」

「おそらく、あの注射針の薬効でしょうね」

「大きさ的に私のぶっ放しだけじゃ倒せないね〜」

「そんならコイツの宇宙道具アーティファクトで……ありゃ?」


 先程まで抱えていた真鍋がいない。相良はすかさず音響探知ソナーを発動させ場所を探る。が、見つからない。


 間違いなく現在地から数km圏内にいるであろう真鍋。全力で逃げていたとしても発見出来ないハズが………あっ。


「はぁ、はぁ……今頃アイツ等、間抜け面でオイラを探してる頃か? ヘヘッ! バーカバー──ッ」

「『異骨いこつ』」


 爆走する真鍋の眼前に突如、灰色の壁が現れる。まるで人骨を繋ぎ合わせたような十数m近い厚い障壁。真鍋はそれに勢い良く激突した。


「なッ、なんで………」

「真鍋さんっすよね? なんでこんな所にいるか知りませんけど、とりあえず拘束しますね」

「い、いやぁだああああああ!!」


 災難続きの真鍋は清水に偶然見つかり、抵抗虚しく会いたくもない三人とまた、合流した。


「んで、作戦なんやけど。真鍋にはさっきの砲撃をもう一回撃ってほしいんや」

「オイラは協力しない」

「まあまあ、冗談は顔だけにしといて」


 白糸が身体に巻き付き身動き取れず、木に吊られている真鍋。遠くで暴れる化け物の轟音と自身を見つめる公僕を前に、ギュっと眉をひそめる。露骨に嫌そうな顔をしている。


「……回数制限付きの武器をお前らのために使うメリットがあるか? 強力な分、もう一発使ったら廃棄ダメになるんだぞ」

「今回捕まえないことを約束するよ。それに、武器が欲しいなら羽依ちゃんの使った"拘束道具アーティファクト"をあげる」


 柊は真鍋の機微を汲み取り、少し譲歩することにした。本来、職員が犯罪者を逃がすことは無い。見つけ次第処理、が鉄則である。その上、武器の提供。


「いいんすか? コレ特異局の備品っすよ……?」

「戦闘中に破壊されたってことにする。いいよね? 二人共?」

「俺は何も聞いてないです」

「ワイもクワガタ探してたから何も知らへん」


 どこか遠い目をする師人と相良。その様子にあっ、と察した清水も報告書の内容には気をつけようと心に決めた。


「それで、どうかな? 駄目なら殺すけど?」

「……分かったよ。協力する。アンタ美人だしな」

「おっ、上手いね〜。おまけに宝石もつけちゃおっかな〜!」

「それはマジでやめてください」


 犯罪者に回収品まで渡そうとする先輩を牽制する師人。それに対してムーっと不貞腐れる柊。傍目から見ていた真鍋は、コイツ等ほんとに職員なのか? と戸惑っていた。

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