隠された力③

 変異能力は外部のエネルギーを内側に取り込み、練って流す。"天体術"はその逆。自身の変異力を外部へ放出し、特殊な現象を引き起こす。


 現象の発動を自動オートでやってきた地球人の俺には、その感覚が無い。前進しながら後ろを歩け、右を向きながら左を向け、と言われている気分だ。


『もしかしてうちの相棒……センスなさ過ぎ?』

「静かにしてくれ。人類初の試みだぞ」


 そもそも寄生生物カルトがいなければ地球人が天体術を扱うことなんて不可能。

 羽も無しに空へと飛ぶ。俺はそんな人類史上初の天体術師パイロットになろうとしている。


「まだ……」


 フロッドの触手がありとあらゆる方向から襲い掛かる。黒い短刀と長刀の二つを手にし、さばく。

 背後の守備ガードはカルトに任せ、正面に集中。これは根気の勝負、隙を見せた方の負け。


「まだだ…………」


 ほんの数秒が永遠とわに感じる。当たれば四肢や胴との決別。そんな猛攻が何十発も耳元をかすめる。

 そしてそんな渦中、師人は敵の吸収限界を超える一撃を狙い、研ぎ澄ましていた。


「クソ! 何故当たらん!!? 人間風情が我の攻撃を防げる訳が無い!!」

「この程度、相良アイツならもっと上手くやれてる」 


 無数の指先が乱れ始めた。統率されていた触手に隙が生じる。

 今しかない、冷静さを取り戻させるな。針の穴を通すようにその隙を突け。

 触手を返す刀で纏めて弾く。攻撃の勢いと流された反動でフロッドは一瞬崩れ、胴が開く。



『オレ様の夢は全宇宙の王となり、全ての生物を支配下に納めること!』

「……カルト、お前悲しい奴だな」

『はぁ!? シスコンにそんな事を言われるなんて確かに悲しいぜ』

「うっせぇな、一昨日言ってろ」

『ククッ、お前はお前のために、オレ様はオレ様のために、強くなろうぜ相棒!!』


 天体術は種族によって得手不得手があり、地球人に使用可能な系統は一つしかない。

 そしてそもそも、余程の天才でも無い限り一系統を極めることに惑星人は一生を費やす。


『だから、お前はを極めるんだ』

「なるほど、分かりやすくていいね」

『感覚はオレ様が補助する、だからまずはやってみろ。その技の名は──────』



 ガラ空きとなったフロッドの胴に目掛け、黒刀にありったけを注ぎ込み、振るうは横一閃。極限に集中した渾身の一撃。しかし、その直前


「ふはッ、馬鹿め! 我の誘いに乗ったな!!!」

 とフロッドの背中から更なる触手が突如として飛び出し、その矛先が師人の腹を貫いた。


 意識外からの攻撃は師人に致命打を与えた。下半身を失った身体は、空中からの自由落下を始める。

 でも今、そんなことはどうでもいい。アイツが完全に油断する、この瞬間をずっと待っていた。


「産声を上げろ、フロッド!!」

 師人は態勢を崩しながら、斜めの一閃。それを完璧に放つ────────


「『第一天体術だいいちてんたいじゅつ』・【神薙かんなぎ】」


 高密度の変異力が斬撃と共にフロッドの顔を穿つ。胸から上は後ろの壁と共に貫かれ、青い空が異空間の隙間から覗き込む。

 吹き飛んだ肉片は跡形も無く消え、ドチャ、といういう亡骸が倒れる音と同時に、師人も床へと落下した。

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