第二話 突然変異

突然変異①

 国連特異対策局:システム。地球外驚異に対する包括的な公務組織として世間に周知されており、十万人に一人と言われる変異者達で構成されている。


 彼らの献身的な活躍によって平和は維持されているが、その活動のほとんどは秘匿情報として世に出回っていない。


 そして彼らの基地アジトも例に漏れず場所すらも不明。組織が許可した者以外に立ち入ることは出来ない。

 そんな出入り口は何の変哲もない公共施設の窓や扉、果ては自動販売機に至るまで、様々な場所と繋がっている。


 認証を受けた変異者がその接触面に力を流し、開閉口かいへいぐちを開けるとワープゲートのような異空間が出現し、瞬間移動する。そしてそんな秘匿性の高い施設の一室に二人はいた。


「4秒かけて鼻から息を吸って」

「スーーッ……」

「8秒かけて口からゆっくりと吐く」

「フーー……」


 無機質な密室。体育館よりも一回り大きな部屋で、師人と清水は修行を行っていた。

 胡座あぐらをかき、両手の甲を膝に当てて背を真っ直ぐに立てる。その姿は修行僧の座禅と酷似している。


「その状態のまま変異力を全身に流す。慣れてきたら立って行う。更に慣れたら動きながら行う」

「……なるほど」

「体術訓練と合わせて出来るようになったら次に応用、ってな感じだな」

「う〜〜ん、これ意外と難しいっすね」


 システム職員はその実績と強さに合わせ、実務要員のS〜C級と非戦闘員のDに分けられている。


 階級の上下で組み、任務の実施または訓練にあたる。B級の師人がC級の清水と行動を共にしているのも定例に習ってのことだ。


「基礎は疎かにすんなよ。変異能力は人によって違うし、基本的にムラがあるしな」

「なんでみんな違うんすか?」

「イヴに聞いた話だが、地球人の持つ因子が"魂"に反応して発現しているらしい」


 スピリチュアル的な話だから信じてねぇけどな、と師人は肩をすくめる。


〚天国行ったのに?〛

「うっせぇよ」

「ハハ、共仲良しっすね」

「一人だけどな。あーー、すまん。話を続ける」


 その発現方法や理論メカニズムはまだ謎とされている部分が多い。しかし分からないなりに研究されている。


「能力はざっくり分けて四つに分類される」


・物質系 特殊な物質の具現化・操作

・概念系 事象の支配・改変

・契約系 式神の使役・他者間との絶対契約

・偶像系 創作における存在への変身


「身近な例を挙げると相良は概念系、イヴは偶像と物質だな」

「なんで先生は二つなんすか?」

「【変異解放】つって特定の条件を満たすとごく稀に、第二能力が発現すんだよ」


 覚醒条件は人によって千差万別だが、ぎわに会得する者が多い。無能力者から変異者、変異者の第二能力獲得も同様だ。


「なるほど、先輩のは?」

「俺のは物質系、器を創って操作してるからな。おそらくお前の『骨』も同じ……──」

 ふと顔を上げ、時計を見る師人。話の途中でそれを視界に捉えると、ハッとした表情を浮かべ走り出した。


「悪い清水! ちょっと出さなきゃいけねぇ書類を思い出した!! すぐ戻る!」

「了解っす〜」


 数分後……………………。


「あっ、戻ってき───」

 訓練室の扉が開く音。清水はふとその方向へ視線を向けると、そこにいたのは師人では無く。


「あれ? 見かけない顔だ。最近入ってきた新人ちゃん?」

「あっ、えーと。こんちわっす」


 毛先を巻いたブロンドヘア、耳元にはイヤリング。白のトップスにテーパードパンツを身に纏う。清水はそんな人物と邂逅かいこうしていた。


「むむむっ!」

「顔が近いっす……」

 もう少しで鼻と鼻が触れそうなほどに近い。ジーッと見つめてくる目鼻立ちはとても整っていて、嫌でも緊張してしまう。


「新人ちゃん、あなた────」

「は、はい」


 それから時が経って5分後。


「ふ〜、あぶねぇ。経費書類に合ったー。いやぁごめんごめん、清水待たせた……は?」

「ぶあははははははははははは!!!」

「おほ〜可愛いいね〜〜。ほれほれ〜〜〜」

「ちょ、辞めてくださいっす! アハハハ! そこはヤバッ、ーーーッ!!」


 突然の光景に思考を停止させる師人。


 修行の合間あいまを抜け出し急いで戻ったその目に映ったのは、可愛い後輩が思いっきり知り合いにもてあそばれている姿だった。


「先輩! そんなとこで見てないで助けてくださいっす!! ヘルプミー!!」

「なんで!? もっと遊ぼうよ〜!」

「清水スマン、その人……俺の先輩なんだ……」


 どうしようもねぇ、と呆然ぼうぜんと立ち尽くす師人。猫可愛がりされる清水。そして一心不乱に服の中に手を突っ込んでくすぐる女。そんな三者三様の混沌カオスはとある一室でしばらく続いた。


「ひぃ〜〜〜〜〜〜ッ!!」

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