未知との遭遇②

 花畑で目を覚ました。仰向けの状態から師人はガバっと体を起こして辺りを見渡す。遥か先まで続く草原。穏やかで暖かな気候が心地良い。


「……あの世?」


 衣服を身につけ、傷や痛みがまったく無い反面、直前の記憶ははっきりとしている。そのため師人は自身の死を確信していた。


 現世の行いは別としてココが地獄とは思えない。


 師人は顎に手を当てながら考える。しかし考えても仕方ない。とすぐに気が付き、久々にボーッとしよう、と師人はまた寝そべった。


 空に浮かぶ雲がゆっくりと流れていく。自然と心が安らぐ。入職してからこれほど気を休めたことがあっただろうか? と思い起こした。


「………ッ!」


 しかし師人はすぐに後悔した。残された家族、妹のことを思い出したからだ。

 脳内に不安がよぎる。うぅ〜ッとしかめっ面でうなる。そして身体をゴロゴロと右へ左へと揺らす。それをしばらく続けると。


「……仕方ねぇ、出来ることはしてみっか」

 と師人は立ち上がった。

 

 服についた草や汚れをパッパッと払い、そしてまずは周囲の散策からでも始めるか。と適当な方向へ師人は歩き出した。と次の瞬間。


「おーーーい! そこの地球人〜〜〜ッ!!」


 背後から聞こえる身に覚えの無い声。何が来ようと面倒だが、確認しない訳にもいかない。と師人は踵を返して視線を声の主へと向ける。するとそこには─────。


「あッ! 気がついたぁ!? それなら話が早い! オレ様と契約してくれ〜〜ッ!!」


 全力でコチラに走ってくる宇宙人がいた。


「誰だよお前」


 真っ黒な全身に赤く染められた輪郭を持つ人型の影。その周囲には赤黒い小さな雲のようなモノがプカプカと浮いており、例えるなら"足の付いたランプの魔人"といった印象。


「やっと見つけたぜ……」


 両手を膝に着いてハァハァと息を切らしながら話しかけてくる魔人。新手のドッキリを仕掛けられているのか? と思う程に状況は混沌を極めていた。


(ん? なんかコイツ見覚えが───あっ……)


「お前、隕石野郎に引っ付いてたヤツか……?」

「おう、その通り! オレ様はカルト、トランス星人のカルトだ!」

「いや知らねぇよ」


 トランス星人。他惑星が行う"変身"の手本となった種族。生命活動に変異力を必要とするが、自己保管が出来ないため別種族に寄生する特殊な宇宙生物でもある。


 そしてカルトは寄生先を転々としている際にくだんの巨大生物に侵入したものの、制御が効かず暴走。そして地球へと飛来したそうだ。


「それで?」

「オレ様は訳の分からん強さの女に殺された」

「……うちの上司か」


 ときさかのぼること数分前─────。


 師人が圧死してしばらく、土砂崩れと波の引き戻しで被害は拡大。当の加害者ほんにんである外来種は自然災害など意に介さず、丸めていた体をゆっくりと広げ始める。


 山のような巨体はドーム状になっており、地球上の生物で例えるなら"亀"に最も近い姿に見える。軽く手足を動かすと地響きが発生し、緩んだ地盤は更に崩れる。


 そんな化け物を、上空から覗く少女が一人いた。


「永岡くんにS級任務はまだ早かったですかねぇ」


 白いタイツに二重きの黒い靴下。ローファー。長袖の真っ黒なゴスロリ服はえりだけ白く、胸元には六芒星ろくぼうせい刺繍ししゅうが入っている。


 プカプカとちゅうに浮かぶ華奢きゃしゃな身体に透き通る肌。ハーフアップの編み込みに真っ白な後ろ髪は腰まで伸びてかぜなびく。おもむろに少女は目を閉じるとフーっと小さな息を吐き、片手を前へと突き出した。


「死んでしまっては仕方ありません。労災は降りませんが……仇は取ります」


 次の瞬間、小さな煙と魔法のステッキがその手にポンッと現れる。そして地に伏す敵を視界に捉えながら少女は唱えた。


変身へんしん」・『天使降臨メタモルフォーゼ

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