プロローグ②

 高熱の光が頭上をかすめる。円柱状の攻撃は三人の背後に位置する建物をドロドロに溶かし、巨大な穴を作り出す。


 格好つけて構えた数秒後、身の危険を感じ瞬時に伏せた。判断がほんの少し、刹那でも遅ければ三人の上半身は溶けた氷のように消えていただろう。


「あっぶねぇ!」

「労災おりへんのに勘弁してや」

「世知辛いッスね……」


 伏せる地球人達を前に敵性宇宙人は次弾を向け始める。その様子を見て三人は一斉に散り、それぞれが別方向へと距離を取る。


「恐らくワイらより強いで、コイツ」

「どうします?」

「俺が撹乱かくらんする。相良は攻撃、清水は捕獲さいごを頼む」

 

 指示を出し終えると息を吸ってゆっくりと吐く。そして目の前の人外へ、口上こうじょうを伝える。


「器物損壊及び変身義務違反・公務執行妨害の罪で…………お前を制圧する」


 少し間を置き、師人は敵に向かって一気に距離を詰める。そして目と鼻の先、間合いに入った瞬間、能力を発動。


「『原初の種カオスゲノム』」──《からす


 無数の黒い鳥が何もない空間から突如とつじょ飛び出す。視界を遮るようにそのからす達は縦横無尽に舞う。真っ黒に覆われた生物の群れに、人外は一瞬気を逸らしてしまう。そして今、この時、この瞬間。


相良さがらァッ!」

「分かっとるわボケ!!」

 黒く覆われた人影に相良は鋭い刀を振りかぶる。本身を当てる直前、能力を発動。刃元から切っ先にかけて高周波の"振動"がび、震え出す。


「『真動ドラムり」

 その斬撃は周辺を浮遊する鴉諸共からすもろとも、豆腐を切るようにスッとその肉塊を貫通。


 肩から斜めに切り裂かれ、敵胴体の上半分が重力に沿って落ちていく。視界を塞いでいた鳥達も霧のように消えていく。完全に捉えた、が…………。


「は? うせやろ?」


 青色の血液。半固形スライム状の血が落ちかけていた上半身を繋ぎ止め、時間を巻き戻すようにその体を再生させていた。

 相良はその光景に怯む。そして次の瞬間。


「ダメだ相良! 逃げ────ッ」


 ダメージが治れば、続く術式は再発動する。


「冗談は顔だけにしてくれへん……?」

 熱は一気に収束され、光はまばゆい程に周囲を照らす。先程までとは比べ物にならないエネルギーがほんのれいコンマ数秒で構築される。


 絶死ぜっしまばたきをする暇も無く肉体は消え失せる、そう二人は悟った。しかし術式が発動する直前、それは既に着弾していた。


「アーティファクト起動オン


 人間の骨が幾重いくえにも重なり、土台となって銃身を支える。照準しょうじゅんは対象の頭を捉え、引き金を引くと同時に起動。そして真白まっしろな銃弾は解き放たれた。


 たまは敵を貫き内部へと侵入。そして血液・肉体の水分を吸収し極小の糸を生成。

 白糸は血管・骨・神経に至る全てを縛り上げ、皮膚を突き破る。全身を覆う脱出不能のまゆを一瞬にして作り上げた。


「……何が起きた?」

「分からん、でも五体満足なんは確かや」


 回避のため床面に深い穴を開け、塹壕ざんごうの代わりに身を屈めていた男二人は静寂せいじゃくに気が付き、ヒョコッと地面から顔を出した。

 

 穴から覗いた視界に写ったのは巨大なさなぎ状のまゆ。自身の身に起きた事態と目の前の状況を呑み込んだ二人は地中から飛び出し、そしてふと後ろをふり返った。


「どやぁ!」

 内心をそのまま声に出しながら、清水は仁王立ちで胸をフンッと突き出し、自信満々の表情をコチラに向けていた。


「「…………」」


 ムカつく顔をしていたが二人は意に介さず、ゆっくりと近づき、その肩をポンッと叩く。


「今夜は朝まで飲むぞ」

「もちろん師人の奢りや」

「ぶさけろ、お前も出すんだよ」

「ホンマでっか!?」


 死にかけた直後でも飄々ひょうひょうとする二人の姿を見て清水はアハハッと大きな笑顔を見せる。その様子に気がついた相良さがら師人しびとも、照れくさそうに笑った。


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