2話 世界は、

 彼らの住むカザーニィという国は、戦場となった草原から二時間ばかり歩いた場所にある。人口二千にも満たないような小国で、国とは名ばかりの村のようなものである。人々は温厚かつ善良で、作物を耕し無益な争いを好まず、甲冑集団のように攻めてくる者どもから国を守る為にのみ武器を取るのであった。

 とはいえ、戦闘力はそこらの国よりも遥かに高く、俊敏な動きを可能にする丈夫で軽い毛皮と二本の短剣を併せ持ち、〝戦乙女〟と呼ばれる女性指揮官の元に最小限の流血で場を収める。〝戦乙女〟は未だかつて一人の命も手に掛けたことのない、不殺の勇者として有名だった。先の戦いでも自国の戦死者は一人も出さず、敵国から出た一人の死者は墓を作って丁重に弔ってきた。

 世界のことを少し話そう。

 幾らか昔、世界中を巻き込む巨大な戦争が起きた。今では核大戦と呼ばれ、不戦の契りを交わしている国々をも否応なく戦火の中に引きずり込み、生み出すものといえば死者、死地、灰の空。そこらは人々の亡骸で溢れ返った。

 世界人口は極端なまでに減少していった。力のある国が惜しげもなく核を落とし続けたのが主な原因だろう。信じられないことに、あれ程も蓄えられていた核兵器が、その開発者も含めて存在しなくなるまでに戦争は激化したというのだから、怒りや恐怖を通り越して呆れるばかり、風刺のような核兵器根絶である。

 そして現代。世界の人口は数百万から数十万とも言われているが定かではない。

 生き残った人々は日本の縄文時代さながらの生活を送り、各地で国と呼ばれるコミュニティを形成していたが、どこもカザーニィのように村レベルの人の少なさであった。

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