第4話 キャラクター

 子供のころ、お菓子の包み紙が捨てられず、それでよく怒られていた。包み紙に描いてあるキャラクターがかわいそうに思えたからだった。子供向けのお菓子のパッケージに描かれたかわいらしいキャラを見ると、ゴミ箱に捨ててしまうことに罪悪感を覚えた。今現在で言うならば、ぬいぐるみをゴミに出すのに近い気持ちだったのだと思う。

 ある日、いつものように3時のおやつを食べた後、私は机の上に残されたパッケージを眺めていた。赤い袋の真ん中に、かわいいうさぎのキャラがプリントされている。これをゴミ箱に入れなくは、またごみをほったらかしにしていると、母に怒られる。だが、例の罪悪感によって、なかなか捨てられない。

 やっぱりいやだなと考えながらパッケージのウサギを見た。擬人化されたかわいらしいうさぎ。笑った表情。

 ふと、ウサギの絵の降格が動いた。笑顔になっていた降格がさらに吊り上がった。まん丸の目がアーチ形にゆがみ、黒目が動いた。それは私の方を見据えていた。

 プラスチックの包装に描かれたイラストは、醜悪な笑みに顔をゆがめ、私の方を見てにやついていた。

 私は声もなく立ち上がり、背を向けてすぐに部屋を出た。その時は家に誰もいなかったので、気に留めてくれる人はいなかった。

 1時間ほどたって、勇気を出して戻ると、包装に描かれたウサギのイラストは元に戻っていた。言っても誰にも信じてもらえないと理解していたのか、一人しかいないので自分が何とかするべきだと考えたのかどうかはわからないが、私はパッケージの方を見ないようにしながら手に取り、ごみ箱に放り込んですぐにふたを閉めた。

 これ以来、私はイラストが描かれた包み紙を遠慮なく捨てられるようになった。

 今でも、お菓子はあまり好きではない。

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