最初は——

迷迭香

最初は?

 日本のとある学校にて。



 そこには向かいあう2人の男女の姿があった。

 2人はニヤリと口元を歪め、大きく手を振りかぶり同時に宣言する。


「「最 初 は!」」


(グー! と見せかけてパー! だがしかし、所詮ここまでは小学生レベルのフェイク! 読心術と心理学に長けた君にチョキを出させてグーで粉砕してくれるわ!)


(甘い! それならパーで握り潰すだけ! だけど彼は心を読める超能力者、この思考すら読み通してチョキを出してくるはず!)


(ははぁん? グーを出そうとしてるなぁ? パーで返り討ちだ!)


(見えたっ! それなら私はチョキで—)

(ならばっ!)

(裏をかいてっ!)

(甘い!)

(あえての—)

(さらにその上で!)


 尚ここまでの思考戦、実は現実時間では2秒にも満たない。


「「ポンッッッ!!!!!」」


 両者が同時に出したのはグー。

 刹那の硬直の後、静寂を破ったのは堪えるような小さな笑い声だった。


「......ふふっ、はっっはっっはっっ!!! ヒリヒリさせてくれるねぇ! やっぱり君は最高だよ!」


 男は天を仰ぎ高らかに笑い始める。


「ここまで熱い読み合いを交わしたのは生まれて初めてですよ。さぁ、続きを楽しみましょう!」


「もちろんだとも! それじゃあいこで!」



 ————————————————————



「「あーいこでしょっ!!」」


「「あーいこで———」」


 その光景を少し離れた席で眺める2人の男女、それぞれ目の前でジャンケンを繰り広げる2人の男女の親友だ。


「ねぇ、あの2人何やってんの?」


「見てわからない? ジャンケンだよ」


「いやまぁそれはわかるんだけどさぁ、ここ20分くらいずっとああしてるもんだから」


「あぁ......ジャンケンでハイになってるんだね。読心術者の末期症状だよ。ああなったらもう手遅れ、多分あのジャンケン2人が飽きるまであのまま終わらないね」


「不毛じゃね?」


「うん、だからさっさと帰ったほうがいいよ。どうせそのうち勝手に辞めるでしょ。それじゃあお先に」


 そう言って女子生徒は立ち去った。


「あぁ......うん。そっか、まぁあいつら楽しそうだしいっか」


 やがて、男子生徒もやや呆れたように苦笑いを浮かべて帰路に着いた。


「ほい!」

「ほいっ!」

「ほぉいっ!」

「ふぉい!」

「ふぉふぉいのふぉい!!」


 余談だが職員曰く、2人の掛け声は最終下校時間まで絶えず響き続けたという。

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最初は—— 迷迭香 @Rosemary_45

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