第40話 敵地へ
山間部演習場──
「『エコー』、内部を調べてくれ」
「調べてくれ。本当にここなの?」
「間違いない」
俺、シュヴァリエ、『エコー』の三人は演習場の周囲に建てられた柵に身を寄せながら中を覗き込んだ。
当然のことながら授業時間以外に生徒が中に入ることは校則違反。
見つからないよう、柵の木目の隙間から中を覗き込む。
入り口付近には作業員たちが出入りした痕跡はあるが、人の気配はしない。
小高い山が木々をうならせながらそびえたっているだけだ。
これなら魔法を使っても気づかれないな。
「間違いない……。わかったわ。やるわよもう。『ウィンド・ソナー』」
半ばあきらめたようにため息をつくと、『エコー』は周囲に魔力の風をまとわせた。
彼女に縋りつくように巻き付いていた風は、彼女が山の方へ腕を伸ばすと、その腕を滑走路のようにして飛んでいった。
「──あった。 『クジラ』の魔力の跡がある」
「でかした! 場所は?」
『エコー』の指がスッと伸びた先は、演習場の山の中腹当たり。
見た感じでは何の変哲もない岩場だ。
「ここから洞窟は見えないな」
「見えないな。当然。岩の扉でふさがれてる」
俺が口を開いたがそれを遮るように『エコー』が続ける。
「開き方は知らない。自分でどうにかして」
「わかったよ。ありがとう」
まあ、さすがに頼りすぎだな。
ここに来たのも基本的には俺とレイトの戦いのため。
シュヴァリエと『エコー』はその付き添いに過ぎない。
短く息を吐き、気合を入れなおす。
ここからは短期決戦だ。
油断は許されない。
シュヴァリエの方を見ると、彼女も胸に手を当て、深呼吸し緊張をほぐしていた。
「私はどこへでもお供します。レグルスさん」
「ああ。頼りにしてる。死に行くぞ!」
そうして俺たちは洞窟へと向かった。
☆
洞窟入り口付近──
「──。ここ。この岩の裏にある」
『エコー』がそっけなく指し示したのは山を切り崩して作った山道の山肌に埋め込まれていた一枚岩。
その大きさは人間の身長は優に越していて魔法でも相当魔力を籠めないと動かせそうにない。
「さすがに仕掛けがあるか?」
目を閉じて魔力の流れに感覚を研ぎ澄ませてみるが、魔力を使ったトラップの類は見当たらない。
だったらどう入った? 抜けた?
あごに手を当て、ゲームで培った知識どもをひっくり返す。
「レグルスさん! 岩が!」
唐突なシュヴァリエの叫びに振り返るとあれほど仕掛けを探しても動かなかった一枚岩が音もなく開いていく。
「──バレてるか。誘われてるな」
「誘われてるな。 この奥よ」
「待ち伏せは確実にされているでしょうね」
俺が先頭、続いて『エコー』、殿にシュヴァリエといった布陣を組み洞窟へと足を踏み入れた。
洞窟内は湿気と渦巻く魔力で息苦しいほど空気が重く澱んでいる。
「ひゃあ!?」
「シュヴァリエ? 大丈夫か?
「は、はい……。ここ、水脈が通ってるんですね」
シュヴァリエにつられて天井を見上げると、わずかだが水滴がしたたり落ちている。
長居はしたくないな。
「『エコー』先はどうなってる?」
「どうなってる。空気が重くて見づらいけど、行き止まりまで一本道」
魔物はさすがにいないと思うけど、いつ不意打ちを食らうかわからないな。
腰に佩いたデュランダルに手をかけ、薄暗い洞窟を慎重に進んでいった。
「──。もうすぐ行き止まり。広場になってるみたい」
「ずいぶん歓迎されてるな」
ここまでトラップも、襲撃すらもなくすんなりと来てしまった。
この洞窟での襲撃は想定されていなかったのか、それともそれほどに俺たちを自分の手で殺したかったのか。
「歓迎するヨ。君の死ヲをネ」
「なっ……!」
首筋で息遣いが感じ取れるほどの距離。
音もなく現れた『クジラ』が俺の首をはねる。
「レグルスさん!」
「大丈夫! かすっただけ!」
一回目の死亡はかすり傷だ。
こっから死ななければいいだけの話!
すぐさま首を復活させ、シュヴァリエの隣まで後退する。
「客人には親切にすべきだと思うけど……!」
「君は及びじゃないしネ。少なくとも僕ハ」
『クジラ』の視線の先、洞窟の最奥から両刃の剣を引きずるようにして一人の男が現れた。
「レグルスゥゥゥ!!! コロス!!」
「レイト!?」
生気を失った白い肌に血走った目。
憎悪をむき出しにして向かってきたレイトはもはや先ほどまでの、俺を見下し傲岸不遜にふるまっていたあのレイトではない何かに変わり果てていた。
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