第34話 詰問
【シュヴァリエ視点】
我が物顔で馬車を降りていくリーナの後についていくと、なぜか息を切らしているデュネブが屋敷の入り口で出迎えてくれた。
「あの……なぜ、息が入れているのですか?」
「それは、ですね……。私も、ついさっき屋敷に戻ってきたばかりでして……。あと敬語はおやめください。私は、お二方の執事なのですから」
ヒューヒューと肩で息をしているデュネブが苦しそうに説明した。
ですがなぜ靴が作業靴なのでしょうか?
「それはですね、ここだけの話にしてほしいのですが、ハァ……あの学園に清掃員として紛れ込み坊ちゃまのサポートをしているのですよ……」
デュネブさんの話によると、クレイモアの当主様がレグルスさんを気にかけたらしく、常に気づかれないように見守っているらしい。
清掃員の方とは何度もすれ違っているのにデュネブさんに気づきませんでした。
執事とは思えないような隠密能力ですね……。まるで暗殺者のような。
「全く、当主様も私の年齢を考えていただきたいものですな。ここまで走ってくるのに精いっぱいですよ」
「いま何と?」
「ここまで走ってきたのです」
すみません。よくわかりません。
言葉は理解できるのに内容が理解できなくて頭の中が空っぽになっていました。
言葉に詰まっていると、今まで静観していたリーナがデュネブさんの前に立ちました。
「疲れているところ申し訳ないんだけど、クレイモア当主のもとへ案内してくれるかしら?」
デュネブさんは声が聞こえた方向を見るや否や、頭を下げ跪きました。
「お、王女様!? も、申し訳ございません! 今すぐに!」
そう言うと、デュネブは屋敷の中に何か合図をするとそそくさとリーナをエスコートしながら執務室の方へ向かっていってしまいました。
あれ? 私置いてかれてます?
「私はもう一人で動けるでしょ、ということでしょうか……」
「ということでしょうか? 違うわ。私が案内する」
いまだに部屋の位置が覚えきれていない屋敷を見上げ、途方に暮れていると、特徴的な口調の少女の声が玄関から聞こえてきました。
声の主の方に首を向けると幼い少女が立っていました。
「えっ!? 『エコー』!? ま、まさか脱獄……!?」
「脱獄……! 違うわ! ここで働かされてるの! 強制的に!」
幾分姿と仕草がかわいらしくなっていますが、あのレグルスさんを襲撃した『エコー』に間違いないようですね……。
服装から察するにメイド、でしょうか。
「罪人をこんな自由に働かせているなんて……」
逃げられたりしないのでしょうか?
「自由に働かせるなんて? 逃げられないわ。これがあるもの」
スカートをまくり上げた太ももに見えるのはレグルス家の紋様。
なるほど、奴隷紋で制約をかけているのですか。
「なら、ちょうどいいですね。私の部屋に案内してください」
「案内してください? ちょうどいいってどういうこと」
『エコー』が疑り深くにらんできましたがひるむことなくにらみ返しておきました。
良かった。私が自分の部屋の位置すら覚えられていないことはごまかせたようですね。
「その話は私の部屋でしましょう。連れて行ってください」
『エコー』はまだ腑に落ちないのかむすっとした顔のまますてすてとついて来いというように歩いて行ってしまいます。
彼女についていくこと数分、見慣れた私の部屋に戻ってきました。
「ありがとう。それで話なのですが」
「話なのですが。何?」
デスクに座り、『エコー』を正面から見据えました。
まるで彼女の内部をすべて見透かそうとするかのように。
「『傍観者』について教えてください」
その名前を聞いた瞬間、『エコー』の身体がビクッとこわばるのがわかりました。
やはり彼女、『傍観者』について何か知っているようです。
「教えてください……!? どこでその名前を……?」
「テミスさんを殺したのは『傍観者』ですよね?」
レグルスからテミスさんのことは聞いています。
彼女の疑問には答えず質問を畳みかけていきます。
「『傍観者』ですよね! 言わない。絶対。私は『十二座』だから」
「そうですか……」
やはり単純にはいきませんか……。
ではこちらは?
「あなたたちは誰の依頼で動いているのですか?」
「動いているのですか? 言わないし、あなたが知るべきじゃない」
私が知るべきじゃない?
私だけが知るべきじゃないでしょうか?
そうしたら、だとするならば……
「まさかフォーマルハウトが一枚噛んでいるのですか?」
再び『エコー』の身体がこわばる。
ということはレグルスさんを襲ったのもテミスを殺したのもフォーマルハウト家の指示なの……?
ただの権力闘争のために犯罪に手を出したの?
見透かすように『エコー』は目を細めると、
「噛んでいるのですか。あなたは自分の親の悪行を清算する覚悟はあるの?」
「っ……それは」
私の一族が、両親が引き起こした問題だ。私にも責任があるのはわかってます。
でもその悪行が、大きすぎて抱えられないのです。
でも──
「私はっ、もうレグルスさんから離れたくないっ……!」
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【あとがき】
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