第32話 山びこ、二股に分かつ

 学園入り口──


「では、私たちは先に行きますね」

「おう。父さんに遅れること伝えといて。……ん? 私たち?」

「あら、王女が出向くのはいけなかったかしら?」


 もはや自然と俺たちと行動するようになったリーナが小綺麗なワンピースでたたずんでいる。


 つつがなく学園生活を送り、初めての連休。

 俺は『エコー』に『十二座』について尋ねるためにクレイモア領に戻る予定だ。


 ついでにシュヴァリエも帰るつもりだったんだけど……


「えっと、家に連絡入れましたかね?」

「なんで敬語なの? 連絡なんて入れてないわよ。ダメかしら?」

「普通に親が爆死するから……王族なんて急に来たらてんやわんやだからね?」


 いくら、家が貴族だからって急に王族が来て対応できるはずないからね……?


 リーナはなぜか楽しそうにほくそ笑む。


「手厚い歓迎なんていらないわよ。こちらが勝手に正室のお願いするだけだから」

「なっ、リーナ!? 何言ってるんですか!?」

「NTRなんて死亡フラグの塊ルートはいかないから!!」


 正室問題だと今度はフォーマルハウトから殺されそうだね!?


「レ、レグルスさん……」

「いやいやいや!? こんな目の前で浮気するわけないだろ!? リーナだって冗談で言ってるんだし……」

「あら? 私は本気ですよ!?」

「ややこしくすんなぁ!! ほら馬車来てるから早く行きなよ!!」


 疑わし気ににらんできたシュヴァリエを何とかなだめ、何一つ反省していない顔をしているリーナと共に送り出す。


 もうリーナがわからないんだよ。あいつが何したいのかが見当つかない。

 ただ、俺に対しては良い印象を持ってくれていると思うんだけどなぁ。


「ってそうだ。俺も早くリノのとこに行かないと」


 連日の魔法実習で魔法を暴発しまくっていた俺の手はもはや元の皮膚の色を忘れかけるほど包帯でぐるぐるにまかれている。


 今日はその定期検診があるのだ。


 急いで帰らないと彼女たちに、いやリーナに何されるかわからない。

 リノには申し訳ないけど早く検診終わらせるように催促するか。


 小走りで保健室へ急ぐ。


「いた!! 待てやレグルス!!」


 出会い頭に襟をつかまれ喉からつぶれたカエルのような声が漏れる。


「いきなり掴むな! ってレイト!? なにすんだよ!」


 首元の手を強引に払いのける。


「なんか言えよ」


 レイトの目が少し緊張しているように見える。


 なんだ? 違和感でしかない。


 少し口元を震わせるとレイトは口を開いた。


「お前に決闘を申しこむ」


 ☆

【シュヴァリエ視点】


 馬車に揺られて半日、ようやく覚悟ができました。


「あ、あのリーナ? さっきのは……?」

「半分本気よ」

「半分!?」


 ちょっと待ってください? えっと私がレグルスさんの婚約者で、リーナは学園で初めて知り合ってからまだ1か月くらい。でもリーナはレグルスさんに気があって?


 展開が早すぎて頭が追いついていません。


 言葉を失って口をパクパクさせている私に目もくれずリーナはとうとうと語りだしました。


「嘘というのは正室になるというところ。さすがに婚約者がいる男を寝取ろうとは思ってないわ」


 私の瞳をリーナはじっと見据えてきます。


「でも、彼に対する想いがないわけではないわ」


 彼女の口からこぼれた言葉が頭を駆け巡る。


 なんで? なんでこんなにも胸の奥が澱んでいくの? 苦しくなるの?


「貴族なら側室がいても問題ないでしょう? 王族が側室になるのは異例だけど、私が王族から離れるのだから問題ないわ」


 お願いだから一回口を閉じてください。


「あなたの想いも聞いてみたいわ。私が側室になるのは嫌かしら?」

「っ……それは」


 反射的に口を開いたが言葉が続いてこない。


 私は、どういう気持ちなの? 何がしたいの? 


 パニックになっていたのかもしれない。

 致命的な一言がぽろっと漏れてしまった。


「私って、レグルスさんのこと好きなの?」

「そういえばあなたたち政略結婚だったわね」


 違う、私が言いたいのはそうじゃないの……!


「シュヴァリエにその気がないならいいわよ。私が先にあの人と愛をはぐくむから」

「嫌っ……! 違うの!」


 リーナの口から愛とか「あの人」とか聞きたくない!


 自分の感情を名づけられない私にお構いなしにリーナは追撃し始めました。


「何が違うの? 政略結婚でレグルスのことが好きでないのでしょう?」

「そうじゃないんです! ただレグルスさんへの気持ちが何なのかわからなくて……」


 頭を抱えてうつむく私の顔をリーナは両手で鷲掴みにして自分の顔まで引き寄せました。


「わからないってのは甘えじゃないかしら。自分の行動を思い返してみなさい。必ず言葉にできるはずだから」


 そう諭すリーナの顔は子供を励ます良き親のようだった。

 そうか、この人最初から正室なんて──


「あら、いいタイミングだったのに着いちゃったわ。答えはまた後で聞くから頑張って考えておきなさい。さもないと彼、取っちゃうわよ?」


 そう言うと従者の手を取りリーナは馬車から降りていってしまいました。


 私は、私の気持ちは、まだわかりません。

 でもこの気持ちは名前を付けて大事に取っておきたいな。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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