第31話 必要ない味方が一番の敵

【レイト視点】


「レイトさーん。助っ人連れてきましたよぉ」


 寮の中庭で剣を振るっていると、名無しの『協力者』が声をかけて来た。


「お前となれ合うつもりはない。帰れ」

「いやいやいや。レイトさん一人であの3人に勝てるんですか?」


 バキッ!!


 激しく地面に打ち付けられた木剣が真っ二つに砕ける。


「誰が3人相手するって言ったんだよほら吹き。俺がぶちのめしたいのはレグルスだけだ」

「そんなぁほら吹きなんてー。それにあなた一回負けてますよねえ?」


 違う。あの時はまぐれだ。偶然攻撃が噛み合っただけなんだよ!!


 鍛え上げても半分のレベルのシュヴァリエに全ステータス劣るような奴にこの『勇者』が負けるはずがない。


「もう、負けることはないって言ったんだよ。早く消えろ」

「そんなに自身があるんですかー? じゃあ早く倒してきてくださいよ」


 どいつもこいつも俺に指図しやがって……!!

 俺は勇者だぞ! お前たちNPCが指図していい人間じゃない!!


「お前らの手なんか借りなくたって十分だって言ってんのがわかんねえのか!!」

「いいんですか? 僕たちとあの家、両方への反抗とみなしますけど」


 畜生……! 


「クソがっ……。せめて名乗れよ。それが勇者に対する誠意ってもんだろうが」

「そうですねえ。僕は『傍観者』って呼ばれてますかねえ」


『傍観者』? 聞いたことがない。


「本名は?」

「モチヅキ・トキオミ」


 ひゅっ、と喉がうなる。


 こいつも転生者? だとしたら俺にかまう理由は? 協力する理由はなんだ?


 目的がわからない。


 背中を大粒の汗が伝う。


 脳内で情報がまとまらず目を白黒させている俺を眺めて満足したとでもいうように『傍観者』がにぱっ、と笑う。


「なんてね。偽名ですよ。騙されました?」

「ふざけんのも大概にしろ!!」


 言い終わるより早く、俺は怒りに任せて地面を蹴っていた。


 一回立場をわからせねえといけないみたいだなぁ!


 なぜか『傍観者』は余裕の表情で突っ立っている。


 ムカつくムカつくムカつく!!


 俺の腕が『傍観者』の襟へと伸びていく。


「『水泡鎧』」


 瞬間、『傍観者』が纏った激流に耐えきれず俺はバランスの悪い体勢で止まっていた身体ごと地面に激しく打ち付けられた。


「手を出すのはご法度だヨ。僕たちは協力関係なんだからネ」


 ゆらりと空間がゆがみ長髪の男が現れる。

 すかさず男は俺に馬乗りになり、人当たりのいい笑みを浮かべた。


「お前、まさか……!」

「あれ僕のこと知ってるノ? 名乗る手間が省けたヨ。ありがとネ」


 何で『クジラ』がいるんだよ!?

 っていうか『十二座』は勇者とは敵対してるはずなのに!


「さっきから見てたけど、君と僕たちの共通点はレグルスを倒すこと、それだけなんだヨ。それ以外の部分でぶつかると──」


『クジラ』が拳を片方、そっと俺の額に当てる。


「命、もらうヨ?」


 動作自体はゆったりしていていつでも避けられるはずなのに、俺の額には脂汗が浮かび、首の筋肉は一本芯が差し込まれたかのように動かない。


「クソッ……で、お前らは何がしたい……!」

「簡単な作戦を実行したいだけですよ。僕たちの目的を達成するにはレグルスさんの力が必要なんですよ」


 伝えられた作戦はこうだ。


 今度の休日、シュヴァリエとリーナがレグルスの家に訪れるらしい。そのタイミングで俺はレグルスの足止めをしろというわけだ。


「なあ、質問なんだけど別に倒してもかまわないだろ?」

「うん。できるならネ」


 こいつらの作戦に乗るのは癪だがまあいい。

 今は協力しておいて後で裏切ればいいだけだ。


「じゃあ、そういうことデ。準備しておくヨ」


 そう言うと『クジラ』はまた空間を揺らして消えていった。


 多分『月下鏡』だなあれ。


 さっきみたいなことがあったんだ。作戦終了後は特に暗殺を警戒しとくか。


「では僕も行きますね。頼みましたよ」


『傍観者』も人に媚びるような厭味ったらしい笑みを浮かべながら事務室へと戻っていった。


 いまだに状況がつかめない。

 なぜ勇者である俺が敵組織『十二座』と手を組んでいる?


 なぜ『十二座』の目的のために俺が動こうとしている?

 そんな今の状況はまるで──


「俺が悪役みたいじゃねえかよ……!」

「そんなこと言わないでヨ。『十二座』がかわいそうじゃないかナ?」

「うおっ!? まだいたのかよさっさと帰れ!!」


 姿を見せた『クジラ』のささやきで全身の毛が逆立った。


「君は本当に『勇者』なのかい? 『勇者』らしく勝ってくれることを期待しているヨ」

「黙れ!! 俺はレイト・タレスとして生を受けた!! それだけで俺は勇者に選ばれた人間なんだよ!! てめえに言われなくてもわかってんだよ!!」


 クソッ、嫌みだけ言って消えやがった……!


 最後の最後まで人を舐めやがって……!


 いいぜ。てめえらはレグルスの次に潰してやる。

 お前らもレグルスも俺の成功を邪魔してきたんだ。その報いは受けさせてやるよ!


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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