第9話 坊ちゃまがよくわからない
【デュネブ視点】
クレイモア邸執務室──
「それで、二人はどうだった」
「初対面でしたのでお互いに探り合っているような印象でしたが相性は良好だと思いますね」
「そうか」
そう呟くと当主様は手元の書類に視線を落とし黙り込んでしまいました。
クレイモア家の当主、シリウス・クレイモアさまは寡黙な方だ。
理知的で効率を重視し無駄を嫌う人間味の薄いその性格は時に頼もしく時に不気味に感じていました。
レグルス坊ちゃんもそのような人間に育っていくのだと思っていました。
屋敷が襲撃されるまでは。
その事件からというものの坊ちゃんは人が変わったかのように裏庭に出て鍛錬するようになりました。
ガニメデスに剣術の教えを請い、私に魔法の鍛錬をせがんできました。
このお方の中で何かが変わった。使えるべき主君としての何かが備わったような気がしたのです。
それまでの坊ちゃんは一日中部屋に引きこもり、部屋から出るように忠言したものなら即座に解雇、処刑を命じるような大変気難しく恐ろしい方だったのです。
自分の命が惜しくて、いつしか私も含め使用人の内数名ほどしか坊ちゃんに近づかなくなっていました。
そんな崩れかけた橋を渡るような生活の中でついに粗相をしてしまいました。
坊ちゃまが賊に襲われてしまったのです。
これは何たる失態……と腹を切ってお詫びしようとしました。
しかしそこで問題が発生したのです。
「いやいやいや!? そんなことしなくていいから!!」
心臓が止まるかと思いました。
あの坊ちゃんが私の失態を見逃そうとしてくださったのです。
あの方に寛大な心があった。お優しい方になったのです。
今の坊ちゃまを知れば使用人たちも坊ちゃまのもとに集まってくるでしょう。
その直感を信じて私は坊ちゃまの行く末を見守っていきたい。
「それで」
私が感動に震えているところに当主様の声が刺さる。
「襲撃の件だが、進展はあるか」
「申し訳ございません。なかなか尻尾が出ない者でして……」
「そうか。フォーマルハウトにもはぐらかされたしな。人員をガニメデスの捜索に回せ」
「いいのですか? 根本を叩かなければまた坊ちゃまが襲われるかもしれません」
せっかくお代わりになられたのだ。彼の行く末を阻むような要素はなるべくこちらで潰しておきたいのです。
当主様も次期当主となる坊ちゃまを亡くしたくはないはずですが……。
「それでいいのだよ。あいつには的となってもらう。デュネブ、お前も見ただろう。あいつは大抵のことでは死なんよ」
確かに屋敷襲撃で我々が彼を発見した時、彼のシャツは胸元がぱっくりと切れ、明らかに刺された形跡があるにもかかわらず坊ちゃまの身体には傷一つなかった。
「確実な証拠をつかむまでは泳がせておけ。これはあいつのスキルの確認も兼ねている。目を離すなよ」
「承知いたしました」
死なずにいるスキル、もしくは身代わりをスキルか。
どちらにしろ権謀術数渦巻く貴族社会では保険となる優秀なスキルです。
私も似たようなスキルがありますが、もし坊ちゃまのスキルが死を防げるものであれば、
「もしお前と似ているスキルならお前のもとでしごいてやれ。元王国専属諜報員のお前ならうまく育て上げられるだろう」
「承知いたしました。ですが私の元でとなると学園へ入学した後、あまり時間が取れないと思いますが」
「そうか、もう2か月もないのか。スケジュールは考えておく」
そう言うと当主様は立ち上がり部屋をあとにしようとしました。
「寮生活か……デュネブはさすがに学生には……なれないか」
当主様? 私ゴリゴリの中年ですよ?
──────────────────────────────────────
【あとがき】
少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」「期待できる!」と思っていただけましたら
広告下から作品のフォローと星を入れていただけますとうれしいです。
是非作者のフォローもお願いします!!
読者の皆様からの応援が執筆の何よりのモチベーションになります。
なにとぞ、よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます