気力と自爆魔法で無双フラグに変えてやったわ!!~エロゲの自発的追放系悪役貴族に転生したけどスキル「根性」があったので死亡フラグを踏み倒してみました。~え、シナリオは!?俺の推しは?いない!?~

紙村 滝

第1話 転生早々……し、死ぬぅ!?

 その日、俺は短い一生を終えた。

 転生したという実感はある。

 しかしなぜ死んだか思い出せない。


 というか思い出す余裕がない。


 なぜなら──


「待てクソガキ!!」

「なんでなんだよおぉ!!」


 転生したら襲撃の真っただ中だったからね!!


 後ろには鬼の気迫で追ってくる黒ずくめの賊。

 目の前では絶賛炎上中の我が家(推定)。


「レグルス・クレイモア!! 逃げるなぁ!!」

「逃げるに決まってんだろ! 転生早々死にたくないんだけど!?」


 無駄に広い屋敷を右に左にと逃げ回っている中で、廊下の曲がり角に駆けられていた鏡で、自分の姿を一瞥した。


 黒髪で? 少し人相が悪いがまあまあ整った顔立ちで? 名前がレグルス・クレイモアねえ。


 逃げると情報整理のマルチタスクをこなす中、俺は気づく。


 どうやら俺は18禁学園ゲーム『魔剣学園メルトダウン』に登場する悪役噛ませ犬系貴族レグルス・クレイモアに転生してしまっているらしい。


 なるほど。経緯もきっかけもわからん。


 ただ一つわかるのは、


「なんでこのタイミングで転生したんだよ……。普通もっと安全な時に転生するもんだろうが……」


 追っ手をまき、庭にあった納屋に駆けこんで、荒い息を整える。

 見るからに高価そうな瓶や雑多な木箱などが詰め込まれているが隠れられるくらいのスペースはある。


 ここで本来のレグルスなら護衛の名前を叫んで逆に賊に見つかって終了エンドを迎えるだろう。

 俺もこのゲームは全ルートクリア済みだがどのルートでも基本的にこのレグルスは頭がよろしくない。


 場にそぐわない発言、身勝手な行動によって反感を買い、死んでいく噛ませ犬がこいつだ。


 だがしかし!

 こいつの身体に宿ったのはこの俺だ! 転生直後に死ぬような馬鹿なことはしないんだよな!


 息をひそめているとドタバタと音が響いていた納屋の外が静かになる。


 曲がりなりにもこいつもとい俺の家は貴族だ。雇っている護衛が賊を討伐したのかもしれない。


 ふう、ひとまず落ち着けるか。


「屋敷襲撃なんてシナリオ、こいつになかっただろ……」


 そもそもレグルスは主人公を活躍させるためだけにいる脇役だ。

『魔剣学園メルトダウン』は剣と魔法の異世界を舞台に主人公がバラエティ豊かなヒロインたちとイチャコラを繰り広げる学園ゲームで、メインのシナリオルートでも何百のルートに分岐している。


 とにかく量が多いことを売りにしたこのゲームにおいて序盤から登場し、人気キャラ選挙圏外常連のクソ野郎。それがレグルス・クレイモア。

 なまじ伯爵の嫡男なだけあって、金だけは余るほど蓄えている。


 そのせいで世の中全てを金で解決しようとする自己中人間が完成してしまった。


 その結果?

 夜の誘いを断ったメインヒロインを凌辱しかけ、言い寄ったサブヒロインたちに逆恨みし自ら魔王を召喚しようとして儀式に巻き込まれて死ぬとなんとも悲惨な結末を迎えることになる。

 死んでからも魔王にこき使われて


 なんともまあ自業自得という言葉が似合う人生である。


 だがその人生において屋敷襲撃なんてイベントは存在しない。


 俺が転生することになるようなストーリの脱線があったということか?


「うーん、今考えても意味ないか……」


 とりあえず生き延びること最優先で生活していくしかないかなぁ。

 そうすれば自ずとヒロインたちからも振り向かれるでしょう。多分。自信ないけど。


 とりあえずの結論が出たところでもう一度耳を澄ませる。


「……あれ? 俺見捨てられた?」


 一件落着したなら俺を呼ぶ声が聞こえてもよさそうなんだけど?

 屋敷は広いけど声が聞こえないほどではないし……


「下手に動くよりかはじっとしているほうがいいか」


 ふう、と息を吐き壁に向かう。


 そしてそのまま頭を壁に打ち付けた。


 なんで俺がこいつに転生したんだよぉ!!!

 どうやっても死ぬじゃん!? 生まれた瞬間ジ・エンドな奴に生まれ変わったって死ぬまでの時間が伸びただけなんだよぉ!!


 どうせ俺の最推しにも嫌われてんだろ……。転生した意味、とは?


 さすがに頭の頂点が痛くなってきた。


「っていうか静かだなー。もしかしてみんな寝ちゃった? そこまで俺嫌われてんの? ふてくされてこの家で自給自足するけど?」

「そうだな、他のものは床で寝ているな」

「うおぁ!! 誰だお前!?」


 弾かれたように振り返ると先ほどまで追ってきていた賊が目の前にたたずんでいた。

 黒いシャツに黒いズボン、黒い布で口元を覆っていて人相はわからない。


「お前を探していたぞ」

「そんな野太い声で言われてもときめかないのでせめてヒロインになってからお越しくださいまたのご利用をお待ちしてまぁす!!!」

「うるさい。死ね」


 俺の懇願を聞くはずもなく賊はナイフを逆手にもって突っ込んできた。


「し、死ぬって!!」

「あきらめろ。潔く死ね」


 本能的に横に転がって何とか避けるが、すでに賊の刃が目の前に迫って来ていた。


 じりじりと後ずさり距離をとる。


「──あっ」

「だからあきらめろと言ったはずだ」


 背中にざらついた壁の感触。


 えー、転生早々ゲームオーバーかもです……。

 まわりには──木箱と瓶のみと。


 賊が追い打ちをかけるように納屋に火を放つ。

 賊の手から放たれた炎は一瞬のうちに納屋全体を舐め回すように駆け回り、その熱で頬の産毛をじりじりと焦がしていた。


 せめて、せめてこいつを道連れに……! 何もしないで死ぬのは、嫌だ!


 この熱量の中でも賊は顔を布で覆い、表情を見せない。


「入学前に殺せと仰せだ。俺も長居はしたくない。死ね」


 ついに俺の左胸にナイフが突き刺さる。


「ただでっ、死にたく、ない!!」


 全身を駆け巡る激痛でまともに目も開けられない中、俺は最後の力を振り絞って瓶を賊の頭に叩きつけた。


 徐々に暗くなる視界には俺とシンクロするように倒れる賊の姿があった。


 一矢報いただけの、転生人生でした。

 何も楽しくないって……。


 こうして俺は一度死にかけた。

 そしてスキル『根性』を手に入れることになる。


 つまり──

 もう一回死んでも大丈夫!!


 残り2機からのコンテニューである。


──────────────────────────────────────


【あとがき】


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