成り代わりの簒奪者

ただ仁太郎

第1話 マーカス・フォン・リヒター


 「第一師団整列!」


「ここより、我らは死地に入る。我らの祖国を守るための戦だ。死んでも、祖国を守るのだ!」


(何が祖国だ。僕たち奴隷には祖国なんて存在しない。人間以下の家畜の扱い。今まで、そうやって生きてきた。)


「突撃せよ!!」


軍曹の指示により、奴隷で構成された突撃部隊は玉の餌食となりつつも、前へ特攻する。


ババババーン!


仲間だった同胞が次々と銃弾の前に倒れていく。


「!」


流れ弾が僕の腹をかすめる。


ここまでなのか!?


だが、最期まであがいてやる。


銃剣を懸命に振り回し、敵を斬る斬る斬る。


だが、傷口のダメージは男を着実に死へと向かわせた。


体力が尽き、男の世界は暗くなった。


ドサ!


一週間前


「我らが陛下は、寛大な決断を下された。この戦に従軍した奴隷は皆、奴隷ではなくなる。市民の身分が手に入るのだ。ゆえに、祖国の戦だ。心して、我らの国を敵から守るのだ。」


役人が貧民街の広場で声高らかに演説する。


「義姉さん!僕たちは奴隷じゃなくなるんだ。」


「ええ。そうね。」


「これからは、暖かいパンも食べれるんだ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「急報だ!村が占拠された!」


「!」


あそこには、義姉さんがいる。あそこは武器庫なんだ。


そんなわけがない。義姉さんは無事なはずだ。



「義姉さあああああああああああああああああああああああああああああん!」


そこには、義姉だった物が無機質に横たわっていた。


僕は義姉さんだった物を運び、埋葬した。


「僕もすぐにそっちに行くよ。少しでも、義姉さんの仇を取ってからね。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「!」


俺はまだ生きているのか?


目が覚め、俺はゆっくりと起き上がる。


周りには無数の死体が横たわっている。


「?」


敵将の死体が目の前にあった。


「!」


そこにあったのは、俺と同じ顔をした男の死体だった。


この軍服から察するに、階級は少尉か。


男の衣類を探ると軍人手帳が出てきた。


「砲兵隊所属 マーカス・フォン・リヒター 少尉」


俺は男の軍服を着て、男になりすまし、敵地に潜入することに決めた。


応急処置だな。


まずは、マーカスの荷物にあるライターで、火を起こし、患部を焼いた。


激しい痛みに耐え、俺は、堂々と敵地へ向かった。


俺に祖国はない。


たった一人の肉親が俺のすべてだった。


俺はすべてを奪う。


世界から。


利用できるものは何でも利用してやる。


今日から俺がマーカス・フォン・リヒターだ。


その日、名もなき奴隷だった男は人知れず、この世から消えた。


そして、それは一人の将校に成り代わり、後の世界に名を刻むこととなる。

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