第18話 変貌するオールド・トーキョー



 


 「…それで、羽根の生えたライオンみてぇな奴だったけどよ、こいつで一発で仕留めたぜ!」


 ヨモギの元に戻ってきたルールーがそう言うと、彼は設置されたマーカーをモニターで捉えながら、


 「ええ、それはマンティコアと呼ばれる魔獣です。一発とはまた、良い腕していますね」


 ヨモギがそう評すると、ルールーはまんざらでもなさそうにニヤリと笑い、


 「ああ、良い腕さ! それに義体の性能もダントツとくりゃあ、怖いもん無しだな!」


 得意気に言い放ち、担いでいた電磁ライフルをテーブルの上に載せた。


 「それにしても、たったの四日粘るだけであんたの求める変化は起きるもんかね」

 「それは確定している訳ではありませんが、かなり変化が起きているのも事実です。マーカーの発信電波がこれだけ明確に受信出来ていますし」


 そう答えるヨモギの傍らにダンカンが立ち、二人の会話に混ざる。


 「…二人とも浮かれた話に水を差すみたいで悪いが、回線が少し回復してきたみたいなんだが…」

 「おっ! 早速兆しが見えてきたみてぇだな! で、どんな具合だ? ハヤマは元気してっか?」


 そう快活に話すルールーだったが、ダンカンの返答に彼女は表情を変えた。


 「…オールド・トーキョー砂漠駐屯地から、俺達を捜索する部隊が派遣されたらしい。但し、俺らの生死は問わず、って事みたいだ」


 「…つまり、って意味だろう」





 【おいっ!! ハヤマ!! 返事しろってんだよっ!!】


 まさか自分に直接連絡が来ると思っていなかった葉山は、しかもに出たトイレの中でルールーの声を聞く羽目になった。


 【…ルールーさん!? 今何処に居るんですか!】

 【ああ? 何処に居るだと? んなもんオールド・トーキョーに決まってるじゃねーか!!】

 【そ、それなら良かった…もし、オールド・トーキョーを出たと判ったら、直ぐに遠隔で…自決装置を作動させられてたんですから…】


 ネット通信を介しての会話である。長くなれば他のオペレーターや監督に知られてしまう。そう考えた葉山は、直ぐに決断した。


 【…いいですか、ルールーさん。現在、お二方を追跡する為、基地内の全身義体化兵全員がオールド・トーキョーに出向いています】

 【はん! そんなの当たり前じゃねーか! …でも、全員かよ…で、いつまで戻れば良さげなんだ?】


 長々と話せないと理解し、葉山は手短に話す。


 【猶予はあと、三日です。自決装置を作動させるのは規定通りの四日目の午前零時、それまでに戻れば作動だけは回避出来ます】

 【けれどよ、オールド・トーキョーは電波変調が激しいんだろ? 一回や二回作動させた所で効き目有るのか?】

 【…四日目以降は、常に起動スイッチが入り続けますよ? のらくらしていても電波が回復した途端、アウトです!】


 【だから…それまでに帰って来てください!】




 「おい、ハヤマは何て言ってたんだ?」

 「…三日まで待つってさ。それと、義体化兵はフル・スクランブルだとさ」

 「うげぇ…そりゃ難儀だなぁ」


 通信を終えたルールーにダンカンが話し掛け、返答を聞いた彼は渋い顔になる。


 「ノーナンバーの新米共はともかく、ランカークラスの連中まで駆り出されてるとなりゃあ、出会ったら面倒だな」

 「ふーん、面倒だけで済むのか?」

 「…あのな、ルールーさんよ。こっちはお前さんがを覚えた頃から海兵隊で逆さ吊りにされてたんだぜ? いちいち誰々が来るからってビビってたら仕事になるか」

 「おーおー、オッサンがムキになっちゃって…でも、そっちがそうなら仕方ねぇよな? 最新型の性能って奴を存分に見せてやるぜぃ!」


 そう言うとルールーが拳を突き出し、ダンカンもニヤリと笑いながら自分の拳を押し付けた。




 【…メーデー! メーデー!! 畜生、どうなってんだ!? ガーランドがやられた!!】

 【単独では無理です! 直ぐに離脱してください!】


 オールド・トーキョー駐屯地内のオペレータールームは、義体化兵の悲痛な叫びとそれに対応するオペレーターの声が交錯し、未曾有の混乱状態になっていた。


 「義体化兵アタッカーの状況は?」

 「…捜索継続可能な者は十四、破損し帰投途中が八、行動不能が四…交信途絶が、六です…」

 「一体どうなってるんだ…まるで一斉蜂起としか思えん!」

 「ランカーの【ケーニヒス】から、通信来ました」


 報告を聞いたブーソン監督が声を漏らすと、タイミングを合わせたように上位ランカーのケーニヒスから連絡が入る。


 【…現在、戦闘継続中だが…他の連中がどうなってるか知りたい】

 「こちら、ブーソンだ。半数以上が落伍している。そちらはどうだ」

 【…こちらは問題無いが…弾薬が尽きそうだ。一旦出直すので補給の準備を願いたい】

 「ああ、準備しておく」


 通信終了と共に換装区画へ作業用ドローンを配置させ、弾薬ケースや交換用パーツが保管庫からローダーに積載されて運び込まれる。やがて帰投したケーニヒスともう一体の義体化兵が換装区画に現れ、破損した装甲カバーを交換し弾薬を補給し始める。


 【…電磁ライフルの弾を弾き返す連中がゴロゴロ居た。報告書に無い奴にも出会ったし、現在のオールド・トーキョーは今までと違い過ぎる】


 デジタル通信で報告しながらケーニヒスは背部ラックに弾薬ケースを、そして使い物にならなくなった高周波ブレードを新しい物に換え、経口補給液を飲み干した。


 【…監督、ランカー以外は戻した方が良い。今のままでは全員死ぬ】


 ケーニヒスはそう告げながら無人運搬車両のラックを掴み、荷台に乗り込むと再びオールド・トーキョーへと戻っていった。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る