14 Vtuberにも理解のあるお姉さん


 初日のリア凸は、ほぼ世間話で終わった。

 配信部屋をチラッと見たらピカピカと光ってた。焦って扉を閉められたけど。

 それで、おそらく配信中だったのだろう。20分もいなかったとは思う。


(でも、なんで家にあげてくれたんだろうか)


 別れ際にまた来てくださいって言われたから、また時間があったら行ってみよう。VTuberの生態気になるし。


「蒼央さん的に配信者やVTuberの顔を知るってどう思います?」


「ん~? あ、もうちょい右ぃ……んっ! イイ、んじゃないかな」


「蒼央さんは肯定派と」


「小説書いてるとそういう人と知り合うこともあるしね~。別に気にしてない」


 小説家のコミュニティってことかな? 確かに、通ずるものはありそう。


「蒼央さん的に『ましろん』のどんなところが好きなんです?」


「なにぃ~? 心音くん嫉妬ぉ?」


 ニタニタとされて、強めにツボを押すと足ピンをして悲鳴を上げていた。


「ましろんの好きなトコは素直だからかな」


「ほお」


「大人はね、いい返事をしてくれる子とか、元気な子を見るだけで元気が出るんだ。あと、年齢相応で悩んでる子っていうのは愛おしいもんだよ~。だからましろんを応援したくなるんだ」


 だって、と言いながらぼくを見上げた。


「頑張ってる子って応援したくなるだろう?」


「……なるほど。そうですね」


「あとは、キャラクターのモデルが私の小説の表紙と挿絵を担当してくれてる絵師さんだからってのもある」


 配信画面と小説の表紙を映して、ほら〜と見せてくれた。


「分かったら、もっと下の方を押してくれえ~……そこぉ……イイ……」


「頭にはツボが多いらしいですから、頭を揉むの気持ちいいですよね」


「ぐううううああああああああああ……ほぼ性行為だよ、こんなの……」


 ましろくんの良さは「素直」か。そういう観点で配信を見たことが無かったから、参考にさせてもらおう。


(今までは、ゲームが上手いかどうかって基準で見てたからなぁ)


 下手なプレイを見ると腹が立つ……とまではいかないけど、なんでもっと上手くなろうとしないんだろうとは思う。

 だが、ましろんは「人柄も良し」で「ゲームも上手い」との話だ。

 課題をする時に、ちょっと見るようにしてみようかな。





「ってな訳で、また来ちゃいました。ましろくーん」


 やっ、と片手にビニール袋を引っ提げてリア凸をした。


「ど、どうぞ! 部屋は片付けてますので!」


 名前は一度目の時に聞いた「かなくさましろ」で、高校生らしい。

 まさか活動名と同じ名前だとは思わなかった。


「ましろくんはGW?」


「はいっ!」


「そりゃあそっか」


 スーパーで買ってきたものを出しながら会話をしていく。

 食事は定期購買してる冷凍ご飯か、フードデリバリーって言ってたから、手料理を振る舞ってやろう。

 他人に振る舞うほどの腕はないけどさ。蒼央さんに作るようになって、ちょっとは上達した気がするし。


『冷凍ご飯とかフードデリバリーで栄養気にするの大変で。あと、誰かに作ってもらうご飯が恋しいんです。パパとママは外国にいるし……』


 悲しそうな顔でこう言われたら、ぼくで良ければ作るけど、ってなる。

 だって、寂しそうなましろくんの顔がぼくに刺さりすぎて……ねぇ?


「じゃあ、配信し放題だ。ごはんまだでしょ? キッチン借りるね~」


「ありがとうございますー!……えっ? いま、なんて」


 あ、やべ。

 配信とかの話題とかってまだしてなかった。


「なんっで!!!! しってるんですか……!?」


 耳まで真っ赤になって詰め寄って来られた。どうどう。

 なんて言おうか。隣に住んでるから声が聞こえては違うな。


「部屋の中が見えた時に、パソコンがついてて、NOW ON AIRってネオンの看板も見えたからさ」


「あ、ああっ……ええっと……」


 1回来ただけの人がプライベートに突っ込んでくるのは怖いよな。


「あと、昔のボクの自室みたいだったから、してるのかなぁって……うん、そんなかんじ」


 これ、だいぶ苦しいか?

 別に嘘ではないから……うん。NOW ON AIRの看板なんて持ってないけど。


「……お姉さんも配信してるんですか?」


「昔ね! パソコンが古くてまともに出来なくなっちゃったんだ。だから、ここ数年は見る専」


 陰キャだからねぇ。運動神経悪いし、友達付き合いもなかったら、自ずとゲームに行き着くんだよ。


「そうなんだ……お姉さんも配信を」


「うんうん。配信界隈には詳しいつもり! 理解もあるし!」


 危なかった。ギリギリセーフ。

 胸に手を当てて、「そういうことにも理解があります」と態度で示しておいた。

 

「…………これは。でも、お姉さんになら知られても……いいんじゃないか……? そう、か、うん。いいな。わるいことなんてない、し……後々言おうと思ってたし……。あと、長くいてもらえるかもだし」


 ぶつぶつとなにか言ってるけど聞こえない。何言ってるんだろ。

 そうしていると腹が決まったような顔でこちらまで近づいてきた。

 キッチンに立ってるボクに、かおを緊張させながら。


「おねえ……さん。このことは、誰にも、言わないで、くださいね」


 手をぎゅっと握ってきた。わぁ、すごい汗ばんでる。 

 

「大丈夫だよ。なに……?」


「ぼく、じつは、配信してて……お金稼いでて……」


「えー、すごい」


 知ってるけど。


「それで、その……VTuberというヤツで、顔出ししてなくて」


「高校生なら顔出しはしないほうがいいと思うし、良いんじゃない?」


「ですよね! そう、ですよね……!」


「趣味だもんね。好きなことして、お金稼いでるのはすごいと思うよ」


「~っ! ありがと、ございまず!! しょ、正直、趣味理解してもらえることってあんまりなくて……日本の人、オタク文化すごいって聞いてたのに、全然周りに居なくて……だから!」


 ズイとかおを近づけてきたましろくんの目は宝石が映ってるのかと思うくらいキラキラと輝いている。


「めちゃくちゃ、いま、嬉しいです!! 今日、配信がんばります!! あ、今日も配信があるんですけど。二時間くらいを予定してますので、その間……えーと、どうしよ……」


 ちらちらと時計を気にする様子のましろくん。

 

「料理作っておくから良いよ~。できたらまた教えるね? 配信頑張って」


「ありがとうございます! すみません!」


 そうか、GW中だから昼間から配信することもできるのか。配信前にお邪魔しようと思ってたんだけど申し訳ない。


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