俺と魔女との邂逅録 ~あとは野となれ山となれ~
内村一樹
第1話 変わってしまった世界
「会社も日本も何もかも、全部無くならないかなぁ」
名前は
今日もいつもと同じように、お客様の
ネクタイのせいで首が苦しい。でも、
それに俺は知ってる。
着替えたところで、この息苦しさが消える事なんて無いんだよな。
このまま眠ってしまおう。
眠っている間だけは、この
そう思って
気が付いた時、俺はベッドの上から放り出されてた。
っていうか、寝返りを打ってベッドから落ちたってところかな。
まぁ、そんなことはどうでもいいや。
とにかく、この固い床のせいで痛む
そうして、
「っく……思ったより派手に落ちたみたいだな……」
ベッドの高さは大したことないはずなんだけど。
っていうか、ベッドから落ちたのに目を
なんて思った俺は、ふと、左手の指先がどす黒く染まっていることに気が付く。
「ん……これは、血? は? え、どういう……」
画面が
ボロボロと
そんな風に引かれるように背後を振り返った俺は、
「は?
俺の部屋の壁が
どうしてそうなったのか、良く分からない。
1つ言えることは、その
「
それにしては、静かすぎる気がする。
もっと、サイレンの音とか人の声とかが聞こえて来ても良いはずだ。
「いや、ちょっと待て。そもそも、
ここでどれだけ考えても仕方が無いことだよな。
なにより、
「まずは、部屋から出るべきか」
思い立ったが
とはいえ、完全に
っていうのも、俺の左手にこびりついてた
後でしっかりと
ちょっとふらつくけど、
あとは、これからどこに向かうかだな。
なんてことを考えながら、
「今はまだ、ここで大人しくしておいた方が良いと思うぜ」
「誰だ!?」
そんな俺をあざ笑うかのように、その声は再び声を掛けてくる。
「
「外の様子?」
降りかけていた階段から背後に
俺の部屋はアパートの3階にある。
つまり、俺が今いるこの通路も、3階にあるワケだ。
そんな通路からアパートの前の道を見下ろせば、ある程度の
声の主が何を言いたいのか、少しでも情報を集めようと視線を動かした俺は、すぐに気が付いた。
アパートの前の道を、何か小さな
それも、1つや2つじゃない。
人間にしては細すぎるけど、2足歩行をしてるから犬とかでもない。
俺が知ってる限りで一番近いシルエットをもつ生き物は、猿とかになるかな。
まぁ、猿でもないような気がするけど。
「何だよ、あれ」
手に
その様子を見送った後、そう
「オイラも詳しくは知らねぇ。でも、お前を助けてくれるって感じでもないのは、見て取れただろ?」
「それは、確かに」
探していると言っても、
どちらかと言えば、そう、
「奴らはな、お前ら人間を
「人間を!? って、お前はそれをただ見てたって言うのか? 助けてやれよ!」
「ははは、冗談もほどほどにしてくれよ、オイラが人間を助ける? そんなの、無理に決まってんだろ。それに、お前さんでも助けるなんて出来っこないんだぜ?」
「直接は無理でも、誰か助けを呼ぶとか」
「それも無理なんだよ。まぁ、起きたばっかりのお前さんには、理解が追いつかないだろうけどなぁ」
「どういう意味だよ」
この声の主は、俺をおちょくるつもりなんだろうか?
なんていう俺の
「この世界は変わっちまった。そういう意味だよ」
その声の直後、4階へと続く階段から、1匹の
「おうおう、良い表情してるじゃねぇか。やっぱり、人間の
「んなっ!?
「まぁ、そういうことだ。1週間前、この世界が変わっちまった時から、猫は言葉を話せるようになったんだよ」
「マジかよ!?」
「まぁ、
「……意味分かんねぇ」
言葉を失う俺を見て、どこか得意げな表情を浮かべた黒猫。
この時の俺には、その表情こそが、この世界が変わってしまったことを示しているように思えてならなかった。
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