23. リトライ スタバ(颯介)

 え?本物?


 ナディア・ストーンじゃない?

 

 俺は、大興奮した。テレビやネットニュースでよく見る、超のつく世界的有名人が俺たちの目の前にいた。


 その格好いい女性が、「ナディアガム姫」と呼ばれている世界的な作家だとすぐに俺は気づいた。ガムとは読み始めたら読み終えるまで物語の展開に粘着してしまうと言う意味をかけてつけられた名前だ。で、本人はそう呼ばれることに対して、「光栄よ」と言っていたので、メディアからは普通にそう呼ばれていた。

 そうそう、そもそも本名が長いからね・・・


 ナディアの隣にいる若い男性は、彼女の旦那さんだとすぐに分かった。確か、カウボーイだよね?あーなんて名前だったか思い出せない。


 幽霊のダッカー王子もいて、この前一緒にUFOに乗ったサファイアという女の子もいた。


「ゲーム スタート」の文字が、頭上に大きく斜めに現れた時、ナディアとその隣の旦那さんは一瞬たじろいだ。「やっと会えたわ!」の後、ゲーム開始を告げる巨大文字を見た二人の反応は、「え?何これ?」だった。

 

 と言うことは、だ。


 初めてナディアとジャックはこのゲームに巻き込まれたと言うことになる。ははーん、俺の方が先輩だ。そう俺は勝手に思って、一瞬先輩ヅラして良い状況かな?と思った。ちょっと嬉しいし、ちょっと得意だ。ようこそ!このやばいゲームに。ナディア姫と旦那さん。


「あなたは誰?」

 ピーターがナディアに聞いた。


「私は、ナディア。そして、こちらは夫のジャックよ。」ナディアが爽やかにピーターと、ジョージアとレオとダッカー王子とサファイアに言った。


「僕はピーター、妹のジョージア、弟のレオ、そして、こちらはダッカー王子、そしてサファイアだよ。」ピーターは礼儀正しく紹介した。


「あ、俺は颯介です。」忘れられまいと、俺もすかさず割って入って自己紹介した。


「あなた、有名なあのナディア姫?」サファイアが興奮気味にナディアに聞いた。

「ええ、そうよ。」ナディアはにっこり笑ってサファイアに言った。やっぱりねー!!これは、すごいことになった。興奮するよー。


「そこのスタバに私のママがいるの。行かない?」

 サファイアが言った。

 あーやっぱりそう来たか。このゲームのニューヨーク ステージのスタートは、スタバなんだ。そうか、そうか。俺は納得した。だから、この前君たち全員でスタバにいたんだな。


 3人の子供たちはうなずいた。このゲームにはあらかじめ決まったシナリオがあることは、子供たちもサバンナでよく分かっていた。多分、また暴漢2人組が来るんだなと俺は予測しながら、俺もうなづいた。


 ナディア姫とジャックだけは、「スタバ?いいよ」みたいな反応だった。この二人はゲームのシナリオをまるで知らない。


 皆でスタバの店内を歩いてサファイアの母親の所まで行こうとした時、俺は、突然誰かに話しかけられた。


「新城さん!」


 なんと。。


 それは、憧れの田中さんだった。


「うわ、田中さん・・・」

 俺は突然の憧れの田中さん登場に大混乱になった。田中さんは、嬉しそうにスタバのコーヒーのカップを手に近付いてきている。異国の地で知り合いに会えた喜びからか、手を振りながら俺に近づいてくる。


「この前、急に姿が見えなくなったから、心配したんですけど。」田中さんは恥ずかしそうに言った。

「え?俺がいなくなって心配してくれた?」俺のハートは嬉しさのあまりガタガタ震えそうになった。でも、はたと気づいた。


 え、田中さんがここにいるってことは、これから暴漢2人来るよね?つまり、結果的に田中さんが巻き込まれるよね。それって、すごく危ないぞ。俺は、ここから一刻も早く田中さんをなんとか外に連れ出したくなった。


 子供たちは、サファイアの母親のところに行って、ドーナツを買ってもらおうとしていた。サファイアの母親は、ナディア姫に大感激していた。そして、気づけばスタバ中の人々がナディア姫に大感激していた。


「新城さん、今、ほらナディア姫と一緒にスタバに入って来なかった?外で話していたでしょう?」

 俺の目線を追って、俺がナディア姫を見ているのに気づき、田中さんまで、ナディア姫の話をした。


 俺は、心の中で思った。

 3人の子供たちは、今回もダッカー王子の華麗なキックで暴漢から救われるだろう。そう信じたい。今回はナディア姫もジャックもいるし。

 俺は、田中さんに一回集中させてもらって、田中さんをなんとかして外に連れ出そう。彼女がこのゲームに巻き込まれるのは阻止しよう。


 俺は、ピーターに目くばせして、外を指さした。ピーターは田中さんを一瞬見て、状況を察してくれたようで、軽くうなづいてくれた。なんて察しの良い子なんだ!


 俺は田中さんに言った。

「そうなんだよ。実はナディア姫と一緒にあるゲームをして遊んでいるんだ。ここは騒がしいから外に出てちょっと話せない?」


「え?外?」

 田中さんはちょっとびっくりした様子だったが、異国の地で知り合いに会った安堵感からか、にっこり笑って「いいよー。」と言って、一緒にスタバの外に出てきてくれた。


 俺は田中さんと一緒に外に出て、ガラス越に店内をチラッと見た。


 ナディア姫が、店内の多くの人々にサインを求められ始めていた。俺は、ナディア姫が何気なくフードを被ったのを見た。そして、ナディア姫がさりげなく人々に手をあげて、自然な様子で挨拶をしながら外に出てくるのを眺めていた。


 え?

 そのナディア姫の後ろから、ファンらしい男が後をついてきているんだが、おい、なんか様子が変じゃないか?


 俺は、まもなくやってくる例の暴漢に身構えた。しかし、ナディア姫の後ろに迫る男も気になる。

 俺は龍者の実をさっきサバンナで食ったよな。つまり、まだ1日も経っていないので力は全然消えていないはずだ。


 よし、何かあったら、この俺がみんなを守る。


 なぜかまたもやバイトリーダー的発想で、俺はそう決意した。


 予定通り、暴漢2人がやってきた。そして、暴漢2人が銃を出した瞬間、かなり最悪なことに、ナディア姫が一番近くにいたのだ。その後ろに突進してくる5人の子供が見える。

 ナディア姫以外は、予定通りだが、ナディア姫が、発砲することがシナリオに定められている暴漢2人組の真正面にいることは、ヒジョーにまずい。


 俺はとっさに華麗なドロップキックを暴漢2人にお見舞いした。暴漢2人が2発砲する直前を狙ってやったぜ。素晴らしい。なんてったって俺は忍者だよー。ドロップキックもできるん忍者なんだー、これが。と俺は内心思った。暴漢2人はあっさりスタバの外壁の横にのびた。


 あれ?その後ろから、やっぱりナディア姫に迫ってきた例の男が、のびた暴漢を飛び越えて、外に出ていたナディア姫に迫ってきた。俺は、猛烈にその男に走りより、文字通りぶん投げた。


 で、どういうわけかフィギュアスケートの選手のように、ナディア姫の両手をつかんで、その男からなるべく引き離そうとして、両手を振った。ナディア姫はフィギュアスケートの女性選手のように体をスッと伸ばして飛び、なぜかスタスタ外壁を走り、ぶん投げられた男がよろよろと立ち上がった瞬間に、真上から、そりゃもう見事な空手のツキをお見舞いしながら飛び降りてきた。


 ええ?

 ナディア姫?

 今、壁を走った?

 なんか、ワイヤーアクションみたいな動きをされましたよね?



 暴漢は3人だったんだね、と思ったらしい周囲の人は拍手喝采した。


 俺とナディア姫のアイスショーからの見事な空手のツキまでの一連の動きは、通行人のスマホで撮られていたので、その日のうちに世界中のSNSで共有されるだろう。


「新城さん・・・・」一瞬、呆然とした顔の田中さんが目に入った。え?俺にときめいてくれた?

 うんなわけないかー・・・


 あー、しかし、話はこれで終わらない。


 シナリオ通りに進むには、「走って!」のダッカー王子とサファイアの指令通りに俺たち走った。ナディア姫とジャックもだ。


 あー、そうそう、ついにUFOにリトライか?


 「きゃあ!未確認飛行物体!!!!!!!!!!」


 ダッカー王子の乗り物を見て、なぜか、ナディアとジャックは大興奮した。

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