17. 村で

 それから一週間がたった。伯爵の言うとおり、食料が底をつき始めた。このままだと、再び飢えに苦しむことになるのは目に見えていた。


 少しの肉を鶏と交換して、庭で鶏を買い始めた。鶏は卵を産んでくれる。しかし、鶏の卵だけでは食べては行けない。山に山菜を取りに行った。川に魚を釣りに行った。しかし、ジリジリと食料は少なくなり始めていた。


 ある日の夕暮れ時、再び伯爵が家にやってきた。その時、ジョージアは、村の井戸から水を汲んで帰ってきたところだった。ピーターは、山で撮った山菜を鍋で茹でようとしていたところだった。レオは、木の枝切れを尖らせて、魚を取る道具を作ろうと悪戦苦闘していたところだった。


「さあ、子供たち、覚悟をきめたかね。」伯爵は家に入ってくるなりそう言った。

ピーターは燃えるような赤い髪を怒ったようにさらに赤く光らせながら、冷たく言った。


「伯爵にはお礼ができていなかったので、それは申し訳なく思います。」


「こんなものしかなくて申し訳ないのですが、この山菜を差し上げます。でも、命をかけた戦いなので、そう簡単には行けないです。」

 ピーターは、とってきたばかりの山菜をかごに入れたまま、伯爵の方に差し出した。


「だいたい、次のに出かけることをなぜなぜお望みなのでしょう?」ジョージアは伯爵におそるおそる聞いた。


 あんな危険な旅には簡単には行けないわ。

 私たち死ぬところだったのよ・・・

 次から次に試練の連続だったじゃないの?


 冒険といっても、死と隣り合わせだったじゃない?


 最後にあの若い男性が教えてくれなければ、あの奇妙な怪物だらけの場所で、死んでしまっていたわ・・・


「君たちは、父親に聞いたことがないのかね?」

 伯爵がゆっくりと、三人の子供たちの顔を見ながら言った。

 三人の子供たちは顔を見合わせた。


「食料を手に入れた話しか聞いたことがありません。」

 レオが言った。レオは、魚を取る道具を作る手を止めて、伯爵を不思議そうな顔で見ていた。


「そうか、私と君の祖父としかしらない話だったのかもしれない」伯爵はそう言った。


「前回は、三番目の扉に君たちは飛び込んだ。」

 伯爵はそう言ってジョージアの顔を見た。

「そうですね。三番目の扉に飛び込んだと聞いていたので。」

 ジョージアはうなずいた。


「今度は、二番目の扉に飛び込むのだ。玉手箱を入手して、開けずに、そのまま持って帰ってくるんだ。」

 伯爵は、深く息を吸い込んで、思い切ったようにそう言った。


 ピーター、ジョージア、レオの三人は顔を見合わせた。

「祖父の冒険は、サバンナのみでした。三番目の扉の話しか聞いていないんです。」

「二番目の扉の話は、聞いたことがなかったんですが、なぜ伯爵は二番目の扉の向こうに何があるか知っているんですか?」ピーターは伯爵に不思議そうに聞いた。


「それは、私の妻が子供の頃、行ったことがあったからだ。」

「私は亡くなった妻から昔、二番目の扉の話を聞いたことがある。」

 伯爵はそう静かに言った。


「ジョージア、どう思う?レオも意見があるなら言ってくれるか?」

 ピーターがジョージアとレオに言った。

「行こう。食料がなくなるよ、にいちゃん。」レオは言った。


 ジョージアは、考え込んだ。なぜ、じいちゃんは、二番目の扉の向こうに行かなかったんだろう。行ったなら、きっと話が伝わっているなずだ。ただ、ジョージアも、食料が尽きることはわかっていた。このままだと、結局振り出しに戻る。みんなで飢えてしまうだけだ。


「行くしかないと思うわ。だって、食料がなくなるのだから。」

 ジョージアも言った。

「わかった。」ピーターはそう言ってうなずいた。


「決まりだな。」伯爵はうなずいた。

「明日の朝、出発するので、伯爵のうちに行きますよ。」

 ピーターは伯爵にそう言った。

「待ってるぞ。」伯爵はそういうと、満足げに帰って行った。


 翌朝、ピーター、ジョージア、レオの3人は朝ごはんを食べると、気が進まない思いでいっぱいになりながら、村の大通りを歩いて伯爵の家に向かった。


 隣の家のケビンさんが村人たちに教えておいたおかげで、見送りの村人たちが沢山ぞろぞろとやってきてくれた。ただ、皆、お通夜のような顔をしている。前の旅が、冒険につぐ冒険で、奇跡的に生き返ってきてくれただけというのは、皆知ってくれていたのだ。


 村の教会の牧師が、祈りのために鐘を鳴らしてくれていた。


 ああ!

 あの若い男性が来てくれないかしら?

 また、助けに来てくれないかしら?


 ジョージアは心底願った。ピーターも、レオもそう願った。3人とも、誰か大人が助けに来てくれることを願った。


 神様!


「ええ!?」


 そこに、素っ頓狂な声がして、あの若い男性が3人の子供たちの目の前に現れた。

(そう、我らが颯介ですね。子供たちの願いが強かったのでしょう。無事にご降臨です。)

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