7. ドーナツ

「ねえ、ママ、この子たち、サバンナから来たんだけど、とってもお腹を空かせているの。お父さんとお母さんがいないのよ。ココアとドーナツをみんなに買ってくれる?」サファイアは女の人に言った。


「え?お父さんとお母さんがいないの?」


 女の人は、うろたえたように言い、三人の子供たちの様子を爪先から髪の毛のてっぺんまで素早く見た。ジョージアは思わず、自分の三つ編みをなでて乱れていないことを確認し、それからそっけない粗末な布で作ったズボンとシャツを手でそっと撫でた。


 自分たちに比べたら、信じられないほどピカピカの服や靴を身につけている人たちばかりで、気後れしてしまいそうだった。


 ジョージアは、劣等感を頂いた。自分たちが食べるものにも困るほどのギリギリの貧しい暮らしをしているというのに、周りの人たちが何でも手にしているように見えた。


 ピーターとレオは圧倒されたように周囲をきょろきょろ見ていた。とても同じ人間とは思えなかった。周りの人は、自分たちに比べて何もかもがピカピカだ。


「分かったわ。ここに座って待っててね。注文してくるわ」

 女の人は皆にうなずくと、すぐに店の一角まで行った。注文をするところだ。


 ジョージアとピーターとレオは、すぐそばの椅子にそれぞれおとなしく座った。とにかくお腹が空いてしまって、どうにかなりそうだった。


 サバンナも疲れたが、伯爵の家のキッチンで鶏肉のソテーとパンを食べてからは水しか飲んでいないのだ。伯爵の家のキッチンで食べたのが遥か昔のように思た。さらに、見たこともない周囲の状況にも気疲れしてしまい、途方に暮れてしまいそうだった。


 女の人が注文しに行くと、ジョージアは幽霊キングのダッカーに話しかけた。ダッカーの話を聞いている時に、隣の席に座っている若い男の人の視線を少し感じたが、自分たちの格好がひどくみすぼらしく見えるからだろうとジョージアは思った。


 私たち、相当変に見えるわね・・


 すぐに、女の人がココア4つとドーナツ4つを持ってきてくれた。

 目の前に出されたココアとドーナツを、無我夢中で三人の子供たちは食べた。ドーナツは、信じられないほど甘くておいしかった。今まで食べたことのない美味しさだった。


「君たち、喉に詰まらせないようにね。」


 すぐ隣の席に座っていた幽霊キングのダッカーが笑いながら言った。もちろん、サファイアの母親にはダッカーはまるで見えていないようだった。


 三人の様子をにっこりして見つめていた女の人は、「電話をかけてくるわね」とサファイアに言い、店の外にでた。

「まずいぞ、サファイア。君の母さんは、多分、児童相談所にこの子たちを連れて行く相談をするために、電話しているぞ。」


 ダッカーが、店の外からチラチラとこちらの様子を心配そうに見つめならが電話している女の人を見て言った。

「本当だわ。母さんなら、きっとそうするわね。」サファイアは困ったように言った。


 三人の子供たちは、甘くて暖かい飲み物と甘いドーナツですっかりお中が満たされ、疲れもたまっていたので、眠くなってきた。そして、トロンとした目で、ダッカーとサイファアの様子をみたり、隣に座っているサラリーマンの若い男性や、学生がガヤガヤ話している様子をもの珍しそうに見ていた。

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