1. 始まり(ナディア)

私は作家になった。

ただの作家ではない、23歳で世界の富豪の上位10位に入るベストセラー作家になった。本の印税だけではない。版権、映画化権、グッズ収益、ありとあらゆるもので手にしたお金を総合すると巨額の資産になった。

世界の困った人々を助けることができるお金を手にした。


子供の頃、私はやがて自分がそうなると信じていた。


茶色の感じの良いショルダーバッグ、スマホ3台、財布、家の鍵、パスポート。有線のイヤホン。


これが私が常に持ち歩くものだ。これさえあれば、私は何でもできる。ちなみにショルダーバッグは、GUの三千円以下と決めている。本物のお金持ちは富をひけらかして歩き回ったりはしない。時計もしない。スマホの時間で十分だ。


車は要らない。基本的に徒歩、バス、電車を活用している。しかし、プライベートジェットは持っている。


運転手が必要な時は、基本的に映画会社か出版社が用意してくれている。私は歩くのがとても好きなのだ。自分で車を持とうとは思わない。


そして、私は時にスパイ活動をしている。それは公にはできないので、割愛する。企業スパイなのか国のスパイなのかは想像にお任せする。


城をいくつか所有しているが、実際の自宅は至って簡素だ。しかし、外は要塞のように頑丈になっている。


旦那さんと住む領域は完全に分かれていて、ドアを隔てて、行き来は自由にはできなくなっている。それぞれ安心できて不可侵の領域が必要だからだ。私の領域にはお手伝いさんが入り込んでいる。原稿を書かない領域でだけ、お手伝いさんが活躍している。


客観的に見れば、私は首を振って、アイフォンに何か打ち込むだけで、国が丸ごと買えるようなやばいやつであることは間違いないが、正直あまり自分では自覚がない。


昨日、私の知っている人が殺された。それはアフリカで井戸を掘っていたはずの人物だ。


スマホに一言呟いて、衛星の向きを変えて、特定人物にフォーカスを当てて監視し、問題行動を拾い上げて、どうすべきか決めることができるわたしにとっても、それは大きな痛手だった。誰がやったかは明白だった。だって、衛生写真を拡大して、犯人の顔を見たのだから。


私は仕返しを周到に準備することにした。やるなら徹底的にやろう。爆破テロ?そんなのお子様のやることで、次元が低すぎる。レーザーで射殺?そう言うのは処刑っぽくて、野蛮人ぽくて嫌いだ。心理戦。これに尽きる。じっくり苦しめてやろう。


奴の緯度と経度を常に正確に把握できるように設定済だ。体の踵に埋め込んでやった。


弾道ミサイルが常に正確に奴の踵目掛けて発射できるようにもなっている。そう言う点では私は執念深い。


私のある部下が戦闘機を持っている。戦闘機なんて持っていたら本当にやばいやつだ。


その点では、国が買えるただの富豪よりやばい奴である自覚はある。今までに使ったことは二度ある。プライベートジェット機を使った回数よりは少ないが、人生で戦闘機を飛ばすことなんて、世界の富豪の中でもほぼいないだろう。一介の作家がすることではない自覚はある。

 

2回目の時、あの時は確かテスト飛行をしていた時だ。そう、


戦闘機を飛ばしてテスト飛行をした時、私は後部座席に座っていた。その時見たのだ。


空飛ぶUFOを。UFOと言うには宇宙船と言うべきか、なんだか素敵な形をしている銀色の流線形の乗り物だったが、一瞬、私の目には、三人の子供たちが操縦席にいるのが見えたのだ。


子供たちはすごいスピードで飛んでいき、姿を消した。


慌てて、パイロットと私は探したが、どこにも見当たらなかった。忽然と消えたのだ。それが、私が三人の子供たちに遭遇した最初の日だった。



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