第2話〜島

 船から降りると、中年の男性と短いTシャツを着た日焼けした青年がいた。


「ようこそおいで下さったねぇ。ここが小宝島しょうとうじま改め琉渡河村るとかむらだよ。ワシが村長の八ツ足じゃ。何もない島だけど、ゆっくりしていきなさいな」


 村長は三人に近寄った、彼は思ったよりも背が高い。そして針口がよろけながらも彼に挨拶をしているが、その場でよろけて、四つん這いになっている。


「アンタ、顔色が凄いことになってるよぉ?大丈夫かい?」

「船酔いじ、じょぶでず」


 また吐いた。まだ海の方に吐いたから良かったものの、近くにいた青年は嫌悪感を示している。


「こりゃすぐに宿だねぇ。案内したいのは山々なんだけどねぇ、これでも忙しいんだよ。代わりにこの強介きょうすけが案内するよ」

「こっちだ」


 彼が先頭に進んでいく。その場で倒れている針口をヴェニアミンは米俵のように担いでいる。その揺れでまた吐きそうになっている。


「これでニアミンに貸しが出来たね」


 そしてその先頭の後ろを歩く薫田あるじをチラ見している。


「あちきに何かついているのか?」

「何でもない」


 指摘すると、すぐに顔を背けて歩いていく。変なやつだなと彼女は思った。


「お前らは何でここに来たんだ」


 全員、あの夢がきっかけでこの島に来た。夢の男に与えられた命令を完了しなければならないという使命感があり、今もその事で頭がいっぱいである。


 しかし、初対面の相手にそんな事は言えないので適当に濁す。


「俺はたまたまくじ引きで旅行券が当たったんだよ…うえ、まさかこんなに吐くとはな」

「後で口をゆすぐのだ。あ、あちきもそんな感じなのだ」

「ここなら密猟出来るから」

「は?密猟って…」


 空気が凍った、冷や汗が氷のつぶてになってもおかしくない程に。


「え、マジなのかニアミンさん」

「何の密猟をするつもりなのだ?」

「夫婦と子供」


 ホッとした、いつも通りの頭がとち狂っている回答であったからだ。これはむしろ尋常である。


「人身売買だこりゃ」

「まぁ、やってない方がおかしいのだ」

「違うよ。ニアミン外道じゃないよ」

「外道じゃなくてただ頭おかしいだけだよな」


 そうして旅行者達はこの島の奥に進んでいくのであった。

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