外話0話 THE END
−光臨歴173年−
「ベアト!」
聖都より北西にある防衛の要である暮の砦の廊下を剣を抜いたまま走る。
苛烈王クラウディオが皇国での実権を握り、我が国 聖王国に戦争を仕掛けてきた。
当初は我が国の誇りであり、脈々と伝えてきた魔法でもって彼の国を安々と退けることが出来ると思われていた。
だが、違った。
『!""#$&%')'%%#"#"&$#"%&("&(%』
目的の場所に向かっている途中にカーキ色の服を着た二人の敵と出くわす。
「”我が身を守れ赤熱の壁”−ミュー・デ・フラム−」
呪文を唱え目の前に体全体を隠す火の防御魔法を構築する。
僕が聞いてた皇国ならこんな大掛かりな防御壁を構築する必要がなかったのだが。
壁を構築した瞬間大理石を叩く音が雨あられのように聞こえてきた。
どうやら敵にたくさん魔法を行使出来る大型の魔法杖を持っている者がいるらしい。
その魔法は初級魔法ぐらいの威力しかないがこの量の魔法を生身で受けていたら命はなかっただろう。
この魔法壁ならしばらくは耐えられる。だが、
「ッ!」
バギャとなんとも嫌な音ともに僕の左の脇腹の側を何かが通過する。
反射的に脇腹を触る。
怪我は無いが着ていた鎧が削られている。
クソ!魔法壁を貫通してきたのか!
僕はすぐさま行動する。
「全てを飲み込み炎に塗り替えよ−オフォ・デ・フラム−!」
かざした手のひらから飛び出した炎の車輪が魔法壁を壊しながら敵に勢いよく突っ込んでいく。
僕もその車輪について行き、敵に迫る。
敵は回避するために左右に避けた。
この絶好の機会を見逃す訳にはいかない。
僕は剣を振り上げながら右の敵に切り掛かる。
皇国軍の軍人であるその男は怯えた表情をしながら杖にしてはあまりにも奇妙な大きな円盤が付いた金属の杖を掲げて身を守る。
「うおおおおおおお」
僕は気合いと魔力を剣に流し込み、男を杖ごと切り裂く。
切られた男は膝を突いて後ろ向きに倒れる。
僕はすぐに振り返り残っていた敵に目線を合わせる。
その敵は先っぽに短剣を付けた杖をこちらに向けている。
振り返った勢いを利用して側転をして敵の魔法攻撃をかわす。
杖の先から眩い光が発せられ、背後から壁が壊れる音が聞こえたが構わずに突進する。
敵は杖を槍のように振りかぶって切り付けてくるが剣で受け止めて上手くいなして倒す。。
倒れた敵の空いた胴体を踏みつけ、首を切り裂く。
切られた首の傷から血が吹き出す。
ようやく片付けた。急がないと。
『#%*=^%**$€^*』
廊下の先で皇国語で何か叫んでる声が聞こえた。
そちらを見ると敵がまた何かを曲がり角の方にまた叫んでる。
おそらく仲間を呼んでるのだろう。
人が急いでる時に
「邪魔をするなぁあああ!」
怒りを込めて叫びながらその敵に突っ込んでいく。
それからしばらくして
「ハァッハァッ」
僕は息切れを起こして壁にもたれるように座り込んだ。
辺りは床一面に敵の死体が転がってる。
「早く....行かないと...」
自分に鞭を打ちながら壁に手を着いて立ち上がり、彼女の元に走る。
この暮れの砦の頂上の間にて結界を張ってる僕の婚約者
辺境伯家令嬢ベアトリーチェ・スー・キヴァルシの元に
それから敵の妨害を受けずに頂きの間にたどり着いた。
「ベアト!」
僕は頂きの間に彼女を呼びながら中に入った。
そこには-
灰色の髪の皇国軍女性に黒い剣で胸を貫かれた僕の最愛の人ベアトリーチェだ。
僕の頭の中が真っ白になってるなか、灰色の髪の女性がベアトを蹴って剣を弾き抜いた。
彼女が倒れていく。
そんななか彼女が僕に向かって申し訳無さそうに笑った。
「うあああああああああああああああああ」
僕は憎き灰色の髪の女性に絶叫をあげながら切り掛かる。
それを彼女は気怠げに右手の剣で受け止める。
もう一度振りかぶって空いた胴体に切り掛かるがまた剣を受け止められる。
彼女は反撃に左手に持ってる変な輪っかが付いたハンマーを手元で回してから殴りかかってくる。
あれはまずい!
鎧を着た騎士を一撃で致命傷を与える事が出来るそのハンマーを後ろに下がってかわす。
「飲み込め!火の波!-ヴァグ・ド・フ-」
反撃に幅広く広がる炎の波を作り、彼女に向かって放つ。
普通なら避けれずその身を業火に焼かれる。
だが、彼女はハンマーをまた回し、地面を叩く。
地面から氷柱が現れ、波を妨げる。
クソ。防がれた。
波が止むと彼女がこちらに風のような速さで向かってくる。
速い。だが、対処出来ない速さじゃない。
左手のハンマーは脅威だが当たらなきゃ問題じゃない。
迎えうつべく構える。
「穿て、氷塊-バル・ド・グラス」
それは一瞬の出来事だった。
彼女が氷の初級攻撃呪文を唱えると氷の塊がこちらに飛んできたので慌てて避ける。
避けた所に何かが飛んでくるので咄嗟に剣で弾く。
なんだ?何が飛んできた。目で弾いた物を確認するとそれは彼女が持ってたハンマーだった。
しまった。気を逸らされてしまった。
そう気づいて彼女を視界に捉えようとするが、腹辺りに鈍く焼けるような感覚する。
嘘だ。
必死に否定しようとするが脚の力が抜けてうつ伏せに倒れてしまった。
嘘だ。
自分の掌を見るとそこから青い炎が噴き上がってきた。
これが本当ならせめてベアトの側で死にたい。
僕は燃え上がる体を引きずりながら青い炎が燃え上がってる彼女の側まで張っていく。
なんで祖国を滅ぼそうとする輩から守ろうとする僕が死ぬ。
なんで僕の大好きな笑顔が眩しいベアトリーチェが死ななきゃいけないんだ。
なんで婚約者と幸せな暮らしをしようとした僕が死ななきゃいけないんだ。
背中に鈍い衝撃を感じる。
背後を見る。
灰色の髪の彼女が血が通っていないような冷たい表情で僕の背中を踏みつけていた。
「ベアト」
ベアトに、せめてベアトの所に行かせてくれ。
必死に張っていこうとするが彼女が踏みつけていてほとんど動けない。
「ベアト」
僕は腕がちぎれ飛びそうなほど手を伸ばす。
「ベアト!」
あぁ、恨んでやる。
「ベアトぉおおお!」
この国を滅ぼす皇国を-
この国を滅ぼそうとする苛烈王クラウディオを-
僕の最愛の人ベアトリーチェを殺した灰色の髪の女を-
胸に何か燃えるような感覚がし、そこで意識を無くした。
こうして聖王国次期総主教にして次期国王であるノエル・スーキ・ディリージュは死んだ。
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