はぐれ狼のセンティエログリージョ-少女はただ群れを探す-

紅羽

第1話ル・デビェソダン

私は幸せだった。


私は優しいお父様の娘として生まれ、お兄様そしてお屋敷の方々と共に暮らしていた。


私は幸せだった。


熱にうなされ、朦朧とした中、気がつくと立つ事も出来ない小さな檻の中にいた。

最初は意味が分からず、混乱していた。辺りを見てみると薄暗く灯りを照らしてる所以外はよく見えなかった。

助けを求め、檻にしがみついて叫んだ。


するとガン!と檻が蹴られた。

振り返ってもう一度助けを求めると怒鳴られた。

その声は何を言ってるのか分からなかったが敵意を持っている事だけはわかった。


それから何故だか涙が溢れて声を殺して泣いた。

しばらく泣いて少し落ち着いた辺りでもう一度檻の外を見た。

目が暗闇に慣れたのか周りに木箱が乱雑に置かれていて男の姿が見えなかった。


もし逃げるなら今だと鍵穴を探した。

幸い鍵穴はすぐ見つかり、簡単に開いた。


私は幸運だ。


この薄暗く嫌な感じのする部屋から脱出する方法を探る術を知っていた。


出口は2つあった。1つは上に登っていく階段


もう1つは鼻曲がるような臭いにおいを放つ穴。

この部屋全体が若干傾いていてその先にあった。

なんとか通れそうではあった。


この2つのうち階段を登りたかった。

だが、やめよう。

まず、上から風が流れてくる感じがしない。

もしかしたら階段に蓋か何かして塞いでいるのかもしれない。

それに出入り出来るのはこの階段しかなかった。

この階段の先にあの男が居るかもしれない。


そう出入りはこの階段でしか出来なそうだ。

あの穴がどんな使用用途で設けられてるか想像する前に頭を振ってその考えを振り払った。


あの男が戻ってくる前にこの穴を通らなくては。

水中に潜るように息を止め、まず両手を穴に入れ、頭を入れ縁を触る。

モサッとした感触にゾワッと身振るいする。

苔か何かだろう。

我慢してグイッと縁を力強く押し、穴に入った。


無事に穴を通り抜ける事は出来たが、通り抜けた後の事は何も考えていなかった為、穴の中で浮遊感を感じた後に一回転した後尻餅を付いた。


灯りを着けようとするも頭に激痛が走り断念した。

仕方がないので左手で壁を触りながら進んだ。

暗くてじめっとした気持ち悪い空間に気が参ってきたのかいつもは言わないような愚痴をブツブツと言いながら進む。


どれぐらい進んだのか分からないが不意にひんやりとした棒が左手の指先に触れた。

暗い中、棒を触って確かめてみた。

ひんやりしていて感触的に金属で横に伸びていて、両端は曲がっていて、壁に繋がっている。

他にないかと棒を掴みながら周りを探った。


棒は上の方にもあった。

これはもしかしたら梯子の役割を担ってるのかもしれない。

そう思い棒を掴み、登っていく。

予想通り棒は複数あり、十数本を登っていくと天井に着き当たった。

これが蓋であると願って全身の力を使って押し上げてみた。

すると蓋は持ち上がり、光が漏れてくる。

蓋を地面に乗せて、地上に出た。


私が出たのは薄暗い石畳が引かれた路地裏だった。

休憩の為に壁に寄りかかり、空を見上げて目を見開くほど驚いた。


空が青い。

今まで当たり前の色ではなく青かった。

聖都でも領地でも見たことがない空だった。


私は幸福だった。

嫌な予感がする。

私は居ても立っても居られず、走り出す。

今自分がどこに居るのかも分からずにただ走る。

心臓がバクバクとうち、息苦しくともただただ払拭したいが為に走る。

しばらく走ると日が指す人通りの多い通りを見つけた。


確かめるべく、通りに走って向かい日向前で急停止する。

見たこともない空の日差しだ。

何かあるかもしれないと恐る恐る、手を出してみる。

素肌に日の光を当ててみても燃えたり、灰にならずただ暖かいだけだ。

私はほっとした。

お兄様が言っていた事はどうやら嘘だったようだ。


ただ、不安感は脱ぐえず、叫びながら通りに出る。


『ここはどこですか!誰か教えて下さい!』


必死に叫びながら通りでどこか聞くが周りの大人たちは汚い物を見る目で私を見る。


私は思い切って通りすがりの男の掴んだ。


『ここはどこですか!教えて下さい!』


私は今までの幸福を感謝すべきだった。

私はただどこに居るのか教えてもらいたく叫ぶ。

すると男は、


「enjdhdj!dhdhdjdjsgxbens!jhjdbdbdndn!」


私は顔を殴られた。

今まで訓練などで痛い思いもした事もあった。

その時はお父様やお兄様や家の方々が時には心配してくれたり、励ましてくれたりとその暖かさに涙を拭って立ち上がる事が出来た。


今はそれがなく、夢なら目覚めてほしい悪夢のような出来事にただ泣くしかなかった。

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