閑話 独白
誰かの記憶
いつもおれの隣にいた。
小さくて、花のように可愛らしくて、おれによく似た子。
手を差し出すとすぐに取って、おれと一緒に遊んでくれる子。
いつも一緒だった。今思えば多分、あの子はおれの『 』だったんだと思う。
あの子と遊んでいると雨月が怒る。
見飽きた光景に溜め息が出る。
勉強はどうしたんだって、頭に角を生やすんだ。
勉強は嫌い。
だって正解が分かってるものって、つまらないんだもん。
毎日が楽しかった。毎日が愛おしかった。
雨月と追いかけっこして、それを奥で王さまが優しい顔をしておれとあの子に向けて眺めていた。
しあわせな、夢だった。
あの日、あの子が自らの氷術を暴走させなければ――。
雨月が大きな氷壁を創り出して王さまを守ってる。
王さまは苦しそうな顔をして、あの子の体を氷でできた獣に食らわせて拘束していた。
今ここに立っているのはおれと雨月と王さまだけ。周りは氷と赤に染まっていた。
おれはまだ自分の氷術が開花していなかった。だから暴走するあの子に近づくことを許されなかった。
香紆がおれの体を掴んで離さない。「離してよ!」って抵抗しても無意味なくらいに力を入れられた。動けないのが酷くもどかしくて、おれは悔しさでおかしくなりそうだった。
”ガシャァアアンッ――――‼”
勢いよく氷の割れる音が、おれの耳を穿った。
ハッとして前を見れば、そこには赤く染まったあの子がいて。
王さまの顔が強張っていたのが、分かった。
おれの中で何かが切れた音が妙にクリアに聞こえた。
切れたのは、脳の神経回路か、臓器の膜か、血管か。
何かは分からなかったけれど、遠くの方で誰かの叫び声が聞こえた気がした。
王さまが、あの子を抱き締めている。
そのまま抱きかかえて、どこかへと歩を進めている。
こわいよ。どこに行っちゃうの。行かないでよ。
おれ、一人になっちゃう。ひとりにしないで。
ようやく、叫んでいるのが自分だって気がついたときにはもう、あの子はおれの世界からいなくなっていた。
「おれが――――しちゃったんだ」
ブツン、
おれと世界との繋がりは、この時を境に閉ざされた。
暗闇に呑まれたおれの意識。あれから何年が経っただろう。
不意に浮上したおれの世界は、ほんの少しだけ明るさを増していた。
甘い花の香りが鼻腔を擽ったとき、再びおれの世界に、光がともった。
……そんな気がしたんだ。
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