第30話 ついに決着!

5人で共同生活してもうすぐ一週間。


今のところ初日以降変わったことは起こっていない。


「わたしの外泊届が明日までなので

 明日は私ここに泊まれないの」

くるみは残念に言う。


それはそうだ。この1週間たのしかったのは間違いないし、

くるみにとっては施設じゃない場所で

1週間も過ごすなんて初めてのことだろう。


「くるみさんが帰るならわたしもそうさせてもらうわ。

 姉もほったらかしだしたまには面倒を見てあげないと」

未知はフェアだった。自分だけが抜け駆けをすることを許さなかった。

くるみの安心した顔が見て取れる。


みちさんのこういうところがすきだなぁと

おれは思ってしまう。


「じゃあ、先生も一度自宅に帰るね。

 最近はとくに大丈夫そうだしね」


「なんか変な感じね。自宅に戻るのに藍原くんの家の方が

 もう自宅みたいに感じてしまう」

未知さんの意見にみんなが同意する。


「先生、何かあったら私でもじょうくんでも未知さんで

 電話してくださいね」


「うん。わかった。ありがとうね。みんな」


次の日、みんなはそれぞれの家に帰っていった。


おれは久々のじんのとふたりの生活に戻った。


「じんの、おにいちゃんと二人はどうだ?」


「おにいちゃんと二人も大好きだけど

 みんながいるのはもっと好き」


あれほど知らない人を毛嫌いしていたじんのが

受け入れている。これはおおきな成長だと思っている。

いつかきっと病気が治りますようにと切に願う。


「でも今日は二人だけだ。久しぶりにたのしも~」


「うん。一緒にお風呂入って一緒に寝よ」


おれはじんのを寝かしつけた後、眠れなくなった。

思い出したのだ。シルさんのことを。

この1週間はみんなが泊まりに来ていたので

あの公園には行っていない。

そのことも忘れさせてくれた一週間だった。


おれは無性にあの公園に行きたくなった。

久しぶりに夜中に家を抜け出す。


久しぶりのいつも通った道を散歩する。

今日は心地よい風が吹いている。


もう少しでいつもの坂道だ。

繁華街に向かうのか、あの公園に向かうのか、

分岐路にさしかかる。


ふと杏子先生のことが頭によぎる。

(康生通りのさくら荘って言ってたな)

夜中はまだまだ長いし先に様子を見に行ってみるか。

ゴーゴルマップでさくら荘を探す。

すぐに出てきた。

携帯に映っていた写真はたしかにぼろアパートだった。

ここから15分くらい歩けば着くのか。


おれはトコトコ杏子先生の自宅に向かって歩き始める。


(しまった!部屋番号わからないや。

 ま、いっか。とりあえず行ってみよう)


たしかにぼろアパートだった。

暗くても建物のフォルムだけでもう昭和の香りがする。

名前の通りの○○荘という外観だった。


(杏子先生、ほんとうにお金無いんだ...)


すこし遠目からアパートを眺めてそう思う。


部屋もわからないし今度聞いておこうと思う。

携帯に電話してもいいけどさすがに23時を超えているので

遠慮をしてしまう。


さびているだろう階段を上るスラッとしたスーツ姿の

男の人がいた。

変な人ではなさそうだ。スーツも着ている。


動くモノには目が勝手に追いかけてしまう。

一番端の部屋にたどり着く。

鍵を取り出し、ドアを開けようとする。

念のため気になって見ていたが普通の人だ。

よし、公園に戻ろうと思った瞬間だった。


なぜかその男は急に頭になにかかぶった。


(目出し帽!?)


一瞬、「きゃっ」という声が聞こえたような気がした。


おれはダッシュでその部屋に向かう。

(杏子先生!杏子先生!)

階段を上り、一番端の部屋まで走る。


扉を開ける。


そこには押し倒された杏子先生と

目出し帽を被ったスーツの男がいた。


男と目が合った瞬間、おれはタックルをかました。

男ともみ合いになる。

俺は男を抑えるので精一杯だった。

男も必死で抵抗する。

相手は思ったより非力だった。


俺は男ともみ合いのままの方が良いと思った。

離れてナイフなど出されたら困る。

俺はその男をつかんで離さなかった。

男は俺の手を離そうと必死だった。


俺の手が目出し帽にかかる。

顔が半分見えそうになると男は自分の手で

それを防ごうとする。

結局奪えたのは目出し帽ではなくて

相手の手袋だった。


男は俺と離れると慌てて部屋から飛び出す。


「はあ、はあ、はあ」

おれは興奮していた。


(杏子先生は!?)


杏子先生は床で押し倒されたままの状態でくの字になって震えていた。


おれは杏子先生を抱きしめた。

じんのがつらかったときにしてあげたように。


俺の手の中でまだ震えている。


「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」

おれはやさしく包み込むように先生に話しかける。


すこしずつ震えがおさまっていく。


「大丈夫、大丈夫」


おれは先生をなだめる。


『ちゅ』


おれは先生のおでこにキスをする。

じんのによくしてあげていたので無意識にやってしまった。


そしてもう一度おでこにキスをする。

「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから」


そしてずっとおでこにキスをしてあげ抱きしめ続けてあげた。


10分くらい抱きしめてあげた。

震えもとまった。


「先生、警察にれんらくしようか」


「まだもうちょっと...」


「いいよ」


おれは先生の頭をなでながら

先生が安心するように抱きしめる。

おでこにもキスをしてあげる。


俺にやましい気持ちは一切無い。

妹のじんのを見ているようだった。


先生は子供のように身体をくの字に折って俺に

寄り添って寝ている。


何分経ったのだろうか。

先生が動かない。


すやすや寝ていた。


怖いことがあって疲れたんだろう。

安心したらそのまま眠ってしまったのかなと思う。


このまま寝かしてあげよう。

大変だったね。先生。


先生の寝顔には涙がツーとながれていたけど

すこし安心したような顔をしていた。



……………………………


あとがき


またまたランキングが下がりました😂


ここまでお読みのみなさん、

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よろしくお願いします🤲

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