第23話 人生初の出待ちで………

その後おれはずーっとシルさんを目で追っていた。


完全におれはいま、ニャン銃士シルーの大ファンだ。

第二部の最中に行われるモニターを介してのアテレコ。

シルさんの声はあの時とは違った。

声優だけあってシルーの声は可愛さが混じっている。

シルさんが声をやっているというだけで

こんなにもそのキャラが愛おしくなるなんて。


キャラになりきって音を当てるシルさんは素敵だった。

真剣な表情がモニターに映る。


ふと気づく。

シルさんの本名は『工藤しるく』だということに。


ようやく手に入れた。シルさんの本名を。


今まで探しても見つからなかった反動で

この時間がおれにとっては最高の時間になっていた。


シルさんを追っかけ続けて見ていた。

気付いたら第二部がもう終わるところだった。


(ここでシルさんと直接会えないと

 また同じ事を繰り返す。どうすればいいんだ?)


迫り来る終了の時間に焦りを感じる。


「それではみなさん、本日はありがとうございましたぁ~」

沖田さんの声が会場に響き渡る。


(積んだ......)


みんなが席から立ち上がって帰ろうとする。


近くの声優ファンらしき男の声が聞こえてくる。


「ここの出待ちって東側の裏口のところだよね?」


「今日のイベはは出待ち有りだったから

 しるくちゃんとも話せるかも」


まじか!おれは良いことを聞いたと思った。


「じんの、シルーと会えるかもしれないから

 そこまで移動して良い?」


「えっ!?シルーに会えるの?いくいく!!」


おれとじんのはそのファンの男の後をついて行った。


そこは声優さんやスタッフが通る裏通路みたいになっていた。

ちょっとした広さがあるから出待ちができるのもうなずける。


もうすでに声優ファンがたむろしている。

シルさんだけでなくほかの声優さんのファンも入り交じっている。


おれはじんのがいるので人混みに入っていけない。

このままではファンで遮られて少し距離がある。


じんのをおいていくわけにはいかない。

かといってじんのを連れて行くのは

大人の男ばかりでハードルが高い。


ガチャッ、扉が開いた。


「かなちゃ~ん」

「しるくちゃ~ん」

「まっち~」

とファンは声をあげる。


シルさんは一番人気だった。

すぐにファンに取り囲まれる。

ファンにも節度があるようだ。

みんなで囲むがぎゅうぎゅうになったりしない。

触れない距離感で接している。


シルさんは笑顔でファンと会話をしている。


ファンは何重にも輪になっている。

男のファンだから背も高い。


おれは頑張って隙間からシルさんの顔をのぞき込むが

シルさんは俺とは目が合わない。


じんのとってはつらい時間だったみたいだ。

シルーはどこにもいない。男の大群が目の前にいる。

そりゃしびれを切らすわけだ。

周りはファンと声優さんでざわついている。

じんのはそれに負けないように俺に大きな声で話しかける。


「おにいちゃ~ん!かえるぅ」


そこの場所で声優以外の女の声は珍しい。

じんのの声が通路に響く。

なんだ?とじんのを方を向く人もいた。



「じょうくん...」


シルさんが俺を見つける。

シルさんから笑顔が消えた。

おれを見つめる。


おれもシルさんを見つめる。

すこし時が止まる。


.......


そこはまるで二人だけの世界のようだった。


ファンの1人から声が聞こえる。

「まさかしるくちゃんの彼氏か...」


たしかにそんな雰囲気を醸し出していた。

会いたかった2人がふいに出会ったような

2人だけの世界を作っていた。


シルさんはとっさにファンの輪をかき分けて

俺の手を握る。


「え...」

戸惑う俺。


シルさんの行動にファンはあっけにとられている。

もちろんおれもびっくりしている。


「妹の彼氏が見に来てくれました。

 妹も外で待っているのでこれで失礼しま~す」


シルさんはそう言うと俺の手をつかみながら

出口に引っ張っていく。


おれはなにも言えずついて行く。


もちろんもう一つの俺の手にはじんのを握りしめている。


俺とじんのが引っ張られていく。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あとがき

ついにシルさんと合流できて今後どうなるのか。

今後に期待と思っていただけた方はぜひハートの応援クリックの

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☆レビューもいただけると本当にうれしいです。

よろしくお願いいたします。

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