第11話 工藤さんは俺の彼女??
駅の改札口の近くに工藤未知さんがいた。
無愛想だがなにもしていなければ美少女には間違いない。
男2人と話している。
友達と約束かなと思いながらも
あの未知さんに友達がいることなんてないと
思ってしまう。
未知さんが腕を掴まれてそれを振り払う。
声が聞こえてくる
「あなた脳が腐ってるの。それとも耳が腐ってるの」
「おまえ、この!」
男の1人がまた工藤さんの腕を掴もうとする。
状況を理解した。
男2人がナンパをして、工藤さんが辛辣な言葉を発して
揉めているのだろう。
「きゃっ」
腕を振り払おうとして
未知さんがうしろによろける。
「すいませーん」
おれは男の腕を掴み未知さんから引き離す。
「なんだ、お前」
「この子の彼氏でーす。そろそろやめてもらえませんかぁ?」
「ああっ!」
男は睨みつけてくる。
おれもいままでのゆるーい言い方から
一気に雰囲気を変える。
「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」
声は大きくないがドスの聞いた声で
本気で睨み付ける。
「わかったよ。男付きならもういいわ。
でもその女の口の悪さ教育しとけよ、おまえ」
と言って男たちは消えていった。
未知さんは怖かったのか少し震えていた。
「ありがとう...」
そして斜め右下を見ながら小さな声でお礼を言った。
「けがはなかった?」
「うん」
下向き加減のまま頭をこくりと下げる。
「誰かと待ち合わせ?」
「うん。お姉ちゃんと」
「どっかお出かけ?」
「昔家族でよく行った思い出の場所に
二人で行こうってなって」
「そっか。お姉ちゃん来るまで一緒に待ってようか?」
「いや、いい。申し訳ないし」
「いいよ。未知さんかわいいから
また変な男に絡まれるかもしれないし」
かわいいと言われて未知は顔を赤らめる。
「私なんてかわいくない......」
「初めて会ったときなんてきれいな人なんだろうって思った
よ。ひっぱたかれる瞬間までそのきれいな顔から目が離せな
かったんだから」
おれは場を和ませる意味も含めてお茶目に話しかける。
「いじわる......」
恥ずかしそうに照れながら言う。
おとなしい清純な女の子が発すると
よりプレミアが増す気がする。
シルさんとは違った高揚感がそこにはあった。
『清楚な小悪魔』がそこにはいた。
おれはシルさんと未知さんが少しかさなって見えた。
公園からここまでシルさんを探していたからなのか。
少し見とれてしまった。
「藍原くん?」
未知はおれが見つめてしまっていたので
不思議そうに声を掛けてくる。
「ごめん。ごめん。あまりにもかわいくて見とれてた」
「もう。なにそれ」
未知は少し女の子っぽい声色で話すようになった。
お姉ちゃんが来るまで改札口で一緒に待つことになった。
10分ほどだったが他愛の無い会話をした。
未知さんは意外にところどころ笑顔だった。
未知さんの印象は淡々と無表情で要件だけを伝える
典型的な文芸部の部員という感じだった。だがしかし
話せば話すほど本当の未知さんが見え始めてきた気がする。
「おねえちゃん、おそいなぁ」
「約束時間はもう過ぎてるの?」
「14時だったから数分過ぎてるの。
長い時間付き合わせちゃってごめんね」
「いいよ。ぜんぜん。未知さんと話すの楽しいし」
未知さんがまた少し顔を赤らめる、
プルル...プルル...
未知の携帯が鳴る。
未知はお姉ちゃんと少し話をしたら俺に話しかけてきた。
「お姉ちゃん、着いたって。でも電車じゃ無くて車で来ちゃったって」
「じゃあ、ロータリーだね」
「うん。私行くね。ありがとう、藍原くん」
「じゃあ、素敵な場所に行ってらっしゃい」
俺は改札口から少し離れたロータリーで未知さんが車に
乗るまで見送った。
未知さんは車に乗るときこちらを振り返ってくれた気がする。
そして一瞬かるく会釈をしてくれた気もした。
「みち、彼氏でもできたの?」
姉は未知のそぶりと改札口の俺を見てからかうように言った。
「10分彼氏だよ。お姉ちゃん」
未知はうれしそうに素敵な笑顔で答える。
「なにそれ。でもみちに彼氏ができならお姉ちゃんうれしい」
「お姉ちゃんは彼氏できないの?」
「うん...... そうだね」
姉は少し答えにつまってしまう。
気まずくなる前に未知は話を変える。
「久しぶりだね、このあたり」
「うん。今日は一緒に思い出巡りをたのしもうね。みち」
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