第14話「信頼できる殿方から愛を囁かれ、安らぎを知る」
それから毎日のように、グーゼンバウアー公爵令息から花や贈り物が届いた。
そして週に一度は観劇や食事に誘われ、私はその誘いを受けた。
観劇ではカップル席の席の近さにドキドキしたり、食事ではグーゼンバウアー公爵令息に見つめられて食事の味がわからなかったり、音楽鑑賞ではグーゼンバウアー公爵令息に手を握られて胸がときめいたり……とにかく彼にドキドキしっぱなしだった。
グーゼンバウアー公爵令息はデートのたびに、「君のこういうところが好きだ」「君のこういうところが素晴らしい」と言って私のことを褒め称える。
いつの間にか私の彼に対する呼び方は「グーゼンバウアー公爵令息」から、「クローヴィス様」に変わっていた。
彼の呼び方が「クローヴィス様」に変わった頃、ピクニックに誘われた。
お花畑にランチマットを広げ、クローヴィス様がお弁当を並べる。
「このお弁当もしかしてクローヴィス様の手作り?」
「伯爵家の当主の君と違って、僕は暇だからね」
暇だから……というのは、私に気を遣わせないための方便だと知っている。
彼が公爵から領地経営を学んでいるのを、彼のお姉様が教えてくれた。
「弟は本気よ。
伯爵家に婿入りしたときに備えて今から領地経営の勉強をしているわ。
あなたも早めに降参したほうがいいわよ。 弟は狙った獲物は絶対に逃さないから。
まあ、わたしとしては完璧な弟が好きな人に振り回されているのを見られて、楽しいんだけどね」
クローヴィス様にどんどん外堀を埋められている気がする。
「カトリーナはアップルパイとパウンドケーキとマドレーヌとクッキーとカヌレが好きだったよね?」
確かに私は彼の作ってくれたアップルパイと、パウンドケーキと、マドレーヌと、クッキーと、カヌレが大好きだ。
「覚えていて作ってきてくれたの?
私はクローヴィス様の手作りのお菓子なら全部好きよ」
バスケットの中には料理の他に、綺麗にラッピングされたお菓子も入っていた。
「俺もお菓子になりたい。
カトリーナに好きって言ってもらえて羨ましい」
「パウンドケーキやクッキーは食べ物よ……」
「そうだね。
俺はカトリーナに食べられるよりも、カトリーナを食べる方がいいな」
私を食べる……?
その意味を理解して、私の頬に熱が集まる。
「真っ赤になってかわいいね。
まるでりんごみたいだ」
「もうからかわないでよ」
「からかってないよ。
俺がカトリーナを大好きって気持ちは本当だよ」
クローヴィス様に手を握られた。
「まだ、男の俺は受け入れられない?」
クローヴィス様が私の髪を撫でる。
くすぐったくて変な声が出そうになる。
「そういう訳じゃ……」
女の子の格好をしていても、男の子の格好をしていても、クローヴィス様はクローヴィス様だ。
優しくて、理知的で、紳士的、お菓子作りが得意で、私のことを大切にしてくれる。
「本当に?
じゃあ今からキスしてもいい?」
「キッ……ス?!
なんでそういう話になるの??」
「嫌なら避けて、そこで止めるから」
「やっ、ちょっと待って……!」
口で言っているほど嫌じゃない。
いやむしろクローヴィス様となら……。
クローヴィス様の美しい顔が迫ってきて、私は瞳を閉じた。
クローヴィス様と私の唇が重なる。
この瞬間、自分の気持ちをこれ以上誤魔化せないことを自覚した。
好き……! クローヴィス様が大好き……!
暫くしてクローヴィス様の唇が私から離れていく。
「カトリーナ・ウェルナー伯爵。
愛してるんだ。
俺と結婚してほしい」
何度目かわからない、彼からのプロポーズを受けた。
「はい。
私で良ければ喜んで」
私はようやく本当の気持ちを口にすることができた。
「やったぁぁぁあああ!!
断られたらどうしようかと思った!」
クローヴィス様に抱きしめられた。
女装していた頃と違い、彼の体にはしっかりと筋肉がついていた。
そういえば、クローヴィス様のお姉様が「弟は女装をやめてから体を鍛え始めたのよ。好きな人を守れるように強くなりたいんですって」とニマニマしながら教えてくれたっけ。
「いくら私でもキスを受け入れておいて、プロポーズを断ったりしないわよ」
「本当に?
じゃあもう一回キスしてもいい?」
「……うん」
私はコクリと頷いた。
「カトリーナ、口を開けて……」
「えっ……?」
クローヴィス様に顎をくいっと上に持ち上げられ、その後舌を絡めたキスをされた。
二回目でディープ……!!
長いキスのあと唇を離すと、お互いの間を銀の糸が引いていた。
「ク、クローヴィス様……!」
ディープキスするならするって、最初に言ってください!
こ、心の準備が……!!
「うんごめんね。
次からは先に言うね」
そう言ったクローヴィス様は上機嫌で、多分次からも予告はなさそうだな……と思った。
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