第7話「がっしりとした……」




その次の日。


私はアデルをカフェに呼び出した。


普段、アデルは私の呼び出しに応じることはない。


だから彼を餌で釣った。


「来月はアデル様のお誕生日でしょう?

 明日、私の指定する場所にいらしてくだされば、あなたの望むものを買ってさし上げるわ」


私がそう言ったら、翌日アデルは餌に釣られてホイホイやってきた。


「早く買い物に行くぞ!

 暇なお前と違って僕には予定が詰まっているんだからな!」


カフェに入ってきた時からアデル様の態度は高圧的だった。


予定って、どうせ異母妹とのデートでしょう?


「それなんですが、ごめんなさいアデル様。

 私このあと予定が入ってしまったの。

 だからあなたと一緒に買い物は出来ないわ」


「ふざけるな!

 お前が俺のプレゼントを選びたいと言うから、仕方なく俺は来てやったんだぞ!」


「ですからお詫びに、お金だけ置いて行きます。

 これで好きな物を買ってください」


私は金貨の入った袋をアデル様に手渡した。


「こ、こんなにいいのか……?!」


袋を開けたアデルは、袋一杯に詰まった金貨を見てにやにやしている。


彼がスリにお金を盗まれたり、無駄遣いをしないように、彼にはこっそり監視兼護衛をつけている。


「ええ、このお金で好きな物を買ってください」


「悪いな!

 ありがとう!」


アデル様は私への礼もそこそこに店を飛び出して行った。


これで準備は整った。


このあと二人が、私の計画通り高級ホテルを予約してくれればいいのですが。




☆☆☆☆☆




数日後。


学園中庭にあるガゼボ。


「クロリスやったわ!

 ミランダとアデル様が、彼の誕生日の翌日から二人きりで旅行に行くと言い出したわ!」


「こっちもゲルラッハ子爵令息からホテルに宿泊の予約が入ったと連絡が来たわ!

 やったわねカトリーナ!

 これでゲルラッハ子爵令息からも、ミランダ様からも、父親とその愛人からも解放されるのよ!」


「嬉しすぎて、家で笑いを堪えるのに必死よ!」


家では自分と婚約者が卒業旅行で行く予定だったホテルに、異母妹と婚約者が行くと知ってショックを受ける姉を演じている。


私はクロリスと手を取り合って、くるくると回った。


「きゃっ!」


浮かれていた私は、木の葉で足を滑らせて転びそうになる。


「カトリーナ、しっかり!」


そんな私をクロリスが支えてくれた。


私はクロリスに抱きしめられる形になってしまった。


華奢に見えたクロリスの体は、意外とがっしりしていた。


見上げるとクロリスの整った顔がすぐ近くにあって、彼女の紫水晶の瞳が私を見つめていた。


「ごめん……!」


私は慌ててクロリスから距離を取った。


クロリスに「カトリーナのお嫁さんになら、なってもいいよ」と言われてから、つい彼女のことを意識してしまう。


彼女の顔を見てドキドキしてしまうときは「クロリスは女の子」と何度も頭の中で唱え、心臓を落ち着かせている。


「計画がうまく行ったらまた相談してね。

 ゲルラッハ子爵夫妻やゲルラッハ子爵令息がごねるようなら、腕利きの弁護士を紹介するから」


「うん、ありがとう。

 その時はまた相談させてもらうね」


私はお昼休みが終わるまで、クロリスの顔をまともに見ることができなかった。





☆☆☆☆☆




そんなこんなで、計画通り異母妹とアデルは二人きりで旅行に出かけ、これまた計画通りにホテルでことに及んでくれた。


クロリスの協力もあり、異母妹とアデルが不貞を働いた証拠(使用済みのシーツも)も手に入れた。


クロリスが腕利きの弁護士も手配してくれた。


これであとはアデルとの婚約を破棄し、用済みになった異母妹を父と父の愛人と一緒に伯爵家から追い出すだけ。


アデルとの婚約破棄は卒業式の翌日、伯爵家で行おうと計画していたのだが……。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


少しでも面白いと思ったら、★の部分でクリック評価してもらえると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る