第3話「モラハラ婚約者と盗み癖のある異母妹が、浮気をしている現場を目撃してしまった!」
私は頭を抱えながら、アデルが待っているというガゼボに向かった。
しかしそこには「婚約者様をいつまで待たせるんだ!」と怒りちらしている、いつものアデルはいなかった。
アデルは満面の笑みを浮かべ、異母妹と仲睦まじくお茶を飲んでいる。
私はとっさに物陰に隠れ二人の様子を窺った。
私の勘が告げている……異母妹を利用すれば、アデルとの婚約を解消できるかもしれないと。
私は物陰に隠れ、二人の会話に聞き耳を立てた。
「伯爵家に君みたいな可愛い子がいるなんて、今日まで知らなかったよ」
「あたしもお義姉様の婚約者が、こんな素敵な人だなんて知りませんでした。
アデル様を初めて見たとき、王子様かと勘違いしちゃったくらいです」
「やだなぁ、そんなにストレートに褒められたら照れるよ。
それにしてもどうして僕は今まで、君を見たことがなかったんだろう?
カトリーナの口からも、妹がいるなんて聞いたことないし……」
「前妻とお義姉様に意地悪されて、あたしとお母様は市井での暮らしを強要されたんです」
「それはさぞ辛かっただろう!」
「でも先の奥様が亡くなって、お母様がお父様と再婚したので、堂々とこのお屋敷で暮らせるようになりました。
今身に着けているドレスとアクセサリーも、お父様に買って貰った物なんですよ」
「君のその桃色の髪と瞳に、そのレモンイエローのドレスはよく似合っているよ」
「うふふ、嬉しいです。
偶然ですがこのドレス、アデル様の瞳の色と同じですね」
「君みたいな愛らしい子に、僕の瞳の色のドレスを着てもらえて嬉しいよ」
異母妹が今着ているドレスは、使用人が間違えて注文して一度も着なかったドレスだ。
婚約者の髪や瞳の色のドレスをまとうのは、「私はあなたのもの」という意味がある。
アデルの瞳の色のドレスなんて気持ち悪くて着れない。
切り刻んでハンカチにして、教会に寄付しようと思ってクローゼットの奥にしまっておいたのだ。
あれだけは異母妹に盗まれても、一ミリも惜しいと思わなかった。
「でもお義姉様ったら酷いんですよ。
あたしがお父様から買って貰ったドレスを、『自分の物だから返せ!』って言ってあたしを泥棒扱いしたんです!」
「それは酷いな!
カトリーナの奴、地味で不細工なだけじゃなく心まで醜かったのか!」
「アデル様はあたしの為に怒ってくださるんですか?」
「もちろんだ!
君みたいな可愛い女の子に意地悪するなんて許せない!
今度会ったら僕がカトリーナをとっちめてやるよ!」
「嬉しいわ! アデル様!」
「ああ、地味なカトリーナではなく、君のような清楚で可憐な子が僕の婚約者だったらよかったのに……!」
「あたしも伯爵であるお父様の血を引いています!
お義姉様の代わりに、あたしがアデル様の婚約者になってあげる!」
「そうもいかないんだ。
カトリーナと僕の婚約は亡き祖父が決めたものだからね。
両親がカトリーナとの婚約の解消に応じてくれないんだ」
「可哀想なアデル様、愛してもいないお義姉様と結婚しなくてはいけないなんて……!」
「僕の為に泣いてくれるのかい?
ミランダはなんて優しい子なんだ!
わかった!
カトリーナとの婚約を解消して、君と婚約できるように努力してみるよ!」
「嬉しいわ! アデル様!」
「だが直ぐには難しい。
何故か僕の両親はカトリーナのことを気に入っているからね。
簡単には奴との婚約を解消できない」
「ならどうすればいいの?」
「君はカトリーナにされた酷い仕打ちをノートに書き留めるんだ。
泥棒の濡れ衣を着せられたとかね。
ノートがいっぱいになるまで、カトリーナの悪事を書き溜めたら、僕の両親に見せよう。
両親だって、ノートいっぱいに書き溜められたカトリーナの悪事を見せられたら、カトリーナに対する見方が変わるよ」
「ノートいっぱいにお義姉様の悪事を書き込む……時間がかかりそうだわ」
「心配いらないよ。
カトリーナは嫌な女だからね。
奴の悪事なんて直ぐにノートいっぱい集まるさ」
「そうね」
「その間は秘密の恋人関係を楽しもう」
「秘密の恋人関係……なんだかロマンチック」
「まずは二人で庭園を散策しよう」
「素敵ね」
二人は手を繋ぎながら、ガゼボを去っていった。
伯爵家で堂々と手を繋いでおいて、どこが秘密の関係なのかしら?
二人の会話は突っ込みたいところだらけだったが、ひとまず置いておこう。
アデルとミランダが恋に落ち、子爵夫妻に内緒で浮気をする。
私にとってはアデルとの婚約を解消する、またとない口実ができた。
しかもアデルの浮気ならアデルの有責で婚約解消、いや婚約破棄ができる。
子爵家から今までの精神的苦痛に対する慰謝料をふんだくる、またとない機会だわ!
父と父の愛人と異母妹の三人を死の荒野や、灼熱の砂漠に捨ててこなくても済みそうだ。
さっそくアデルの浮気を子爵夫妻に報告を……。
いやだめよ! 早すぎるわ!
手を繋いだくらいでは、浮気の証拠としては弱すぎる!
また子爵夫妻に「アデルはカトリーナの妹と仲良くしようとしただけよ」「カトリーナがアデルを愛しているのはわかるが嫉妬は良くないな」とのらりくらりと躱されてしまう。
アデルとミランダの浮気の決定的な証拠、つまりは二人が肉体関係を結んだ証拠を押さえなくては!
キスなんてぬるいものではなく、二人がホテルでイチャイチャした証拠を押さえるのよ!
それまでは二人を泳がせておくわ!
二人が肉体関係を結んだら、その証拠をしっかり押さえてアデルの有責で婚約を破棄して、子爵家からがっつり慰謝料をふんだくってやる!
それまではミランダのノートがいっぱいにならないように、大人しくしておきましょう。
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