第5話 インフィニティ・ディリューティッド-技名?

 毒使いになりました。


 うん、まあウソではないけど正確でもないです。

 会社で毒劇物管理者になったというだけで、元から必要があれば毒物も使いますし。

 でも、せっかくなので今日は毒のお話。


 毒物学を語る時に忘れてはならない偉人がパラケルスス。オタク的には賢者の石やホムンクルスの生成にも成功した錬金術師のイメージが強かったりしますが、リアルには医学に化学を持ち込んで医薬品を作りはじめた人。

 彼の残した名言として、

「全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ」

 というのがあります。

 これは現代においても真理。よく健康情報で「〇〇は体に良くない! 発がん性がある!」なんてのが出回ってますが、量について書いてないのは大体ガセ、というか実質あまり意味がないと思っていいです。害がないわけではないけど、普通の生活では害になるレベルまで摂取することがほぼあり得ないとかね。

 逆にいうと、たいていのものは一部の情報だけ抜き出すと危険な物質に見えます。

 これの有名例がDHMO。ただの水なんですが、化学名としてジヒドロモノオキサイドと呼ぶと知識が無い人には正体不明の化学物質。そこに酸性雨の主成分だとか、がん患者の腫瘍から発見されるとか、パンとDHMOを与えていた囚人にパンだけを与えるようにすると異常にDHMOを欲しがるとかの危なそうな情報だけ与えるとなんだか危険で規制すべきものに思えてくるわけですね。

 個人的にはソディウムクロライドもありだと思いますね。ソディウムが日本では使用しない単語なのが高ポイント。

 ソディウムクロライドは種々の病気の原因になり、死亡者も多く報告されています。歴史的にも、犯罪組織によりソディウムクロライドが密売された例や、国家が統制して厳しく管理してきた例が多数見受けられます。しかし、現在の日本では野放しに近く、WHOからも警告を受けているのですが、誰でも容易に致死量以上の入手が可能な状況が続いています。

 ……正体がわかった方はコメントへどうぞ。


 そんなこんなで思いついたのが標題の技?名


「くらえ、インフィニティ・ディリューティッド・ポイゾナス・ガス!!」

 博士がバルブをひねると、ホースの先からモクモクと白い煙が噴き出てくる。

「くくく、これは揮発性の劇物をガス化したのちに無限希釈したものだ。これを吸って、平静で居られるかな?」

「くそっ、みんなの健康にはかえられん。退くぞッ!」

 なんだか妙にホワイトみを感じる幹部の号令に従い、敵組織は速やかに撤収した。

「あのー」

「どうしたね、助手くん。ガスマスクなんぞ着けて」

「むしろ、着けなくて良いのかを聞きたいんですが」

 助手の疑問に博士は呆れ顔で講釈をたれる。

「メタノール蒸気を100倍希釈する動作を30回繰り返しただけのガスだぞ。メタノール含有量は検出限界以下だし、理論的には1分子も残っとらん。量も聞かずに発がん性物質を規制しろと言うような連中には心理的効果があるようだが」

「え、じゃあ、あのモクモクしてたのは?」

「湯気」

「湯気っすか……」

 なんでそんな意味のない湯気が用意されていたのかは、聞かぬが花だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る