来界者《フォールナー》リュウトの異世界遍歴 ~勇者の息子の最初の仕事は、女子寮の雑務係でした~
しょぼん(´・ω・`)
第一巻:勇者の息子、女子寮に墜ちる
プロローグ:勇者の息子、異世界に転移する
プロローグ:絶体絶命?
──「リュウト。また、逢える?」
──「うん。きっとまた逢えるよ。元気でね!」
──「……うん!」
涙ぐみながらも俺に笑ってくれた、白銀の髪をした小さな
彼女と別れたあの日の事が、ぼんやりと頭に浮かんだのは何故だろう?
でも、凄く懐かしいな。
最近すっかり忘れてた、異世界ディアローグから迷い込んだという彼女。確か、名前は……思い出した。そう、エスティナだ。
今頃彼女はどうしてるんだろう?
あれから十年以上経ったけど、見違えるくらい成長したんだろうか?
まあ、異世界に帰っちゃったし、もう逢えはしないだろうけど……。
ぼんやりと、そんな事を考えていた俺は──。
「キャァァァァァァァァッ!」
っという、耳をつんざく女性の悲鳴に、思わず飛び起きた。
目に飛び込んだのは、ぱっと見六畳一間くらいの小さな部屋。
ぬいぐるみなんかも置かれた、どこか女の子らしい部屋にあるドレッサーの前には、悲鳴の主らしきパジャマ姿の美少女が、ブラシを手にしたまま怯えた顔で俺を見つめている。
長い銀髪に、線の細い顔立ち。
笑えばきっと可愛いだろうな……って、違う違う。
この子は誰だ? それに、ここは一体……。
少しぼんやりしたまま、ちらりと横を見ると、目に入ったのは壁に掛かっている姿見に映る、座ったままの俺の姿。
ややぼさっとした黒髪に、黒の学ラン姿。
間違いない。さっきまで出かけていた時のままだ。
ゆっくり周囲を軽く見渡すと、内装や家具も、やっぱり何処か女の子らしさを感じさせる。
でも、さっきまで俺は外にいて、こんな部屋に入った記憶なんて、さっぱりないんだけど……。
ぼんやりそんな事を考えた時、俺の頭で急に何かが結びついた。
もしかしてここ、彼女の部屋なのか?
だとしたら、何で俺はこんな所にいるんだ!?
突然現実に気づき、パニックになっていた俺は、次の瞬間はっとすると、思わずその場から飛び退いた。
そこに投げ込まれたのはブラシ。それが、俺がさっきまでいた床で跳ね上がる。
「へ、変態! 来ないで! 近寄らないで!」
「ちょ! 待った! 危ない! 危ないって!」
間髪入れず俺を襲ったのは、彼女が投げつけてきた化粧品や本。
反射的にそれらを避けているうちに、俺は反対の壁に追いやられてしまう。
そして、壁に背を付けた直後。
ばんっという音と共に、俺の脇に見えた扉が勢いよく開いた。
「先輩! どうかし──」
ドアを開けた張本人であろう、長い黒髪をポニーテールで束ね、手に
瞬間。その子は言葉を失った後、みるみる顔を真っ赤にし、怒りの表情が満ちていく。
……えっと……この状況、どうすりゃいいんだ?
「あ……その……どうも」
どうしていいか分からず、ひきつった笑みを彼女に向けちゃったんだけど。
瞬間、鬼の形相をしたその子を見て、俺は火に油を注いだって事に気づいた。
ドアの向こうから顔を出した野次馬の女子達も、大半は穢らわしい物でも見るような、冷たい目でこっちを見つめてくる。
「この変質者め! 先輩に何をした!?」
両手で剣を構えた黒髪の少女。その刀身がギラリと光る。って、それ本物かよ!?
「い、いや。何も、してないけど……」
今にも斬りかかってきそうな雰囲気に、俺は混乱した頭で何とか言葉を返すと、両手をあげたままじりじりと部屋の窓際の隅まで後退してしまう。
ドレッサーにいた子も、その場で立ち上がると両腕を伸ばし……は?
『魔力の素よ! 空気を燃やし、炎となれ!』
は? おいおいおいおい!?
今の詠唱、
突き出した腕の先に、すっと浮き上がった炎。
強く主張するその熱量は結構な威力──って、感心してる場合じゃねえ!
大体ここ、部屋の中だろ!?
こんな狭い場所で
一瞬呆気に取られた俺は、慌ててその現実を受け入れる。
「な、何が目的なの!? 答えて!」
突然の質問に、俺は未だ混乱しながら必死に答えを探す。
えっと、目的……目的……いや、目的ったって……。
「えっと、その……いや、特にはないっていうか、不可抗力っていうか……」
「そんな言い訳が通用すると思うか!」
しどろもどろになった俺に、剣を構えた美少女が強く反論する。
いや、まあそうなんだけど。そんな事言ったって、俺だって急にここに飛ばされて──そう! それだよ!
「思い出した! 俺、急に異世界からここに飛ばされたんだ!」
俺は咄嗟にそう真実を口にした。
何でここが異世界と分かったのか。
それは、さっきの術の詠唱があったからだ。
あの子が唱えたのは下級魔術、
そして俺は、その術が存在する世界を知っている。
異世界ディアローグ。
その世界こそ、この魔術を使う者達が存在する。それはまず間違いないはずだ。
そして、俺が住んでいる世界はこことはまったく別の世界だって分かっているからこそ、今経験している状況こそ、異世界転移だって理解できたのさ。
……まあ、だからなんだって話なんだけど。
実際、俺の答えを聞き、二人は露骨に白けた目を向けてきた。
「まったく。またこの言い訳か」
黒髪の少女が、呆れるようにため息を漏らし。
「い、異世界詐欺になんかに、騙されるわけないでしょ! いい加減にして!」
と、銀髪の女子もそう、強い言葉で否定してきたんだけど……。
「い、異世界詐欺!?」
「そうだ! その程度の言い訳で、我等が情に絆されるとでも思ったか!」
予想外の言葉に俺が呆気にとられると、黒髪の女子も同調し俺を咎めてきた。
いや、この世界でも異世界転移がちょこちょこあるのは知っている。
実際に父さんが経験してるんだから。
けど、異世界詐欺って何だよ!?
そんな話題が出るくらい、今は異世界転移が大流行りなのか!?
そのパワーワードは、俺を更なる動揺に誘うのに十分過ぎた。
そのせいで、俺は必死に訴える気持ちすら吹き飛んでしまう。
いきなり絶体絶命。
こんな危険な状況だし、無理矢理窓を割って外に出たり、入り口を力ずくで強行突破する選択肢もあったと思う。
でも、別に彼女達が悪いって話じゃないし、誤って彼女達を傷つけちゃったら悪いだろ。
とはいえ、突然のこの状況はどう見てもこっちが不法侵入者って感じだし、このままじゃ手詰まり。
ったく。一体どうすりゃいいんだよ……。
──この時。
俺、
散々両親から聞かされてきた、少しは憧れもあった異世界転移。
人生で初めてそれを経験している俺は、このまま最速で、その人生を終えるんじゃないかって。
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